ホオズキをあなたに。 ムサ男

薄暗い部屋。
息を切らし合う男女。
一定のリズムと不定期にベットの軋む音が響く。
「愛してるよ。」
「俺も愛してる。」
俺は、彼女に嘘をついた。
「ねぇ。大好きだよ。」
「ああ。俺も大好きだよ。」
俺は彼女に、また一つ嘘をついた。
俺が狂うほど愛し、愛おしさでおかしくなるほど大好きだったのは。彼女ではない。

俺が、愛していたのは……。

ーーーーー

大学一年の春。僕は君に出会った。
サークルで出会った二つ上の先輩だった。
どうやって知り合ってどうやって仲良くなったのかは正直覚えてない。
ただいつのまにか好きになっていた。

ちょうど夏に季節が変わり始めた時期に、君と僕は付き合った。
楽しかった。休日に映画に行ったり。手を繋いだりしていた。
夏が終わる頃には君は僕にとって欠かせない人になっていた。

紅葉が見られる時期になると君は頻繁に僕の家に訪れるなり、
僕の家に君のものが増えていった。ほぼ、半同棲と化していた。
一人暮らしなこともあり、イチャイチャも増えた。
毎晩夜遅くまでうちにいて泊まってくことも増えていた。
この頃からだろう、本格的に僕の心を君が蝕んできたのは。

乾燥した冷たい空気や、白い雪がまるで世界を覆うかのように降った冬。
僕たちは互いの体温を、愛を感じていた。暖かかった。優しかった。
君と知り合って一年が経とうとしていた時期に君と最高に楽しい時間を共有していた。
この頃にはもうすでに僕は君のものだった。

はずだった……。

ーーーーー

大学二年の春。
君は僕の前から唐突に消えた。
LINEをしても電話をしても反応はなかった。
共通の知り合いにも聞いてみた。
知り合いも何も知らないようだった。
君は行方不明だった。

夏。僕は、いや俺は病んでいた。
悲しかった。寂しかった。辛かった。
大学は休んでいた。
君の友達が心配して俺の家までやってきてくれた。
身長は君より小さく体型は少し大らかで君とは似つかなかった。
後から聞いた話だがこの友達は俺のことが好きだったらしい。
俺は君の友達に手を出した。
暑い夏。エアコンの効いた寝室に君の友達と2人。
君とも何度も愛し合ったとこで。
愛し合ってる時は少し楽だった。

秋。去年より乾燥していた。
夏から秋にかけて俺は沢山の子を抱いた。
君と愛し合った寝室で他の子を抱いている時だけは君を感じることができているような気がしていた。
また少しだけ楽になっていた。
この頃から大学にも、また行き始めていた。

冬。もう何人の子を抱いたかもわからなくなってしまっていた。
大学には完全に復活して、サークルも参加した。
そのサークルで出会ってしまった。
君によく似た……。

ーーーーー

君の妹は君によく似ていた。
君からよく話だけは聞いていた、すごく愛されているようだった。
実際に、君の妹と会うのは今日が初めてだった。
君と、本当によく似ていた。

君の妹はチョロかった。
去年同様サークルでは新入生歓迎会及び飲み会が行われていた。
俺は君の妹に話しかけた。
君のことを聞いた。
やはり何も知らなかった。
正直言って予想はついていた。
もう君は俺の前には現れてくれないのだろうと。
だから俺は狙いを変えた。君の妹だ。

話しかけた後はとても簡単だった。
2人で抜け出さないと誘いそのままホテルへ向かった。
久々だった。
いつも寝室で抱いていたから君とよく行ったホテルに来たのは一年ぶりぐらいだった。
君の妹は何から何まで君に似ていた。
顔と体は君より少し幼くて声も少し小さかった。
耳が弱いとこも、短いキスが好きなとこも似ていた。
俺は君の妹……彼女と付き合うことにした。

ーーーーー

今年で彼女と付き合って大体二年が経った。
今日も愛し合っている。
それでも俺の頭から君が離れてくれない。
どんなに似ていても彼女は彼女で君ではない。
それでも未だ付き合って愛し合っている。
君を感じているような気持ちになれるから。

「愛してるよ。」
「俺も愛してるよ。」
君のことを。
「ねぇ。大好きだよ。」
「俺も大好きだよ。」
君のことを。
彼女には悪いが俺のことを好きでいてくれる間は君の代わりとして付き合ってもらおう。
そう思っていた。
俺は愛し合ったあと急激な眠気に襲われた。
まるで睡眠薬でも飲んだ時のような感覚だった。
だけど聞き逃さなかった。いや、聞き逃せなかった。
彼女の衝撃的な一言を。

「愛してるよ。だからお姉ちゃんみたいに…………私に殺されて?」

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