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窓越しの世界・総集編 2019年2月の世界

2/1【選ぶと、避ける】
知らず知らずに、避けている。

選んでいる、と、避けている、は背中合わせだ。

避けていることを、選んでいると思い込んでいること。

目を閉じて自分に問えば、すぐに分かる。

2/2【些細な旅の効果】
これまで見ていた内装風景になんとなく親近感が湧いてくる。
壁に転写してある大きな写真は、チャオプラヤー川と多分ワットアルン。

そしてレジの上の神棚に鎮座するブッダ像。
こんなところに、ブッダが座っていたことを僕は知らなかった。

キッチンにはタイ語が飛び蹴っているけれど、何か物足りないのは、匂いとか、暑さとか、なのだろうか。
テレビからこもれ聞こえてくる日本語や、大通りの車エンジンも騒音穏やかだったり、タイ人のウエイトレスも日本仕様に垢抜けしている。

グリーンカレーの辛さも控えめ。

感じ取るものの変化。

よく行くタイ料理のレストランで味わう、些細な旅の効果。

2/3【夜道】
夜道を歩いていると、僕の鼻歌に応えるように猫の鳴き声が聞こえた。

草むらから顔を出して、僕が近寄ってもそこを動こうとしないで泣き続けている。
スーパーの買物袋の中に何かないかなと思ったけれど、缶ビールと簡易鍋のセットだけで、あげられそうなものは無かった。

トトのことが頭をよぎって、それぞれの境遇について考えたけれど、途方にくれるのでやめた。

時折、何かを攻めたくなる気持ちの中で、ブッダの教えを説く父の言葉が浮かんだ。

2/4【備えとは】
朝。
春めいた空気に気を良くして、今日はマフラーをしなくても良いのでは、という思いが一寸頭をよぎる。
なんとなく騙されている気がして、やっぱりマフラーを巻いて自転車に出かけた。
スタジオに着く頃、やっぱりマフラーいらなかったかなと思った。

でも今夜、夜風がここ数日で一等冷たい。マフラーがありがたい。
家に着く頃、耳が痛いくらいで驚く。

備えとは。疑うことでもある。

2/5【瓶の蓋だって】
悪あがきをするのは、手を精一杯伸ばした指先が何かに触れる感覚があるからだ。

その感覚がなければ、そこまでできない。

触れることはできても、つかむことができない距離感。

壁と冷蔵庫の隙間に手を差し込んで、やっと届いたと思った100円玉が、
手繰り寄せてみると瓶の蓋だったり、、みたいなことが日々繰り返されている。

でも、瓶の蓋だって何かの役には立つ。

2/6【歌う感覚】
深い霧で視界の悪い道で、車幅を示す白線も見えない状態だった。

それがどうだろう、そんな深い霧の中でもちゃんと道しるべが見える。
遠くへ伸びる白線が見える。

そんな状態に変わりつつある。

歌を歌う感覚が、変わってきている。

宿題を滞りなくやってきた生徒のように、先生の目をじっと見つめ返せる。
そんな気分にも似ている。

2/7【悲劇の中の幸福】
1983年の西武球場の空気感が漂う当時の音の中に、夏の生暖かく、でもちょっと涼しげな風、
そう、多摩湖の上を吹き抜けてきたような麗しい風の気配を感じで、少し目頭が熱くなった。

当時僕は2歳。記憶はないけれど、テレビから聴こえて来るサイダーのCMは耳に入っていただろうな。
大滝さんの声を懐かしく思うのはそれだからだろうか。

スクリーンの中でツイストを踊る若者たちも滑稽に見えて、それは僕の音楽の様式だって同じことだろうなと思うんだけど、それでもいいと思った。

大滝さんはどこかで考えていたんだろうか。
アメリカに負けた日本の抱える悲劇も、幸福も。

これだけは言える。
僕たちは悲劇の中の幸福の中にいる。

2/8【1日ぶりのスタジオ】
1日ぶりにスタジオに入ると、がっくりする。
それで、ノートを見返して感覚を取り戻した。

上達している時ほど、すぐに転げ落ちる。

思い出すのは、16歳の冬。
あれよあれよと東海地区のチャンピオンになった。決勝戦は不戦勝だったけれど。。

あの朝は本当に不思議で、面白いようにサーブもボレーも決まった。
なぜそれができているのか、自分でもよくわかなかった。

その後は伸び悩んだ。僕はできている自分を見失っていった。

そしてテニスから離れた。

出来ていたことを見失った時、どうすれば良いか。
その積み重ねでしかない。

2/9【あり得ないこと】
スタジオを出るとまだ雪が降っていた。
駐車場へ停めていた車のことが気がかりだったけど、雪はそこまで積もっていなくて一安心。

ワイパーで雪をかき分けると、フロントガラスの隅に雪が溜まって、そこの視界はゼロになる。

僕の生き方にも視界がゼロのところは確実にあって、そこの見通しをつけることは至難だと想像がつく。

万能にはいかないし、あり得ないこと。

2/10【あれから】
一曲目を歌い始めると急に胸が苦しくなる。
それは発作に近いもので、レテとの空白がそうさせたに違いなかった。

あれから、あれから、と、そんなMCしか口に出なくて、
僕はその時代のことを本当に大切に思っているのだと思った。

ライブが終わって、トトと夜のドライブに出た。
長い、二人きりの、深夜のドライブだった。

2/11【人生の目的】
何気ない会話というのは、何気ない時間にしか生まれない。

贅沢で貴重な時間。

用も何もなく、ただただ時間を共有するだけの時間。

大切な人と、そんな時間を持てるようになることが、人生の一つの目的のような気がした、

母の67歳の誕生日。

2/12【幸せの証】
朝の台所が忙しいのは、幸せの証。

お昼のお弁当箱に詰め込まれた愛情にも気がつかないほど、毎日は慌ただしい。

その幸せを、いつも噛み締めているのは難しいかもしれないけれど、たまに思い出して、忘れてしまっても、その幸せを知っていられたら、幸せだと思う。

2/13【自然体とは】
ほろ酔いでスタジオに戻った僕は、もう一時間ほど歌うことにした。

預けていたギターを受け取って部屋に入る。
自然に歌ってみても、上手くいかない。

やっぱりノートを見返して、整えて行く。

自然体とは、ありのままとは違う。

自然体は、生まれた瞬間から乱れて行くものだから、僕は自然体を、取り戻そうとしている。

そしてまたいつか、ありのままに戻れたらいい。

2/14【困るのは】
風呂場に椅子が欲しい。
部屋に大きな鏡が欲しい。
録音機材のラックが欲しい。
割れている携帯の画面を直したい。

思いつくもののほとんどの欲求は、満たされなくても困るということはない。
困るのは、欲求を満たせば日々の生活が快適になったりするのを「知っている」ことだ。

2/15【回想電車】
千葉方面へ一駅、また一駅近づくたびに、記憶の階層が掘り下げられる。

向かいの座席の青年の陰りのある横顔に隠しきれない若さを見たり、ドアの窓辺にうなだれる少女の瞳に、底なしの様な、それでいて足首ほどの深さの様な、そんな泉の水面を感じたりする。

一駅、また一駅、このまま目的地を通り過ぎてしまえば、
僕は僕の忘れてしまった僕までたどり着けるだろうか。

扉が開いて、発車ベルが鳴る。

西千葉駅だと気がついて、ギリギリのタイミングでホームに滑り込んだ。

2/16【美味しいもの】
一口、また一口と飲むたびに、まだ残る昨日のアルコールが、アルコールによって薄まり、丁度良い濃度に達する。

初めて来た頃はいつもガランとしていて、それでも絶品の四川中華を楽しませてもらっていたこの店は、この5年ほどの間にすっかり繁盛店になった。

美味しいもが常にそこにあれば、それは確実に広がる。

僕はこれから、そんなふうに歌い続けたい。

2/17【主役は短命】
物を処分している。

使わないものが、少しずつ減っていく。

面白いのは、小物や小道具といった脇役はなかなか処分できない。
5年に一度活躍する工具などは、処分の対象にならず、大きなサニュレーターや、自転車、ストーブなど、主役級のものは処分の対象となる。

脇役は息が長く、およそ主役は短命。

ぎくっ。

2/18【何かが弾けそう】
梅の花のほころびに気がついた。

もう随分花が咲いていて、僕はそれまで毎日通る道だったのに気がつかなかった。

自宅を出たすぐの角に咲く梅の花。
いつもは自転車でさっと通り過ぎてしまう。

今日みたいに歩いていれば、すぐに気がつけただろう。

たとえば、僕の歌を梅の花に例えたら、
どんな人たちが僕に気がついてくれるのだろうか。

そんなふうに考えて、突き詰めていくと、何かが弾けそうな気がする。

2/19【怖さ】
全てが終わって灯りを落とすと、いつかのアパートの寝室を毎晩照らしていた街灯のように、月明かりがうっすらと部屋を明るめた。

布団の上に眠るトトを踏まないようにそっと跨いで床に就く。

月明かりの中で、ちょっとだけ怖い気持ちになったのは、僕だけが取り残された時のことや、僕が先にこの世から消えてしまったら、なんてことを思ったからで、こんな怖い気持ちになったのは、なんだか子供のころ以来のような気がして、新鮮で、しばらく布団の中で考えていても、その怖さは続いた。

今ここにあるもの全てが、危うく、儚く、尊いものだと思うほどに、そう思った。

2/20【季節の動く日】
ふと外を見ると水たまり。ちょっと生暖かくて、いや生暖かいは錯覚で、でも気をぬいて薄着をするとすぐに風邪を引きそう。
季節が動く雨だと思った。

夜の本屋は何かを求める若者たちで溢れていた。
何を求めているかわからずに、求めるものを求めているような、そんな僕みたいな人も沢山いるに違いなくて、居場所がないようで、居場所がある、都会の距離感があった。

家に帰ってストーブに当たっていると、ある瞬間、急に風が強くなって、雨が止んで、
深夜になると昨日みたいに月明かりが眩しすぎずに部屋に差し込んできた。

季節が動いていた。

2/21【よそ行きの顔をした月】
スタジオの機材を自宅へ運び込み始める。録音するときは、持っていけば良いのだからと。
ずいぶん前からこうすればよかったのだけれど、気持ちと状況の問題。

自分の歌を録音や、配信する時期が近づいている。

相変わらずゆっくりとしか進まないけれど、やることは一つだから。
ざっと、これまでの5年くらいが半年ほどで進むだろう。

入間を車で出発してしばらくすると、東の空に大きな月が出ている。規格外に大きな月。
何度経験しても同じようにドキッとして、神秘的なその姿に心を打たれるのは、様々な顔を持つ月の中でも、一番おおきくで、ちょっと恐ろしくて、輝きというよりは目玉焼きのような生暖かさと、決して自分では輝くことのできない深い寂しさを感じるからだろうか。

たくさんの荷物を積んだ僕の車が都会に近づくにつれて月は見えなくなった。
今夜も遅い時間になったら、また寝室を照らすだろう同じ月には思えないくらい、よそ行きの顔をした月だった。

2/22【音を見る】
決定的に違う響のことを考えていた。
逆立ちしても届きそうもない響のことを。

目に見えない音を見ること、感じること。
そこで何が起こっているのか、知ること。

見つけないと始まらないし、始めないと見つからない。

2/23【仮説】
昨日の仮説に取り組む。
あれも違う、これも違う。

同じ声なのに、操り方一つで全く違う。
そんなにも繊細なものならば、きっとどこかに答えはあるだろう。

スタジオでの時間は水のごとく流れ、同じ時間という単位とは思えないほど、
あっさりと流れる。

暗い部屋の扉を開けると、留守番のトトが玄関で唸るように鳴いて迎えてくれる。
テレビをつけて、鍋をこしらえて、今日はおしまい。

2/24【トトと僕の全て】
ノートがぐちゃぐちゃだ。
体の中も一進一退。

今日は今日なりの糸口をみつけ、スタジオを後にする。
今夜は夜風が冷たい。

お土産の干物を焼いていると、トトがグリルの中を見つめている。

じっと見つめる気持ち、良く分かる。

トトの全ては、今ここにある。
僕の全ては、倍音研究にある。

2/25【うなぎが食べたい】
そろそろ深夜3時。
早く寝なければと思いながら、たくさんのボーカルを聞き比べている。

今夜もスタジオで試行錯誤だったが、聞こえる特異な響きは見えているのに、そこにたどり着けない。
まさに藁にもすがる思いで掴もうとするけれど、まるでうなぎでも掴んだかのような心地だ。
掴んだ瞬間に、手からすり抜けていく。

明日も、明後日も、きっと、うなぎを掴む心地なのだろうか。
こんな時間に、なんだか無性にうなぎが食べたい。

2/26【理屈を離れるための理屈】
笹倉慎介の歌声紀行~グラミー賞が獲れるまで~

そんなブログを立ち上げることにした。
これから知りたいことは未知の領域だから、書くとこと伝えることで、より自分に染み込ませようと思う。

なりたい声になる。
どうしたらなれるのかが、分かってきた。

文系ではなく、理系を選んだ最大の理由は。
そこにロジックがあるからだった。

理屈じゃない、そう言いたいから。
理屈を知りたいんだ。

2/27【設計図とワイン】
バイヤーがチリから買い付け!
スーパーマーケットの一角にある、そんなうたい文句の安い赤ワインを買った。

チーズと赤身の牛肉も買って、深夜の歩道をてくてく歩く。

昔から設計図が嫌いだった。
プラモデルも、設計図を見ないで作り始めた。
結局途中で諦めてしまった。

僕は多分、設計図を作り上げる方が向いていて、
いつのまにか、僕自身の歩みが設計図じみたものになってきていて、今も練り上げている途中。

ワインを飲んで、少し酔ってしまった。

2/28【懐かしい雨音】
雨が降っているのに、鼻がムズムズする。

この隙間風の入るサッシにも、あと十日もすれば内窓が入る。
今年の花粉対策は、窓から。
エコで快適な暮らしは、窓にある。取り付けはもちろん自分でする。

気のいい大家さんがお金を出してくれて、そうなった。
ここでの暮らしは少し長くなりそうだ。

冬のピンとした空気が和らいで、この窓から富士山のよく見える日も減ってきた。
いつのまにか開け放していても、平気な寒さのほどになっている。

今日は日光浴のできないトトが、僕の膝の上で眠る午後。

この雨音が懐かしい理由を、僕は知っている。

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