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ラジオって好きですか?

 わたし、ラジオ番組を持っています。
 お金がないのにそんなこと! やめろやめろ! と言われそうですが継続しています。

 ありきたりな話をしますと、ラジオをやりたいと思ったのは子どもの時分。

 毎朝の情報はラジオから取得していました。男性のパーソナリティーがこの時間の担当をしていて、渋くもありつつ元気と快活さを感じていました。どんな人かなーとか思いながら聞いていたものです。

 ある時親父殿がその番組のステッカーを入手しました。どうやったのかは分かりません。私はそのステッカーに写る、番組収録中のパーソナリティーの横顔を食い入るように見ていたのを覚えています。

 ラジオの番組内でリスナーからお手紙やメッセージを読むコーナーがあるのですが、あるやり取りが印象的で頭の中から離れません。

「どうやったら貴方のようなラジオパーソナリティーになれますか?」

 私も抱いていた素朴な疑問だ。どうしてその仕事に就くことができたのだろう。

 この質問に対し、パーソナリティーはこう答えました。

「いろんな経験をすることですね! なんにでも挑戦してみてください」

「私にメッセージをくれたということは、少なくとも一度以上は私の番組を聞いてくださっていますね! おそらくご存知かと思います。本当にいろんな方からメッセージを貰います」

「私の意見を求められることもあれば、あなたのように(先述の質問メッセージを送ったリスナーのように)、質問されることもあります。それに対して多くの人が答えるように『なんとなく』とか『気分で』『ノリで』と答えることは出来ません。それは答えになっていないでしょう?」

「ですからいろんな経験をしてください。そうして感じたことを言葉にしてみてください」

 こんな感じだったと思う。さすがにもう十年以上前なので誇張はあるかもしれない。

 そしてまさかのご縁があり、この方がレギュラーで出演しているローカル番組のロケ。なんと当時の私の職場にやってきた。

 さらにさらに直接お話までさせてもらった。今でも信じられないと思っているが、本当に驚いた。こんなことってあるんだな。なんだかうまく話せなかったよ! しかもそのローカル番組を見ることができなかった。つらい。

「小学校のころ? あの朝番組って〇年前ですよね?」

 初めてこの方のラジオを聞いたのは小学生のとき。このロケの時には夕方の番組を担当されていた。

 パーソナリティーはサングラスを掛けているので目元は分からなかったが、柔和な表情を見せてくれた。(思い込みかもしれないが、私はそう思っている)

「そっかあ。大きくなったねえ」

 別に小学生のときにお会いしたわけでもないが、この言葉は頭を撫でてもらったかのような温かみを感じた。

 収録の後、私は番組にメッセージを送った。ちょっと失敗したのは、メッセージの中に私の名前を入れてしまったこと。読んでくださってる中で、パーソナリティーが「あっ」と詰まらせたのが分かった。あの職場で私の名前とダブっている人はいない。個人の特定につながることはしないのだ。

 ※名前を呼んでもらえてうれしかった、と言いたかった。名前を出す必要は本当になかったと思う。

 しかしお近づきになれたとしても、ここまで来てもパーソナリティーとリスナーだった。発信者ではない。

 なんとなく漠然とラジオやってみたーい、と思っていた。

 でも別に有名になりたいわけではない。ラジオは顔が見えないところがいい。私は容姿に自信があるほうではない。有名になってしまうと監視の目が増えるからほどほどでいい。

 当時はまだYouTubeがメジャーでなく、テレビが最も情報を発信していた。テレビに出た! となるともう有名人。でもそれは廃れるものだ。廃れた後の物悲しい雰囲気と、その当時の栄光にしがみ付くのは嫌だった。

 私は私でいたいと思った。

 ラジオはいい感じで他人だ。他人が喋っているのを他人の側で聞くことが出来る。新曲の宣伝のために出演する歌手、舞台の紹介をする演者。突拍子もない企画。商品について熱弁する広報担当。新しい出会いがある。いろんな話を聞きながら、いろんなものに出会った気がした。

 そういうことがしたい。私が感じたことや気づいたこと、面白かった本の話。事象や何かを誰かと語り合うのも面白そうだ。

 私は友人を作るのが上手くない。

 ゆえに、語り合う相手というものがない。ラジオという場なら、一方的ではあるが誰かが聞いているかもしれない。瓶に手紙を詰めて海に投げ込むかのような話だ。だが、もしかしたらお返事の手紙が届くことがあるかもしれない。

 人付き合いはささやかでいい。

 一人に慣れすぎた私にはそれがちょうどいいのだ。今のこの世は一人でも十分に生活が出来る。

 そんな私にラジオの話が舞い込んだのはほとんど奇跡だったのかもしれない。

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