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【原画展】 リャド原画展 (2022/04/10)

画家:ホアキン・トレンツ・リャド(スペイン)
主催:アールビバン株式会社

 Twitterで宣伝されていたのを見つけたのをきっかけに入場しました。
 この時点では「リャド」が誰なのか、作品がどういったものなのかを全く知らない状態です。ちょっと失礼だったかもしれません。また、原画展とはいえ同時に絵画の展示販売もしていたので、主催側としてはお買い物に来てくれるお客様にこそ用事があったのだろうなと思います。
 (そういう態度を取られてしまいました。ローンが組めない、と分かった途端に早々に態度が変わり作品や作家の紹介を切り上げて離れてしまわれたので)
 冷やかしに行ってしまったようで、申し訳なかったかなあと今は思っています。

 自転車で行ける距離+入場無料というところまで下調べをした後、この「リャド」という作家に肖像画を描かれることはセレブのステータス、とまで称されていることを知りました。それを無料で観れるというなら行かない手はないのでは? 予定もないし、ちょっと世の流れにお疲れ気味だし、芸術に触れるのも良いかもしれない。そんな軽い気持ちでした。
 絵画の世界の「印象派」すらよく分かっていない。「リャド」がどこの出身の画家なのかも知らない。代表作も知らない。全くの無知が乗り込んでしまいました。

その原画。

 見た瞬間、圧倒でした。と言うと語彙力がない、センスがないと言われそうですが、まさに息を呑むという体感をしました。
 まず遠目でその作品を見ます。それは風景画でした。写真よりもその空気感を伝え、その瞬間の音すら書き込んでしまったかのようでした。動かないのが逆に不思議です。だから近づいてその絵画を目の当たりにするわけです。
 そうすると今度は音が無いのに迫力が大音量で迫ってくるかのような錯覚を覚えました。たったいま、絵具を乗せた筆を動かしたかのような、文字通りの「筆跡」は荒々しくも見えるうえ、キャンバスのあちこちに色が弾けて飛沫として残っていました。そして水分を多く含んだ色はそのまま重力に従って垂れて、動きをそのまま跡として残している。
 近づくとこんなにも主張してくるのに、離れるとその音量が小さくなり「風景画」らしい雰囲気を纏うようでした。絵が動いている。というと陳腐かもしれません。しかし絵具の厚み、筆の跡、散った色、垂れた水。それぞれがそれぞれ、何かを訴えようとするかのようでした。

 かと思えば、肖像画は極まった静寂をしていて凛としており、まるで動き出しそうでありながらどこまで行ってもそれは「静」そのもので、作品を見ているのは私なのに美しいその女性に見つめられているのは私のようでした。映画を観ている感覚に近しいのかもしれません。どのような場所で、どのようなやり取りがあって描かれた作品なのかは分かりません。なのに、映画のワンシーンを思わせました。
 あくまで、個人の感想ですからね?

 リャド。スペインの画家で、フルネームはホアキン・トレンツ・リャドという方です。
 1993年に47歳で亡くなられた方で、故にその作品数はやや少なめ。絵の中に「窓」を書き、その中をぎっしりと埋めるように制作された作品は、特にリャドの個性を光らせているのではと思います。画面いっぱいに描くのではなく、その中に窓枠をわざわざ作って、モチーフをそこからはみ出さんばかりに凝縮して描かれた風景画。モデルの人生の瞬間を切り取ったかのような肖像画。
 なるほど、リャドに描いてもらうのがステータスになる、というのも分かる気がします。
 スタッフさんと話しているとき、「いつかはお迎えしたい」と言うと「いつかは来ない」と言われてしまいました。ははは……。その後でローンが組めない、という事実を知ると潮が引くように離れてしまわれたのですが、まあその言葉は確かにその通りです。
 良い状態でこれらの作品をお迎えすることが出来る機会は、そうないでしょう。

 特に私が「スキ!」と思ったのは「マルパスの入り江」「木陰の湖水」「アルファビア」の三作品です。他にも他にも、あるにはあるんですが挙げるとキリがないし、どうやらこの原画展だけではすべての作品を観たとは言えないようなので、そのうちもっと増えるかもしれません。
 画集すら買えない今の私ですが、いつかいつか、本当にお迎えすることが出来るなら。
 壁でしかない場所にリャドの描いた窓を置き、その風景から聞こえる音や感じられる空気感の中で生活を送ることが出来るのでしょう。

 ……私が収録スタジオを構えることが出来た時、私はリャドの作品をまた探すことになると思います。
 打ち合わせなどで集まるお部屋に飾るのです。情熱的なスペインの風景画は、どうかするとコンクリートのように無機質になりがちな個室に色彩を与えることになるでしょう。

カバー写真:Pixtabay
撮影者:GiselaFotografie

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