ビターな記憶に甘い温もりを


「レトロ、本当に行きたいところはないの?」

朝起きてまだ布団の中。
あの一連の出来事から数年、私はレトロと2人暮らしをしている。

「スーズと居られれば私は満足なのだ。」
「あの大佐がねぇ、そんなことを言うようになるとはねぇ。」
「あの時は仕方なかったのだ。それにいい加減その呼び方辞めれないのか。」
「え。だって大佐みたいな服着てるし。」
「趣味だ。」
「ならいいじゃん。」
「辞めろと言っているのだ。」
「きゃっ…。」

レトロが私に覆い被さる。

「大…佐?」
「ほう、この状況でもまだ大佐と呼ぶということは、覚悟は出来ているんだろうな?」
「んっ……。」

言葉とは裏腹にとても優しい口づけをする。

「意地悪をしてすまなかった。嫌な夢でも見たのか?お前が私を大佐と呼ぶ時はいつもそうだ。」

気づいてたのかよ、ばか大佐。

「またあの夢を見た。」
「いつもの、私だけいない夢か?」
「うん。」

レトロが抱きしめてくれる。

「私はどこにも行きやしないよ。ずっとお前の隣にいる。」
「約束、だからね。」
「あぁ。」

数年経ってもまだ薄れない、あの日の記憶。きっとこの先も忘れることはない。だけれど、だからこそ、今を大切にしたい。

「ほら、いい加減起きるぞ。」
「どこにも行かないんだったらもうちょっとぎゅうしてて。」
「しょうがないやつだな。」

今はこの温もりにもう少し浸らせて。たまにはいいでしょ、レトロ。

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