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窓越しの世界 2022.5.23~6.18

5/23【初体験】
目を開くと額に刺さった針がぼやけてそびえている。

副鼻腔に効くというので刺した針。人生で初めての針。

ギター弾きすぎの左手も、針でスッと楽になった。

初体験は、やむをえずに潜む。

まだまだ、潜んでいる。

5/24【お金】
一番信じているものは?

そう聞かれたあの日、お金と答えた。ごく最近のことだ。

それが、信用なのか信頼なのか、または信愛なのか、そこまでの議論はしなかった。

信じるもの、その全てに君臨するのがお金ではないだろうか。

君臨するというか、癒着を免れられない、形があるけれど、姿が見えないような感覚。
さまざまなものに変換が可能なアイテム。

それがお金。

しかしそれはある時、一番疑わしく、災いをもたらしたりもする。

一番大切なものは?という質問だったら、お金ではないんだけれど。

5/25【あぁ、懐かしい】
朗読をしながら眠る。

真新しい歌詞と、指先の動きが、どちらもまだ仲良くしてくれない。

眠りに落ちる寸前まで、言葉を復唱する。

あぁ、懐かしい。受験勉強ってこんな感じだった。

5/26【魔術】
スタジオで目が覚めてから、いつものように朝の公園へ。
茂みのベンチにはもう藪蚊が徘徊を始めていて、慌てて移動。

芥川の魔術の続きを読み終えた後、綻んでいた心が少し紡がれる。

再びスタジオに戻る途中で、この心持ちが昨晩一滴も呑んでいないということの巧妙ではないか?などと疑ったあたりで、僕にも魔術を習う資格はないのだと思った。

5/27【生きている実感】
大渋滞の表参道で搬入前から既に消沈する心を遠く眺めながら、もう一人の僕が奮闘する。

今日のスタッフやメンバーと顔を合わせると、そこから明け方までは一足飛びに時間が流れた。

大きな大会に向けて準備をする高校生の僕の後ろ姿が見えたし、試合ではなかなか決まらないファーストサーブの記憶が微かにチラつく。

生きている実感が、別のベクトルから僕を照らしていた。

5/28【本当によかった】
明治通りの朝日は初夏に向かっている。
立体駐車場から車を出して井の頭通りに入る。

そうか今日は土曜日。
再びの大渋滞。

スタジオに荷物を運び込んでもまだ元気がある自分に少し驚く。
大粒の通り雨に打たれたり、公園の沢の流れを見ているだけで、何かが回復するのを確かに感じていた。

今日が気持ちいい天気で本当によかった。

5/29【そんな存在】
久しぶりに家で朝食をとる。
トトは最近一緒に寝てくれない。いつの間にかそんな季節が始まっている。

何をどう転んでも、トトはここにいる。

そんな存在が、ありがたい。

5/30【久しい】
朝の公園で日常と再会する。

日常は僕に優しいままだった。

相変わらず汚れている公園のベンチをそのうちピカピカにしてやろうと思って久しい。

5/31【へだててて】
空想物語を受け入れるということは、そのまま現実を受け入れるということだ。

ありのままを受け入れることに変わりはない。

そこに理由や解釈を紛れ込ませる切替の方法を知れば、生きることが少し楽になる。

6/1【三往復】
食事と、風呂に入りに自宅とスタジオを三往復の日。

夜風が濡れた髪に心地よく、スタジオを通り過ぎコンビニへ。

電気ブランと共に音の編集を始めたけれど、体が休息のシグナルを出してくるので怖くなって帰る。

6/2【ああ、日常】
今日はサウナに行きたい。そう毎日呟いて数週間。

やっと行けた。

水風呂から上がり、天を仰ぐ。

ああ、日常。

6/3【ある程度回復したら】
一週間ぶりにギターを弾く。

声もようやく普通になりつつある。

この疲れがある程度回復したら、また積み上げるターム。

6/4【それが曖昧な時】
自分のためなのか?

相手のためなのか?

それが曖昧な時は、口を閉ざす。

6/5【それではない】
譜面は見ない。

目覚めた瞬間にそう思ってスタジオへ急いだ。

ステージの上で対面していたいのは、それではないから。

6/6【才能の姿】
才能と実力。

才能と運。

才能と努力。

才能は誰にでもある。
組み合わせ次第で、才能という姿が見えてくる。

6/7【時の消費】
4分を作るのに、数十時間を費やすことをしている。

10秒を作るのに、数十年かかることもある。

焚き火に薪をくべるとき、燃え尽きていく木片もかつて土と繋がっていたことを思い出そう。

6/8【渋谷】
今年という年は、人生で一番渋谷に来ている。

僕たちが年老いた頃、今の地表は地下に眠ってしまうらしい。ほんとに?

でも、いつか思い出すあの頃が、今、なのだと思う。

打ち合わせ、サウナ、季節料理。

6/9【時と場所が運んでくる】
録音が終わり夜風と共に街へ出た。

スタジオでは交わすことのない話。

言葉は、時と場所が運んでくる。

6/10【時という衣】
もどかしさ。

解消しないほうがよいそれがある。

今は解決しないことに、時という衣をそっとかける。

おやすみ。また会おう。

6/11【どちらもあるのだ】
口は出すまいと、心に決めていたこと。

良かれと思うことと、仕事を進めたいという思い。

どちらもあるのだ。

6/12【助言】
要になる助言をするならば、最後まで口は開かないほうがいい。

自分の意見というものに蓋をして、何を彼らが求めているのかに耳を澄ます。

何度も、押し殺し、押し殺しても、口をこじ開ける強さと責任の響きが訪れるまで。

6/13【選択肢】
アプリでタクシーを呼ぶ。5分で到着するらしい。

予約から3分以内ならキャンセルできるらしい。

今通り過ぎるタクシーがあればそれに乗り、予約をキャンセルできるということだ。

短かすぎる時間の中に選択肢がありすぎる。

選択肢につかれる。

6/14【体】
2日間のリハーサルを終えた体。

筋力をつけなければと痛感する。

来週は社会に出て初めての健康診断。

6/15【健在】
神谷バーで待ち合わせたのは、かつてのルームメイト。

朝に約束をして、午後に落ちあう。

学生のノリは健在。

6/16【知っている、知らない】
知っている路地の、知らない店の暖簾をくぐる。

人通りの多い路地の、人通りの少ない一角。

知っている店の、知らなかった別館。

6/17【井の頭公園】
水抜きを繰り返し再生へ向かっているらしい池には沢山の藻が浮いていて、ボートを漕ぐとそれがまとわりついてくるらしい。

井の頭公園を横切ると、いくつかの過去の自分をどうしても追いかけてしまう。

春、夏、秋、冬。

10代から今に至る、さまざまな僕がここに眠っている。

6/18【自然体】
偏頭痛に効くという漢方を飲むと、嘘のように痛みが引く。

体の水分の調節がうまくいかないらしい梅雨時の処方箋。

ありのままが自然体という意識も、最近は変わった。

何をどう転んでも自然の一部としてここにある。それだけのこと。

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