2024/3/12
今日見た夢の話。
暗い破滅の影が、ずっしりと僕の背中にのしかかっていた。もう二度と上がることのないかのような冷たい雨が、窓の外で音もなく降り続けていた。サークルの会室のソファに横たわり、僕は重い眠りについた――
話し声が聞こえる。一人は付き合いの長い見知った先輩の声で、もう一人は誰かわからない、活発な女の子の声。二人は会室で楽し気に談笑していた。僕はまどろみの中で笑い声を聞いている。眼を閉じたまま、ソファのなかで。
起き上がろうとする。身体が重い。力が入らない。瞼を開こうとする。重く、上がらない。二人は談笑し続けている。僕の努力への反応がないのを見るに、僕の身体はちっとも動いていない。
僕は思い出す。バイト先の塾に向かわなければならない時間だ。起き上がらないと!時間がゆっくり過ぎていく。身体が重い。僕は懸命に起き上がろうとする。瞼を押し上げると、半分だけの光が僕の半身をぼんやりと浮かび上がらせる。僅かばかりの力をなんとかかき集めて、上体を起こそうとする。少しだけ起き上がって、しかしすぐ力が抜けて元に戻ってしまう。瞼をを押し上げる力も緩む。そうやって何度も体を起こそうとしているうちに、二人が僕が起きていることに気が付く。二人はたぶん僕の方を向いて、僕について話している。笑い声が聞こえる。話題は僕を横切って、すぐ元の軌道に戻ってしまう。僕は何度も挑戦を続ける。急がないと!
瞼が開きかけては閉じる。起き上がりかけては元に戻ってしまう。何度やっても、僕は頭の中でそうしているに過ぎないことに気が付く。起き上がりかけているのは、頭の中での僕の身体のイメージに過ぎず、実際の身体はずっしりと重く横たわり続けている。開きかけた瞼から入る光もイメージに過ぎず、実際は僕はずっと目をつむったままだ。僕は現実を掴もうとして、イメージだけを掴み続ける。イメージが僕を欺いて、現実の重い身体だけが取り残される。時間は過ぎていく。もう遅刻の時間だ。今から向かっても間に合わない。僕はイメージをかき分けて、その奥の現実の身体になんとか手をかけようとする。そうやって僕は何度も空を掴む。
もう授業が始まっている時間だ。僕は諦めかける。かさばるイメージの手前の重たい暗がりのなかで、僕は密かに安心する。ここなら大丈夫だ、と思う。安心感から抜け出そうと、現実の身体を動かそうとする。少しだけ起き上がったのは、現実の身体か、それともイメージに過ぎないのだろうか。顔を知らない女の子が楽しそうに話しているのが聞こえる。彼女はどんな人だろう?話題は再び僕に近づいて、二人が僕の身体を見ているのがわかる。頑張れ、と、冗談交じりに二人が言う。僕は懸命に起き上がろうとするが、何度やっても身体が元に戻ってしまう。それともイメージに過ぎないのだろうか?
僕は焦る。二人に言う、起こして、起こして!僕の口からはわずかな声しか出ない。起こして、起こして!二人が和やかに笑っている。頑張れ、頑張れ。起こして、起こして!
目覚ましが鳴る。軽くなった身体を起こして、僕は同じ会室のなかで眼を開く。部屋には誰もいなかった。
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