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【詩】生を享く

春の陽差しに顔を向ければ

熱いくらいに暖かな光が まぶたを通り抜けてくる

水面はきらきら輝いて 無数の波紋で葉を揺らす

夏の大きな入道雲も 秋の寂しい夕暮れも

冬の寒さも 舞い散る雪の美しさも

ずっとずっと昔からこの星にあって

わたしが死んだ後もずっとずっと

厳しく優しく巡り続ける


じぶんという人間が この世に生を享けた日から

じぶんの体の大きさのぶんだけ わたしはこの世を占めている

たったそれだけの ちっぽけな存在なのに

目を瞑り思いを馳せさえすれば

わたしはどこにでも行けるのだ

宇宙でも北極でも深海でも 雨ひとしずくの中にでも

わたしは在ることができるから

体で知覚した記憶をよすがに

地表にあふれるたからものを 享受することができるのだ


人というのはどこにでも行けて

なににでもなれる生き物で

じぶんの体の大きさよりも

広く大きく 夢を見られる


楽しいものも美味しいものも

美しいものも優しいものも

一回生きたくらいでは経験しきれないくらい

この星のいまに満ち満ちていて

わたしはまだ生まれ出づる前の無数の子どもたちのために

痛みや苦しみの掃き溜めを

消して回って歩きたい


みなさんどうぞこの星へ

いいことたくさんありますよ

さいしょに見つけるたからものは

手のおやゆびかな あんよかな

それとも風かな お日様かな

きっと 抱っこしてくれる大きな人の

ぬくもりとやさしい眼差しだ


しっかり暖まったあなたは

世界でも未来でもどこにでも行けて

なににでもなれる生き物で

祝福されているのだから

絶望したら、思い出して

あなたは 望まれて ここにいると

あなたは確かに 世界のすべてに望まれてここに生きていると


そうして生きて暮らしたあなたが

やがて永遠の眠りに就けば

あなたの思いは痕跡となり

あなたのからだは塵となり

ずっとずっと巡って行く

これまでの人たちの心身が

みんなそうしているのと同じようにね

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