掌編 ボクっ娘らーめんガールともぐらくん

 きみのことは見損なったよ。もぐらくん。 

 いいかい? 何度もぼくは言ったはずだよ。 

 ラーメン屋さんとはカウンター席こそ至高であり美学。狭いぎゅうぎゅう詰めの店内に、取材拒否の頑固な店主。そして長い行列と三位一体なんだ。 

 それをなんだい? テーブル席ならいざ知らず、お座敷だって? 嗤わせないでくれたまえ、もぐらくん。ぼくは断固そんな物をラーメン屋さんだなんて認めない。 

 確かに子供連れのラーメンフリークには、ありがたいかもしれないが、見てくれたまえ。ぼくらは二人だ。ぼくらのどこに子供がいるというのだ。もちろん今後一生きみとは子連れのラーメンフリークになるつもりなんてないよ。 

 おいおい、怒ったのかい? もぐらくん。怒りたいのは、否、泣きたいのは、こちらの方さ。きみはラーメン屋さんという物を履き違えてるよ。ぼくら二人だってベタベタ馴れ合いでラーメン屋のカウンター席に肩を並べているわけじゃないんだよ。ラーメンとは、芸術であり尊い物であるべきなのだよ、もぐらくん。その良し悪しを嗅ぎ分けるもぐらくんのことを買っていたのだよ。失望させないで欲しい。 

 不満そうな顔だね、もぐらくん。うん。ごめんぼくも言い過ぎた。ここは水に流してお互い大人になろうではないか。 

 え? 先日は自分でお座敷のラーメン屋に行きたがったじゃないかって? 待ちたまえ、もぐらくん! あ、あれは……そう、ラーメンではなく、中華料理の気分だったのだよ。そう、お座敷のあるところはラーメン屋というより、中華料理屋。……納得いかない?  

 あ! ちょっとまて、何をするんだもぐらくん。やめたまえ。 

 やめて。いや。 

 脱がさないで。やめて。ごめんなさい。くすぐったい。お願い! それ以上脱がさないで。あん。らめぇぇぇ。お母さーんお父さーん助けてー。 

 ……べ、別に靴下に穴が空いてるから、お座敷が嫌ってわけじゃないのだよ。そんなことより早く靴を返してくれたまえ、もぐらくん。