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「こども未来戦略方針案」に関する考察-少子化にどう向き合うか⑥-

 少子化に対する考察に関する記事です。6回目の今回は、昨年の6月13日に政府が発表した「こども未来戦略方針」について考察して参ります。


「こども未来戦略方針案」(概略)

施策面

 政府は2023年6月13日に少子化対策における「こども未来戦略方針」(以下「戦略方針」)を閣議決定した。(※1)すでに、2023年3月31日には少子化担当相による「こども・子育て政策の強化について(試案)」(以下「2023年3月31日少子化相試案」)を発表しているが、基本的には「戦略方針」は「2023年3月31日少子化相試案」の内容とほぼ変わりはない。(※2)文章なども項目によってはほぼ同じ文章表現が使われているケースもある。(※3)

 内容についても、①児童手当の拡充及び所得制限の撤廃、②出産一時金を42万円から50万円に拡大すること、2026年度からの出産への保険適用、③ひとり親家庭の自立と子育て支援の必要性(具体策はない)、④育児休暇の給付率を現行の67%から80%に引き上げることなど、「2023年3月31日少子化相試案」をほぼ踏襲したものとなっている。そのため「戦略方針」に対する考察を行うことは「2023年3月31日少子化相試案」とほぼ同様の内容となるため、ここでは繰り返さない。

財源面

 「戦略方針」と「2023年3月31日少子化相試案」との違いは、少子化対策における財源について議論の余地があるものの、一応提示したということであろう。「戦略方針」では、財源について、①歳出改革、いわゆる無駄使いや効率による財源の捻出を行う、②経済活性化と経済成長と、経済力を高めることによる税収の増収を行う、③労使を含めた国民各層及び公費で負担する「支援金制度(仮称)」を新たに設け、「支援金制度(仮称)」の賦課・徴収については、社会保険の賦課・徴収ルートを活用する、④安定財源の確保を2028年度までに確保し、その間はこども金庫が発行する「こども特例国債」によるつなぎ国債を発行する、としている。(※4)

「こども未来戦略方針案」に対する考察-財源面を中心に-

 ここでは財源面を中心に考察して参りたい。国債による財源を限定的なものとし、社会保険料によって財源を賄うという点は評価したい。世論調査でもNHKが2023年5月に行った世論調査では財源を国債に求めるとした回答は8%であり、歳出削減の53%、社会保険料の19%と比較すると肯定的に受け止められていると言える状況にはない。(※5)

 ただ、実際の問題として負担をどのようにして各層が分かち合うかという点では反対、消極的な意見が強いことも事実である。経団連会長の十倉雅和は「消費税も当然議論の対象になる」として、労使折半による負担を懸念して、連合会長の芳野友子も「社会保険となると賃金に影響する」としている。また、令和臨調は財源上の根拠に税を含めた検討をするべきと政府に求めている。(※6)

 専門家の立場からは、社会学が専門の柴田悠が、財源について所得税、年金課税の累進強化、配偶者への所得税・住民税控除の廃止、国民年金第3号被保険者の制度廃止など扶養控除の廃止を主張するほか、資産税課税強化、相続税対象者の拡大などを混合する形で対応するべきとしている。(※7)また、同じく家族社会学を専門とする松田茂樹は、政府支出の見直し、消費税の増税のほか、中学生までの子ども数に応じた所得税控除を復活する代わりに子どもがいない個人、夫婦の所得税の基礎控除を縮小することで財源を確保するべきであるとしている。(※8)

 社会保障の給付の安定には財源の問題は避けて通れない。2023年6月14日付の東京新聞社説は次のように指摘する。

 子ども関連政策の財源は従来、既存予算のやりくりで確保され、政権や財政の都合でたびたび支援策が縮小、変更されてきた。
 安定的な財源を確保し、若い世代に「ずっと支えてもらえる」との安心感を持ってもらうことが、最大の支援策ではないのか。
 社会保障の「給付」を支えるには「負担」が必要だ。

「子育て支援策 安定財源こそ安心感に」 2023年6月14日 東京新聞 社説

 また、同じく東京新聞経済部記者の近藤統義は、メディアも冷静な視点で議論を担保する責任があることを自覚したいとする一方、政治は中長期的視野に立った社会負担増を見据えた選択しをすべきであるとして次のように述べる。

 岸田政権は「異次元の少子化対策」を巡る財源の詳細を年末に先送りした。この間、「税で調達を」という提案は政治家からほとんど聞こえてこない。
 本来は徹底的に歳出を見直した場合の姿を示し、その上で財源になりうる税や保険料などのメリットやデメリットを正面から説明すべきではないか。首相自身が始めから税の議論を封印してしまっては、国民の理解や納得感は深まらない。
 息の長い取り組みが求められる少子化対策には安定した財源は欠かせない。政治には目先のことにとらわれすぎず、中長期の社会像を見据えて選択肢を示してほしい。

2023年6月10日 東京新聞 P6

メディア、政治の責任もさりながら、私たち自身も目の前に突き付けられた課題において給付と負担をどのように行うべきかについて一人ひとりが問われている。政治はその性質上決定権は、当該時代に生きている者の利害を中心に考えがちであるが、将来の世代に対しても政治は責任を負っているということに目を閉じてはならないだろう。

補論

 その後、こども家庭庁は「子ども・子育て支援金」を医療保険に上乗せする形で少子化対策に関する財源の確保を行うことを決めた。(※9)給付を行う以上、財源上の根拠を求めるのは当然ではあるが、医療保険制度に補足的に補うという形になったのは、こども保険制度が挫折したために止む無く上乗せしたためであり、制度設計上問題があると言えよう。

 野党側は、立憲民主党が日銀ETF分配金による活用、日本維新の会が国会議員の定数削減、国有資産の売却による捻出を主張しているが、(※10)財源の安定性の点で問題があると言わざるを得ない。政府案にしても野党案にしても給付と負担についてきちんと正面から議論をしようとしないことの表れである。ただ、そもそも論として少子化対策における負担の在り方について、税方式によるのか、社会保険方式によるのか自体がそもそもきちんと議論されたとは言える状況にない。こうした状況は、私たち有権者の側も、負担に対する正面から向き合おうとしない点が問われていると言える。

私、宴は終わったがは、皆様の叱咤激励なくしてコラム・エッセーはないと考えています。どうかよろしくご支援のほどお願い申し上げます。

脚注

(※1) こども未来戦略方針~次元の異なる少子化対策実現のための「こども戦略未来」の策定に向けて~

(※2) こども・子育て政策の強化について(試案) ~次元の異なる少子化対策の実現に向けて~

(※3)

例えば「3月31日試案」のP7における「3.全ての子育て世帯を切れ目なく支援する」の4つの項目、「戦略方針」のP10「(3)全てのこども・子育て世帯を切れ目なく支援する」の4つの項目は文章がほぼ一致している。

(※4) (※1) 「Ⅲ-2.「加速化プラン」を支える安定的な財源の確保」

(※5) NHK世論調査(2023年5月) | NHK選挙WEB

(※6) 2023年6月14日 日本経済新聞 朝刊 P5

(※7) 柴田悠「子育て支援が日本を救う」勁草書房 P242~P244
2023年1月16日 読売新聞 P4

(※8) 松田茂樹「[続]少子化論」学文社  P275~P276

(※9)子ども・子育て支援金制度における給付と拠出の試算について P5 

(※10) 2024年4月19日 東京新聞 朝刊 P3


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