月が綺麗ですね
0時を過ぎると魔法がとけるシンデレラ。
現実は逆で、0時を過ぎてかかる魔法がある。
大学生の頃わたしは一時バーで働いていた。お酒はあまり飲める方ではないけれど、お客さんと喋るのが好きだし、独特な店の雰囲気も、色とりどりのお酒を組み合わせてオリジナルのカクテルをつくる時間も楽しかった。
本格的なものは作れないけど、あまり知られてない美味しい飲み方を覚えていたりして、それが今でもちょっとうれしかったり。
曲づくりにも少し慣れて、次の曲はガラッと雰囲気を変えたいな、なんて考えていた時ふと数年前の記憶が蘇った。
たしか花言葉ならぬ、カクテル言葉というものがあったはず。新しい曲の中にちりばめてみたいと思った。
これが後に『月に踊れ』という曲になる。
いつか車の後部座席から眺めた満月が綺麗で、その瞬間に「月が綺麗ですね」のフレーズが降りてきていた。月に因んだタイトルにしたかったけど、かなり悩んだ記憶がある。
お酒、酔っぱらい、ときたら千鳥足で帰路につく女性が浮かんで、それは等間隔に照らす街灯をスポットライトに踊っているように見えた。酒と恋に酔った彼女はきっとおぼろな視界で、街灯も月と見間違えて、自分を笑うように一言つぶやく。
こうして曲のラストとタイトルが決まった。
夏目漱石が「月が綺麗ですね」をI love Youと訳したのは有名な話だけど、私が男ならそんなクサい台詞本命の女性には絶対に言わない。
使うとしたら、さっきバーで出会ったばかりのちょっといい感じの女の子に、冗談ぽく。
(本命に使ったことがある方いたらごめんなさい)
そんな想像から出来上がったこの曲。わたしのお気に入りは、「二度と戻らない過去の話ばかりしてるのは何故」という歌詞。
出会い方がどうであれ、本気になったら少しでも未来の話をするものだと思う。
過去の恋愛話しかしない場合は....
それでも揺れてしまう女心はお酒の魔法のせい。始発とともに解け始めて、虚しさを残す簡単で厄介な魔法。
歌詞の中に3つのお酒の名前が隠れてるので、カクテル言葉の意味を知ったら面白くなるかも。
ちなみにこの話は実体験？と訊かれるんだけど、それはたぶんずっと内緒です。
月に踊れ / 亜美
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