掌編 告白

 

 ここだけの話なのですが、私はストーカーです。

 まずはあなたが、夜遅く部活を終えるのを待って、疲れていないか確認して、機嫌が悪くないか確認して作戦決行、やっとそこで偶然を装って話掛けます。

 あなただけに話し掛けると、私がストーカーだということが、バレてしまいますので、普段はクラスの誰とでも仲良くしている振りをします。分け隔てなく、満遍なく色んな人とお喋りします。まるで自分には沢山友達がいて、あなたもその中の一人みたいに思わせます。社交的に見せる作戦です。

 あと私はお喋りが好きで、毎日私のペースで話し掛けると、あなたを疲れさせてしまいますので、長めに話し掛けるのは、一週間に一回くらいと心掛けてます。週に一度の楽しみです。

 だけれど、たまにあなたから話し掛けてくれたりすると、胸が高鳴り、話過ぎてしまいます。疲れさせてしまいます。

 あなたのことには、なんでも興味があります。知りたいと常々思っておりますが、嗅ぎ回られるのは、気味が悪いことと思いますので、程々にしております。

 だから私はストーカーのくせに、あなたのことを何も知りません。あなたの気持ちを何も知りません。

 私の見たことのないケロイドだらけの心根を、私の知らない場所で、私の知らない誰かに見せているのかと思うと、やっぱり妬いてしまいます。

 いつも、今日だって絶望の淵に立ったあなたを颯爽と救う妄想をして、一人でニヤニヤしているのですよ。なのに私の手は届きません。何故なら私はストーカーだからです。影から見ているだけの気持ちの悪いストーカーです。醜いストーカーなのです。身の程は弁えております。

 虚栄はぼろぼろと崩れ落ち、枯れ果てた涙は眼球の裏で腐って異臭を放ち、言葉さえもろくに話せず、目は節穴で大事なものを見失い、人知れず私は、いつの間にか、そんな汚く醜い化け物になっておりました。

 どうか醜い私を見ないでください。嫌われたくありません。

 近づかないでください。異臭がします。

 触らないでください。あなたまで汚れてしまいます。

 話しかけないでください。未来を期待してしまいます。

 お慕いしております。お慕いしております。お慕いしております。

 私は余程この気持ちを手放したくなかったのでしょう。これを供養しようと思い立ったその刹那、とても胸が痛みました。願わくば、あなたもどうか失われゆくこの子が、浮かばれるよう、線香を一本上げてやっては、くれないでしょうか。

 私の大切に育てた、醜くて愛おしい思いです。