窓越しの世界・総集編 2018年1月の世界
1/1【富士を望む湖のほとりにて】
次にここへ来るとき、
同じように天気が良くて、なにより皆が健康でありますように。
1/2【僕はちっとも変わらない】
「笹倉君はちっともかわらないね。」君はそう言いながら、なんだかとても嬉しそうだった。
ずいぶん変わってしまったつもりの僕は、ほっとしたような、でも少し物足りないような。
大渋滞の中で、昨日の君の言葉と、ここ10年くらいの歳月とが猛スピードで頭の中を走り回っていた。
1/3【僕がしたいのは】
景色を美しくフレーミングする建具。
見せたいものを、どんな風に見せるか。
僕がしたいのは、そういうことだ。
1/4【縁があれば】
そこは写真で見たことのあるホソノハウスそのものだった。
たくさんのレコードに埋もれたその家が刻んできた日々を思うと胸が暑くなった。
半年後に、縁があれば。ね。
1/5【合わせる】
バスで隣町まで。そこからさらに隣町まで西武線に揺られた。
バスを待つ。電車をまつ。時間を合わせる。
自分ではない何かに、合わせつづける。
1/6【同じ場所のレコード】
ストーブの香りと、レコードに針を落とす音が、あの時代へ連れて行ってくれる。12回目の冬。
なんとなくまた元に戻ってきた気分がするのは、たくさんのレコードがあの頃と同じ場所にあって、同じようにそこから音楽が聴こえてくるからなのかもしれない。
1/7【調和とは】
調和とは。
気を使うこと。
そして、気を使わないこと。
そのバランス。
1/8【看板のない料理店】
ペルシャ絨毯が効いた土間と、少しの客席。半畳ほどの本の部屋。そこから入る外の光。
看板のないその店に佇むのは、或る気配とか、面影、記憶だったり、今や、遠い未来の予感。
今年初めての、雨の日。
1/9【バンド】
少し黙ってみる。
誰かが話し始める。
自然と生まれる気持ちを確かめてから、口をひらく。
1/10【多面体の世界】
最先端のビルから見下ろした街が意外とこじんまりとしていて、なんだかホッとした。
たまに行く横丁は、ここの空間とはあまりにも時代錯誤な軒を連ねている。
世界は多面体だ。
1/11【意思のかたまり】
ぼんやりとしている。
自分のことを聞かれれば聞かれるほど。
ぼんやりとしたものが沢山あって、一つの意志の塊のようでもある。
1/12【朝だけが儚い】
モーニングコーヒーとサーブされた朝食。ひだまりの中で進む朝。
朝は昼になり、昼は夕方に向かい、やがて夜がくる。
朝と呼べるわずかな光の時間。
朝だけが儚い。
1/13【止むことのないサイクル】
在り続けるもの。
循環させるもの。
新しく迎え入れるもの。
止むことのないサイクル。
1/14【終わりの合図】
トトが起きてくる。
歌う僕に近づいて来て、録音が回っているマイクにニャーとひと鳴きして通り過ぎる。
そろそろ終わって相手してよ。今日はもう良いテイクとれないと思うよ。
そんな風に言われてる気がして、終わりにした。
1/15【ここにいるということ】
不意の来客に心を切り替える。
約束はいらない。
「ここにいるということ」を感じる。
1/16【246の向こう側】
夕方の渋谷は少し暖かい。
山と谷に所狭しと建物の並ぶ街。
246の歩道橋を越えた一角に、また一つ記憶が積もっていく。
1/17【どちらでもないところへ】
不甲斐ない自分を受け入れるか。
それとも、取り繕うか。
どちらでもないところへ行きたい。
1/18【顔をあわせるということ】
顔をあわせる。
それだけで解決することがある。
うまくいくことも、そうでないことも。
1/19【待つことさえ】
言葉が降りてくるとき。
そればかりは、神秘的で疑いようのない瞬間。
今夜は待っていても来ない。
待つことさえ、間違っている気もする。
1/20【何度味わっても】
言葉とメロディーが出会うとき。
一つの波はさざ波になり、やがて大きなうねりに変わる。
そんな体験を数え切れないほどしてきたけれど、
何度味わっても同じように胸が熱くなる。
1/21【音楽の年】
どちらかしかできない。
そう思ったから、珈琲店を休みにした。
今年は音楽の年。
1/22【大雪の夜】
雪がしんしんと積もる夜。
一人スタジオに佇んでいると、いつかの雪の日もちらつく。
雪の日は録音に縁がある。
今夜、どこへも行けないということが、心地よい。
1/23【目を背けたい】
雪をかきわけながら、やっぱり雪かきが嫌いだと思う。
積まれて黒くなる雪を見ているのが、好きではない。
早くこの街から出て、汚れていくものから目を背けたい。
1/24【青春はつづく】
大講堂から締め出された二人。
あれから17年も経つ。それぞれの生活が頭をよぎらなければ、きっといつまでも日本酒を傾けていただろう。
氷の塊に変わった雪がへばりついている街を、顔を赤らめて歩く。肩を竦ませるほど
寒いけれど、ほんのりと暖かい気持ちはあの頃のまま。
青春はつづく。
1/25【イメージを超える方法】
先のことはわからない。だから始められたことばかりに囲まれている。
始めてしまえば、自分のイメージを超える自分に出会える。
言葉も、メロディーも、生活も。
1/26【音は環境とともに】
眠りにつく前。起き抜け。車の中。
聞こえ方がまるで違う。
音は環境とともにある。
1/27【お湯の出ない夜】
お湯が出ない。寒さで給湯器がパンクしているらしいので、深夜営業をしている風呂屋へ車を出す。
ぬるい炭酸泉に浸かると、芯まで冷えた体を感じた。
今はまだ、終わりへ近づくほどに寒さを増す、冬。
1/28【よぎる】
いつまでも変わらない気持ちが漂っていることに気がついて、
どこへ向けたら良いかわからない、感謝と似た気持ちが充満する。
何もかも変わってしまったわけではない。
その通りを歩く時のほんの数秒、よぎる。
1/29【っぱなし】
使いっぱなしのマイク。置きっぱなしのコーヒーカップ。
っぱなししか目に入らない。
っぱなしを回収し続ける日々。
っぱなしを生み続ける日々。
1/30【そんな気】
話し足りない。
そんな気もするし、
一言でいい。
そんな気もする。
1/31【月食】
夜空を見上げる人々。
それを見て、また見上げる人々。
バスの車窓からも。スーパーマーケットの出口でも。
まだ雪の残る歩道を歩きながら見る、月食。