大橋 雨下

うかと読みます。イラストと小説を書いています。

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  • 短編小説集

    短編小説をまとめています。切実な感情を丁寧に拾いたいと思って書いています。

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短編 紙で折った天使は空に散る

 お前の身体は、紙からできているんだろう。人間のふりなんかしたって意味ないよ、僕の目はごまかせない。春が来たらどうなるか、僕にはわかってるんだ。紙製のお前はこちらを振り返った拍子に、春風にその軽い身体を巻き上げられて、腰のあたりから真っ二つに折れ曲がってしまう。そしたらどうなる? だらしなく地面についたそのゆびさきは、水たまりから雨水を吸い上げる。そしてなす術もなく、見る見るうちに鏡の向こうの世界へとくずおれてしまうんだ。僕がお前を助けようとして、焦ってうっかり爪を立てようも

    • 短歌ZINE「やさしくない祈り」

       2018年に制作した短歌とドローイングのZINE「やさしくない祈り」を全ページ公開いたします。  短歌7首、ドローイング7点(表紙含む)それぞれにトレーシングペーパーをかけた作品です。よかったら最後まで見ていってください。  こちらはBOOTHにて現物を通販しております。  販売しているものを全ページ無料で公開した理由は、この本の価値は実物の紙の本にあると考えているからです。トレーシングペーパーの手触りや、光に透かしたときの視覚体験に価値を見出していただける方にお買い

      • 短編 ままごと

         語りすぎはからだに良くないね。今朝も彼は、あたたかい畳の上で、すでに口癖になったその台詞を繰り返す。今朝とは言っても、もうかなり日が高い。障子を開け放しているので、七月のかんかん照りの太陽が、布団に寝転ぶわたしたちのだらしない格好を世界中に暴いているかのよう。この中庭に面した書斎には女中さんすら滅多に入ってこないのに、「ほらわたしたち、いま【自堕落】をやっています!羨ましいでしょう?」ってひけらかしているような気分になる。  この場所では、何もかもがばかみたいに白い。強烈

        • 短編 骨まで美味しくお召し上がりいただけます

           金魚の骨を見たことがある。しかも、それは自宅の水槽の底に沈んでいたのだった。  当時わたしはおかっぱ頭の小学生で、金魚を四匹、飼っていた。縁日ですくってきた子たちだったので、揃いも揃って小ぶりで、一様に目の覚めるような朱色の身体を持っていた。それでもわたしはどうしても見分けをつけたかった。それで、わずかな体格差を頼りに小さい方からハル、ナツ、アキ、フユと名付けた。一旦名付けてしまうと、自分が昨日よりひとまわり誠実な人間になったような気がして安心したのを覚えている。わたしは

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