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Prominence

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詩・散文詩の倉庫02
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#夏

賛歌

賛歌 ダダ漏れのDark Matter 鉛色の重力   ―—街を歩いてもアスファルトに走る無数の    亀裂から滲み出てくる闇を見つめるだけだ―—  ああ この皮膚がすべて剥がされても     感じているか?  動いている 動いている 闇の中で 蠢く者がいる   おう 耳孔で劣化ウラン弾が爆ぜようとも   聴こえているか?    無限に遠く 無限に近い   闇の中で 囁く者がいる 押し黙った孤独な獅子の心音を聴く どこか森閑とした場所で 赤ん坊がむずがっている 夜の

悪魔とモリー

立て簾を尻からげ 西日から遁走する ポンコツ食堂 って何のこっちゃ 真白いうどんを まさにいま啜りつつある 丸い背中と脊柱の軋み 頸椎の湾曲と パブロフの猫舌 畢生の大仕事として つるつるつると 一本ずつうどんを啜る その生きざまは 哀しくも喜ばしくも べつに無いですが 向かいのテーブルの 爺さんは何ゆえ はよ食わんかいワレと 歯抜けた顔で笑うのか 放っといてくれ フーフーフーと ダシを冷ましつつ この脳裏には アメリカ五大湖周辺と 中西部の荒野に ハイウェイの光景 モーター

海と即興

海が 挫滅する 群青色した 海が 挫滅してゆく 錐もみ状に 圧搾されて きらびやかに 弾ける 海の果肉 総天然色のNoise   決して来ることのない 終末の周りを 永劫回帰する潮流 死者が蘇る 静謐な海に 巻き起こる Milford Gravesのパーカッション びっくらした! イルカと太刀魚が エレクトするたびに   海は 群青色の濃さを 増してゆき 僕らは ゆったりと撓む水平線の 胸に抱かれることを 夢見てしまう   湾岸の礼拝堂の 微笑む聖母像の下で 君と僕はまだ青い

八月

 1 八月の夜空に煌めく星達は、朝を迎えると鳥になって森に果実を探しに来る。鳥達はそれぞれ色の付いた声で囀りながら、樹々の枝から枝へ飛び移り、自分の星の光と同じ色の果実を見つけては啄ばんでいる。例えば赤い果実を啄ばんでいるのは蠍座のアンタレスだった鳥というふうに。やがて鳥達は果実の成分の働きによって無数の光の矢に変わり、はるか遠くの草原を目指して、巡行ミサイルのように丘陵地の地形に沿って飛んで行く。               2 草原に飛んで来た光の矢は、着地するなり光の

プロミネンス

いつも既に記憶だった夏の日に 俺は裸体を晒した少年少女達と 沖合を鳥が群がる海を見たかったが だれひとり気付かぬうちに 海原を舐めて広がる火の言葉に焼かれた 熱気だけが渦巻く無音の嵐に 真夜中の街路樹の果実は金色に弾け 白昼の都市はあらゆる場所で錯乱した 見ろよ水平線を 待ち焦れた空を 天空の片隅に鳥達を追いやって 西から東へ視野いっぱいに 燃え上がる紅炎のアーチ 星々が何億年も語り継いできた 青白い水母のような蜃気楼を 無数の真っ赤な蛇の舌で メラメラと焼き尽くすプロミネン

季節

ぼくは還ろう 蒼白く光る星座が 漆黒の弦楽に導かれて 黄道をゆっくりと巡り 月が幾つもの朔と 潮汐を繰り返すあいだに 遠ざけられた道標を 一つ一つ燃やしながら かつてぼくは わらべ唄のなかの 幼い五月の女王様が 微笑みながら差し出してくれた 清々しい風を頬に受けて 恩寵のように きみに恋をした 夏になると 有頂天のぼくには 太陽から深紅のアーチ形をした プロミネンスが燃え上がるのが視えた 磁気嵐と強風に 深緑の樹木がざわめき 窓ガラスが音を立てて揺れても それは季節からの