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ドイツ歌曲の楽しみ Freude am Lied㉘

生のコンサートでは“今まさにここで生まれる音楽”を共有していただける喜びがあります。その時間を1曲1曲切り取って“今まさに”のひとかけらでもお届けできたら!とお送りするドイツ歌曲の楽しみ Freude am Lied…

28曲目もマーラー!…ひとかけら、届くかな?

マーラーGustav Mahler(1860-1911)作曲
若き日の歌 第3集 Lieder und Gesänge aus der Jugendzeitより
別離 Scheiden und Meiden   
                ソプラノ 川田亜希子 ピアノ 松井 理恵

三人の騎士が馬を駆って門の外へ走り去っていった
さようなら!
かわいこちゃんが窓からそれを見送っていた
さようなら!
別れなければならないというのなら
私に金の指輪をくださいな
さようなら!
まったく別れて遠くなることのなんて辛いこと

ゆりかごの中から既に別れが始まっている
さようなら!
一体いつになったら恋人ちゃんができるんだろう?
さようなら!
それが明日でないのなら、ああ、今日であってほしい
そうだったら私たち二人とも物凄く嬉しいだろう
さようなら!
まったく別れて遠くなることのなんて辛いこと

 詩は前回と同じく、2人のドイツの詩人、アルニム Achim von Arnim(1781 - 1831)とブレンターノ Clemens Maria Brentano(1778 - 1842)が収集したドイツの民衆歌謡集『少年の不思議な角笛 Des Knaben Wunderhorn』の中のもの。

 まるで火事を知らせる警報機のようなけたたましいトリルから始まる前奏は別れの時を告げるサイレン。騎士が馬を駆るリズムが後に続きます。歌に挿し込まれる「さようなら Ade!」はまるで合いの手のように響き、歌い手は1人なのにバックコーラスがついているようです。真面目に“別れ”を語っていたかと思えば「指輪をちょうだい!」と開き直ったり、「人は別れるために生まれてくる」と歌っては、「恋人がほしい!」と女々しくなったり…。この躁鬱のような感情の入れ替わりは、頻繁にある長調と短調の突然の入れ替わりでも表現されていますね。「別れて遠くなることの Scheiden und Meiden」の極端な強弱の変化もしかり、まるで酔っぱらってくだを巻いて人に突っかかっているようにも聞こえます。そして最後は「どうせ別れるのなら、それまでの時を楽しまなきゃ損よ!」と言わんばかりに大盛り上がりして終わります。
 マーラーが活躍した時代は世紀末ウィーンと言われています。これはまさに“世紀末”の様相を表現した曲と言えるのではないでしょうか?本来なら“別れ”とは暗く悲しいものなのに、ここまで陽気な音楽を付曲しているのです。世紀末の不安をかき消そうとしているかのようです。世紀末…。つい20数年前の20世紀末のこと、皆さんは覚えていらっしゃいますか?「おどるポンポコリン」が歌われていた時のことです。この珍妙な現象とも言える楽曲を「世紀末音楽だ!」と音楽史の先生がおっしゃっていたことを思い出します。このマーラーの「別離Scheiden und Meiden」にも同じエネルギーを感じるのは私だけでしょうか?私だけかな???


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ドイツ歌曲の楽しみFreude am Lied㉕の最後にマーラーについての解説があります。よろしければご参照くださいませ。
https://note.com/utauakiko/n/n39f7c85085fe



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