窓越しの世界・総集編 2017年2月の世界
2/1【選択のループ】
毎日、選択をしている。
食べ物、飲み物、買い物、着るもの、生活にまつわること。
言葉。気持ち。
選択のループ。
2/2【未来的】
行き場のない私たちの前に、カタカナのくたびれた看板。
内装や照明は、レトロというか未来的。
昭和が見ていた未来は、今まだ未来的。
2/3【63年間】
3年ぶりのフリーウェイ。
カリフォルニアらしくない曇り空に沈む夕日が、なんだか日本の景色を見ているようだけれど、背の高いヤシの木がそんな気持ちを搔き消していく。
シミバレーで待っていたのは、63年間アメリカで暮らしたエアストリーム。
2/4【渡米の目的】
雨のロングビーチ。気温は梅雨どきの日本のよう。
ピックアップトラックの往来する港の風景。
貨物列車も荷捌きのために忙しなく、しかしゆっくりと往復を繰り返している。
2台のエアストリームを日本へ見送ると、渡米の目的は果たされた。
明日の予定は白紙。
2/5【また来ればいい】
丘の上で頼りないジャンプを反復する野うさぎ。眼下のラグナビーチは高波警報。轟音とともに波が砕けた。
気になっていた彼方の黒い雲が悪い予感通りの動きをみせ始めると、美しいサンセットを予感させていた海の輝きはみるみる翳り、まるで高原にでも来たかのような肌寒さに変わってしまった。
分厚い霧の向こうに沈む太陽は、どんな色をしているのだろう。
またいつか来ればいい。
2/6【くよくよ】
夕焼けに富士山の輪郭が浮かぶ。今朝目覚めた国は、もう真夜中だろう。
長いフライトでフラフラだった。
機内への忘れ物。レコード2枚と、本。
ラグナビーチで買った思い出の品。くよくよ考えても仕方がない。
2/7【くよくよしない】
13時間睡眠で、時差ボケ解消。
昨日問い合わせた忘れ物は、発見されず。
くよくよしないで呑みに出かける。
2/8【どこへ向かうのか】
道がそれ始めるのが見えた時、すぐに戻そうとしない方がいい。
きっと同じ道には戻れないから、歩みを緩めて考える。
それてしまった道がどこへ辿り着こうとしているのかを。
2/9【いいのだけど】
雪はみぞれに変わり、夜には雨に変わった。
ぶりの煮付けも、大根の柚子オリーブオイル和えも、大豆と昆布と人参の酢のものも、しみる夜。
食卓のランプに、スタンドの明かり二つが灯っている。
本当はレンジフードのライトも、流しの蛍光灯もつけておくのが好きだ。
廊下の明かりや、洗面台もつけっ放しの方がいい。
いいのだけど。
2/10【それがいい】
夜の食卓にカレーの香り。
すこし冷えたご飯に、目玉焼きも添えてある。
油揚げにばかり塩分が染み込んでいるけれど、それがいい。
2/11【毎年おもう】
この日だけは、必ず休みを取って、どこかに出かけられたら。
毎年そんなことを思う。
今年も電話だけで、ごめん。
2/12【焙煎につぐ焙煎】
爆ぜる音に耳をすませる。
パスタでいうアルデンテを作るときの感覚と似ている。
焙煎につぐ焙煎。
2/13【裁縫】
道具箱は昔のままで、大切に使われてる。
布切りバサミも、チャコールペンも、待ち針もそろっている。
家庭科の宿題のごとく、ミシンを踏む。
コーヒーネルをひたすら。
2/14【その気になれば】
晴れたり、曇ったり、雨が降ったり。
目まぐるしく変わる坂道を下りきると、それからはずっと晴れていた。
なんの為に故郷をはなれたのか。なんの為に今の生活をしているのか。
その気になれば、なにもかも元どおりにできる。
その気になれば。
2/15【渋谷】
スカイツリーを右手に見る夕方の外環自動車道。都心を迂回。山手通りの地下に入るとGPSも挙動不審。はたと気がつくと次の出口は五反田。
山手通りを戻り、西郷山公園の脇を旧山手通りに抜ける。
道玄坂を下りきるとスクランブル交差点の人の多さに、軽い衝撃。
集い、群がる。
2/16【指の記憶】
コーヒースタンドで流れていたのは、何年も前にカバーしていた曲。
思い出そうとギターを手にしてみても、指は忘れている。
歌いながら弾き始めると、指がついてくる。
信号待ちの車内では、今日もその曲。
2/17 【忘れ物】
忘れ物した時というのは、清々しい。
なす術のない状況にひれ伏し、降伏し、潔くいける。
ラップトップPCを忘れただけのこと。
2/18【交差点】
その赤信号は、道路標識のようには簡単に色を変えない。
譲り合い、どれだけの交通整理が行えるだろうか。
それぞれが抱く「思い」や「気持ち」の交差点。
2/19【そう思った】
ふと気がつくと、公園の木々の向こうでは今日の終わりの灯火が始まっていた。
あまりにも美しいコントラストに、カメラを構えた。
あまりにも不意に、心を揺さぶられる夕焼けを見て「私もそんな風にありたい。」
そう思った。
2/20【得をした気持ち】
突然の雨粒に、そらを仰ぐ。
青空からは太陽の光。頭上に雨雲は見当たらないが、少し遠くに黒みがかったそれが見える。
天気雨に出会う時、私はなんとなく得をした気持ちになる。
2/21【始めないリスク】
とにかく、やってみる。
そうやって生きている。
始めるリスクより、始めないリスクの方を、私は考える。
2/22【この世界は】
米国の大統領、この国の総理大臣について、たくさんの人間が論じ批評を繰り返す。
私はそれを聞きながら、豆を焼いている。
バチバチと爆ぜる音が始まると目前の豆の顔色ばかりが気がかりで、世界情勢など耳に届かなくなる。
私にとって鬼気迫るものは、豆の焼き具合。
この世界は、そんなものの集まりだ。
2/23【答えの輪郭】
時間が経ってみないと解らないその答えは、少しずつ輪郭を帯びてきて、いつのまにかはっきりとしてくる。
そんなものなのかもしれない。
タクシーを捕まえずに夜道を歩くと、風はかなり強いのにフードなしでも平気だ。
この春の輪郭も、おぼろげにつき始めている。
2/24【満足な夜】
夕食場所を探して夜の街をさまよう。
結局どこにも入る気がしなかったのは、中途半端な空腹だったからに違いなく、そのまま帰路についてしまった。
リビングに腰を下ろすと、歩き疲れた疲労と空腹がじわじわと込み上げて、居ても立っても居られない私は、夜9時を回ったあたりで近所のスーパーマーケットへ車を走らせ、鶏肉とビールを買い込んだ。
唐揚げで一杯やり始めたのはもう10時を回っていたが、アマゾンプライムで映画観賞をしながら満足な夜を過ごしていた。
2/25【失敗の渦中】
問題を前にして、しばらく考え込む。
答えが出る前に取り組み始めると、何度か失敗する。失敗は誰にも知られず積もって行く。
積もって言った失敗は、やがて答えを導いてくれる。
いつまでたっても私は問題に飛び込んで、今も失敗の渦中にいる。
2/26【私よ】
その繰り返しから、離れて行くための毎日を送っているつもりだったが、このままでも悪くない。
そんな気持ちも生まれている。
そんな気持ちは、やがてまた遠ざかるのだろう?
私よ。
2/27【対価】
対価について、いつも考えている。
私は珈琲を焼いたり、録音技師をしたり、音楽を演奏したりする。
様々な対価について、いつも考えている。
2/28【喜びの最中】
店を閉めて車を走らせること10分。
漆黒の森に浮かび上がる巨大なホームセンター。換気扇と大量の木材をカートに積み込み、レジへ並ぶ。
焙煎室の完成へ向け、毎日少しずつ進む喜びの最中。