窓越しの世界・総集編 2019年9月の世界
9/1【アルコールの役割】
寝起きの感覚も懐かしい。
体が重くて、その重みを持ち上げて、1日が始まる。
眠りが深いのか、夢の中と現実との乖離が大きい。
夢と現実の境目を埋めるのがアルコールの役割だったりして。
9/2【トトの寝相が変われば】
外へ出ると夏がぶり返していた。
どことなく夏の始まりの日のような、まだゆとりのある暑さだった。
自転車を漕いでもジーパンと肌の摩擦に汗ばむ不快さはなく、スタジオに着くまでそれは保たれていた。
もう夏は行って、次のシーズンが始まっている。
夜になって、日中の熱を帯びたままの部屋からベランダへ出ると夜風が心地いい。
トトの寝相が変われば、もう秋だ。
9/3【善にも悪にも】
自分の感覚を人に押し付けてはいけない。
そのムードで死んでいった感性たちがどれだけあるだろうか。
伝えたいという気持ちも、押し付けるという言葉でかたずけられてしまう。
同じ事柄も伝え方一つで、善にも悪にもなるだろう。
9/4【送り届けること】
一人、また一人、送り届ける。
それぞれの住まいに、届け、見送られて、1日が終わった。
僕は送り届けることが好きだと思った。
9/5 【時は金なり】
何をどうしたって、お金がかかる。
子供の頃、いつかの文集に書いた好きな言葉は、「時は金なり」だった。
何も知らない子供の僕は、いったい何を考えていたのだろうか。
本当に、時は金であり、そこから離れるには、時を埋め尽くすほどの金を手にするしか無いだろう。
9/6【順応】
久しぶりに自分の車に乗る。
加速もハンドルも重い。冷房の効きも良くないし細かい調節も効かない。
小一時間走ると、その感覚が普通になってくる。
感覚というものは順応する。
9/7【思いがけない1時間】
高いところから空を眺めるとまだ西の空で夕焼けが終わりきらないけれど、
街に降りればすっかり日は落ちているだろう。
不意に花火の音がしてベランダへ出ると、正面に花火が打ち上がっていた。
音がしてから20秒以上も遅れてくるので、多摩川のあたりで打ち上がっているのだろうと、
地図を広げると、その通りだった。
思いがけない1時間にもわたるショーを楽しんだ。
ビールがあればな。
そんなことは少しも思わなかった。
9/8【何かの前触れ】
光が遮られて大雨が降り、また晴天がぶり返す、異様な一日。
目を疑うような進路で台風が突撃して来ていた。
暴風域に入ると今にも窓カラスに何かが飛び込んできそうだった。
目が覚めて台所の電気をつけると、トトも察知いているらしく、窓から離れたテーブルの上にちょこんと座っていた。
こんな台風。何かの前触れでなければ良いが。
9/9【約束の前に】
次々にくる「遅れます」というメール。
交通機関は乱れていた。
僕は3時間前に家を出ていたから余裕ではあった。
前に前に、前もって前もって。なかなかできることでは無いが、良い方法がある。
約束の前に、自分のだけの時間を作ること。
そのために早く家を出たのだ。
決して世の中の状況を考慮したわけでは無い。
9/10【ありのままでよかった】
僕は今日、とりあえず役者になった。
でも、それは僕のありのままでよかった。
僕は僕では無い者を演じたけれど、そんな気は全くなかったのだ。
9/11【ギターの音色も季節も】
恐る恐る声を出してみる。
疲れてはいるが、大丈夫だ。
できるだけ鼻から息を吸って、湿り気を喉にやろう。
夕方に地面に突き刺さる雷を見た。
雨が上がって風が変わって、虫の声がした。
扇風機を切った。
ギターの音色も、季節も、変わった。
9/12【経験というものの醍醐味】
闇雲の中に光を見ながら、見えなくても目をこらしながら。
今はまだ見えない存在があることをイメージして感じながら。
見えないものが見えてくる実感は、見えないものがまだまだあるのだという想像を与えてくれる。
経験というものの醍醐味。
9/13【快適さもまた】
トトが膝の上に乗ってくると、そういう季節だ。
夜になって外へ出ると、もう肌寒かった。
なおさらビールにも手が伸びない。
昨日までは汗だくになっていたこの部屋の、窓からの風が冷たくて、窓を閉めた。
録音のプレイバッックも快適に聞ける。
音楽は時間を与えたり、奪いもする。
快適さもまた、同じ。
あっという間に時間が流れる。
9/14【エラーの質】
今日思い立ったことを、今日やる。
今やりたいと思ったことは、今やる。
そうやってなんども失敗してきた。中途半端になっていることもたくさんある。
しかし、それを続けていると、だんだんと内容が追いついてくる。
トライの蓄積はエラーの蓄積。
一生エラーを起こすのだろうが、エラーの質が変わっていく。
9/15【肌がサラサラ】
なんとなく肌がサラサラしている。
暑さが引き、汗ばんでいないだけではないかと思ったのだが、体が変わってきたような気がして体重計に乗った。
ここ数年見たことのない数字にまで体重が落ちている。
ここ1ヶ月、アルコールは缶ビール1本だけ。
9/16【今の僕を、僕は好きだ】
少しだけと思い横になるも、気がつけば朝。
朝といってもまだ仄暗い。
インディゴ色の空の色が本当に美しく、それによく映える真白い月がこうこうと輝いている。
眠気以外は淀みのない体。
音も、匂いも、感覚も。
あの日の僕は、まだ生きているようだ。
今の僕を、僕は好きだ。
9/17【酒を控えていた頃と】
気に入ってはいるが喫煙者のたまり場のような喫茶店。
止むを得ずそこを選択することになったのだが、入り口に張り紙があった。
10月より全面禁煙になるそうだ。
執筆をする場所の選択肢が増える。
今日の喫茶店にいる心地というのは、なんだか15年くらい前に珈琲がが好きにになったばかりの頃と似ている。
今と同じく酒を控えていたころだ。
9/18【言葉を追いかける感覚】
雨が上がって涼しい夕方が訪れた。
相変わらずビールに手が伸びない。代わりに牛乳が飲みたくなる。
1日に1本は消費していたのも15年前のことだ。
新曲を2つ同時進行で作ることも、いつ以来だろうか。
言葉を追いかける感覚も、どこか懐かしい。
9/19【そのさじ加減】
不機嫌に対して不機嫌になることがある。
怒りに対して怒りを覚えることがある。
優しさや、不安、愉快さ、に対しても、同じなのだ。
僕はどちらかといえば空気を読む人間で、わざと読まないこともする。
つまり、知らんぷりが必要な場面もある。
話は変わるが、スポーツマンは大体空気が読める。
そして状況に応じて空気を変えることができない選手は、試合には負けるのだ。
空気を読めるということは、空気を変えられるということ。
そしてそのさじ加減が、世界そのものなのだ。
9/20【翻弄される街】
渋谷駅のプラットホームに降りると、発展途上国でよく見かけそうな瓦礫の景色が広がっていた。
思わずシャッターを切ってしまう。
街に降り立ってから目的の場所へ行くまでも、まるで知らない街を歩いている心地で妙な気分だった。
東京にオリンピックという騒ぎがやって来るまで、東京は翻弄されるだろう。
9/21【アルゴリズム】
玄関の扉を開けると、ふと金木犀の香りがした気がしたけれど、その香しさもふっと消えた。
心が覚えているうちに想いを走らせて、頭が鮮明なうちに言葉にしてみる。
対比を描くことが、光も影も主題にさせてくれる。
その膨大な蓄積を、これから綴っていく。
9/22【言葉の持つ密度】
久しぶりに、歩けない、、という状態の一歩手前。
それでも、雨の夜を歩いた。
見晴らしの素晴らしい料理に手をつけると、腰の痛みも引いてくれるのではなかと、
そう思ったが、そんなわけにはいかず。
小さなグラスにビールを注ぎ、乾杯をする。
僕には期待も、不安もある。
そして、その言葉の持つ密度は生きた時間だけ増していくように思えた。
9/23【山ほどある】
雨を抜けると、雨上がりの道へ、雨上がりの道を抜けると、日の差す道へ出た。
腰の痛みは不思議と少しずつ和らいでいくようだった。
富士山は不思議な傘を冠にして今日は姿を表さないが、山頂の輪郭と同じ冠にその在処を明らかにしている。
富士山はいつも動かずにそこにある。その周りの景色だけが右往左往しているように見えるが、木々の芽生えや、落石、内面のマグマ、その動きはきっと、目に見えるものよりもめまぐるしく、途方もない。
ここからは見えないものが、山ほどある。
9/24【良くはなっている】
明け方、肌寒くて目がさめた。布団のかかっていない方はすっかり冷えて、昨晩の蒸し暑さはどこかへ消え、また季節が前へ進んだのを感じた。
腰が痛いので、音楽的なことは進まないが、そのかわり筆がよく進む。しかし、座りっぱなしで腰が軋む。
昨日まで、座っていることもままならなかったので、良くはなっている。
9/25【一歩一歩】
絵画のことはよく分からない。よく分からないけれど明らかに違う凄みを感じるものがある。
それは素養によって判断できるものではなく、肌で感じるオーラのような品格だ。
そういうものに、一歩でも近づきたい。そう思う僕の一歩一歩に腰の痛みがまだ走る。
9/26【英語であれば】
日本語をメロディーに乗せるという制約がなければ、メロディーというものは無数に生まれる。
たとえ英語であっても、その悩みは付いて回るだろうが日本語のそれよりも幾分ましな気がする。
英語であれば、環境問題、政治経済、、僕にはそういうものに対してのアプローチも悪くはないかもしれない。
9/27【届いてしまうもの】
横浜の朝。通勤中の人並みに紛れて、ホームレスが信号待ちをしていた。
その対比を刹那に感じ、すぐに忘れたが、氷川丸が病院船だったということ、その後客船になり、現在の観光船に至るまでのエピソードにも、交差点の光と陰、どちらが光かも陰かも実際のところ定かではないということに、胸がすくんだ。
思いなど、届けようとしたって届かない。届けるのではない、どうしようもなく届いてしまうものなのだ。
9/28【他の誰でもなく】
八重洲口に漂うのはマクドナルドの匂い。地べたに座る外国人たちに日本人の若者も紛れている。
あのバスへ乗れば数時間後には別世界へ行けると思うだけで少し胸が騒いだ。
僕はたくさんの選択肢を持っていると思った。そして、それを奪っているのは他の誰でもなく、僕自身だった。
9/29【卒業したい】
気がつくとデスク以外は真っ暗になっている。ニャーと声がして扉を開けるとトトが廊下でお待ちかねだ。
ミックス作業をしていると、やっぱり時間が水のごとくだ。早く別のことをしたいと思いながらも、自分のことなので手は抜けない。
今の僕にとって、編集作業とは尻拭いのようなもの。
そこから早く卒業したいのだ。
9/30【遠くて近い】
味付けがマヨネーズとケチャップだけのハンバーガーが、僕は一番好きだ。
子供の頃、近所の駄菓子屋で食べていたその味を忘れられない。よく、200円を握りしめて橋を渡った。
サービスエリアのハンバーガーショップに同じ気配を感じて、購入。
ガラス越しの夕日を眺めながら、一気に食べた。
あの頃と今が、遠くて近い。
9/31【いわゆる美味しさではない】
お囃子に誘われて夜の神社へ。平日の夜にもかかわらず、溢れかえる人。
缶ビールを買って飲んだが、あまり美味しく感じなくて飲み終えてから少し後悔した。
境内の隅でかっこむ焼きそばは美味しかったが、いわゆる美味しさとは違うものだ。