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ドイツ歌曲の楽しみ Freude am Lied㊴

生のコンサートでは“今まさにここで生まれる音楽”を共有していただける喜びがあります。その時間を1曲1曲切り取って“今まさに”のひとかけらでもお届けできたら!とお送りするドイツ歌曲の楽しみ Freude am Lied…

39曲目もシェーンベルク!…ひとかけら、届くかな?

アルノルト・シェーンベルク Arnold Schönberg(1874-1951)作曲
キャバレーソング Brettl-Liederより
ギガレッテGigerlette
                ソプラノ 川田亜希子 ピアノ 松井 理恵

ギガレッテ嬢が
ぼくをお茶に招いた。
彼女の衣装は
雪のようだった。
 
まったく女道化師のように装っていて、
例えお坊さんだって、彼女を見れば
きっと気に入るだろう、
誓ってもいいさ。
 
それは赤い部屋だった、
彼女がぼくをまねきいれたのは。
蝋燭の黄色い光りが
その部屋を照らしていた。
 
そして彼女はいつものとおりに
生き生きとエスプリにあふれていた。
けっして忘れるもんか、けっして
部屋はワインのように赤く、
彼女は花のように白かった。
 
そして4頭立ての馬車を走らせ
僕らは出かけた、二人きりで。
快活という名の国を
訪ねに。
 
手綱を取り損なって
道や行き先を見失わないようにと
この気の荒い4頭がひく馬車の後ろには
アモールがすわっていた。

ドイツの小説家オットー・ユーリウス・ビーアバウム (Otto Julius Bierbaum,1865-1910) の詩による。

 ピアノパートの弾む音型はウキウキとした気分。この男性はようやっと意中の女性ギガレッテのお家に入ることを許されたのでしょう、歌の各フレーズの最後の引き延ばしは「羨ましいだろう?」と誇らしげに響きます。続くフレーズは彼女の素晴らしさに感嘆してスーパーレガートで歌われます。すぐまたウキウキのリズムが戻って、気持ちが定まらないくらいドキドキしていることが伝わってきます。「お坊さんだって惚れるに違いない」という件ではキャバレーソングらしい風刺が見て取れますね。このウキウキのリズムとスーパーレガートのフレーズのパターンは1~3番で繰り返されます。2番の部屋の中の様子は、男性の少し緊張した目線で歌われています。赤い部屋、黄色い蝋燭の明かり、そして白い衣装のギガレッテ嬢…。きっと男性の目にはチカチカと眩しく映ったことでしょう。3番では戸外に2人で出かける様子が歌われます。ウキウキのリズムも最高潮に弾みます。この恋が実りますように…と馬車の後ろにはちょこんと(アモール)キューピットが座っている!という結びです。後奏は宙に浮いて走り去る馬車に乗った二人を見送るように華やかに響きわたります。
 キャバレーソングとはいえ、初々しい恋の始まりの爽やかさが吹き抜ける曲です。この曲を歌うとなんだか勇気が湧いてきます。恋でも何でも、“はじまり”はいいですよね。フレッシュな風が皆さんにも吹きますように…

キャバレーソングについては前々回の『ドイツ歌曲の楽しみ㊲』を参考にしていただければと思います。


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