ギャルになりたい

生まれ変わったらなにになりたい?
そう聞かれた時に真っ先に思い浮かべるのは「ギャル」だった。

私の家はいわゆる中流家庭で、習い事もいくつかさせてもらっていたし、たまに外食も行ったし、とにかく普通の家だと思う。
ただ、他の家よりちょっと「厳しい」かなぁと思う部分もあって、それは門限だったり遊ぶ場所だったり制服の着方だったりなんだけど、まぁそんなものなのかなと特に不思議に思わずすごしてきた。
中学までは。

高校に上がると、さすがの私でもオシャレが気になるようになってきた。
というより、いかに周りに溶け込むか、いかにはみ出さないかに必死だったと言うべきかもしれない。
とにかく、中学と同じではいけないと思ったのだ。なにか変えなくては、と。
とはいえ、できることは限られている。
化粧なんてもってのほかだし、スカートも(当時は短いのが流行っていた)1回折り曲げるくらいしかできない。
眉を整えて、気になる部分だけパウダーをはたいて、透明なリップをぬって、靴下は紺のハイソックスで、ローファーを履いて、イーストボーイのかばんを持って。それが精一杯。
結局、先生にも親にも叱られない、ギリギリのラインしか攻められない。それが私なのだ。

私は、私の歩いてきた、そしてこれからも歩いていくであろうレールの上でしか、好きなことができない。それはとても不自由で窮屈だった。
先生や親の前ではなるべくいい子でいたい。叱られたくない。でも、本当は好きなことを好きなようにしたい。
だから私は、「ギャル」と呼ばれる彼女らに強い憧れを抱いていた。

進学校ではあったが、化粧したりスカートが短い、「ギャル」っぽい子(もちろん、当時渋谷とかにいるようなギャルとは全然ちがうけれど)はいた。
彼女らは、先生に注意されても気にしない。「はーい」って言いつつ、仲間内で「マジでうるさいよね」ってクスクス笑い合う。
マスカラしてぱっちりな目。うすくファンデーションを塗ったきれいな肌。細い眉。色付いた唇。ピアス穴の開いた耳(さすがにピアスはして来なかった)。
その全てが輝いて見えた。 彼女らの自信に満ち溢れた態度、瞳が眩しかった。
クラスでもそういう子が自然と中心になっていった。文化祭、球技大会……祭りは全部彼女らの手によって決められ、進められた。
彼女らは男子とも仲が良かった。つき合うとかつき合わないとか、そういうのとはちょっちがう、けれども限りなくそれに近いじゃれあいが、羨ましくもあった。
先生に注意されているのに先生と彼女らの関係はむしろ良好で、先生も、真面目に生きている私なんかよりよっぽど彼女らの方が好きそうに見えた。

彼女らは蝶だ。
あでやかで、自由気ままに飛んでいく様は人の目を惹きつける。
そして私は、そんな彼女らに憧れて、真似したくて、でも真似できずにいる蛾だろうか。
人目のない、暗闇の中でもがくだけ。誰も見てはくれない。

生まれ変わったら、蝶になりたい。
蛾はきっとそう思うだろう。
私もギャルになって、今度こそ自由気ままに好きなことを好きなだけして生きていきたい。










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