掌編 デートからエッチまで

 今日はどこ行きたい? って聞いたら、「ホタルが観たい」ときた。いい歳した僕たち私たちは、笑ってしまうくらいに少年少女だった。

 車で三十分、定光寺にあるホタルの里、ホタルより人のが多くて、なんだか凄く滑稽な気もするが、彼女は僕の汗ばむ掌を強く握って、夢中で宙を漂う微かな光を追い掛けた。

「結局、ちょっとしか見えなかったね」

 行きは下りの、帰り道。全身汗だくになり、息も絶え絶えな僕らは、缶ジュースを買い駐車場に停車する車内で一息。彼女は浮かない顔で、売店で買ったホタルのキーホルダーを人差し指の腹で撫でる。その指先がなんだかエロくて僕は生唾を飲む。

 彼女が先ほどまで強く握っていた僕の手は、ジンジンと今まさに疼いて、ずっと前から、ホタルの次は、ホテルでしょ! って気分である。

 ここで一つ問題がある。お恥ずかしい話ではあるが、僕と彼女は交際をしていない。たまたま二人で遊ぶ話になっただけである。唯一の接触は、先ほど彼女に手を握られたのみである。これがファーストボディタッチ。

 されど今日は彼女から誘ってきたのだ。二人で会うのはこれで三回目である。そろそろ脈があるのだと思いたい。

 彼女は僕のことをどう思っているのであろうか。もしかしたら男女の友情とか、そんな眉唾な都市伝説を頑なに信じているのかもしれない。

 しかしだ。しかしである。ここは正直に言わせて頂こう。この僕はエッチなことがしたいのだ。

 どうそこへ持ち込めばいいのかは、知略と勇気が試される。当たって砕ける覚悟があるならば、ストレートに髪とか撫でて、ちゅーでも迫ってみれば一番良いかもしれないが、嫌がられたら僕泣いちゃうし。

 そう思ったら身体が自然と熱くなり、僕は車の窓を開ける。風が足りない。辺りの景色をチラ見して、なけなしの勇気を振り絞る。

「なあ、一緒に写メとらない?」

「いいよ」

 あっさりとオッケー、彼女は前髪を軽く直し、僕の肩に頭を乗っけてピースサイン。僕はiPhoneのインカメを起動する。

 このあっさり具合に、もしかして僕ら、もう付き合ってるんじゃなかろうかと、錯覚してしまう。彼女の頭からシャンプーの香り。

 もしかしたら、彼女は僕のことが好きなのかもしれない。僕のことを狙っているのかもしれない。しかしお互いそれを試す術はなく、間違っていたら、それは酷く恥ずかしいのだ。

 こんな時、こんな硬直状態を打開するのは、遥か古来より殿方の仕事と決まっている。

 勇気を出そう。これが運命の分かれ道である。息切れしたらその場で負けだ。

「よっしゃ、もう一枚撮ろう。今度はちゅーして撮ってもいいかな?」

 これでイエスならホテルへゴー。ノーなら飲ませた後にホテルへゴーだ。

 ひひっ。