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私がTEMPUSに投資しない理由

※本記事は筆者の独断と偏見で作成していますので、内容の正確性については一切保証できません。最終的にはご自身でソース等をご確認ください。


ソフトバンクグループが米国Tempus AI社との提携を発表

お久しぶりです。なんか久々に記事を書きたいと思い、筆を取った次第です。

きっかけはソフトバンクグループの会見を観たからです。

コロナショックの後、IPOラッシュでたくさんの企業が上場していたときには私もよくチェックしていたのですが、最近は上場する数も減ってきたので全然見てなかったです←

そんな中で、この会見の中でTEMPUS社が最近上場した企業だということを知り、興味を持ったというわけです。

会見の内容だけを聞いていると、「超革新的な技術で、がんも撲滅可能なとんでもない会社が出てきた!!!」とついつい沸き立ってしまうわけですが、「ちょっと待て」と数々のIPO銘柄で失敗してきた私の勘が告げてきます。

そこで、このTEMPUSという会社について、ちょっと批判的な目で見てみようというわけです。

理由①:TEMPUSだけでは問題解決にならない

TEMPUSとは?

会見の内容を私なりに噛み砕くと、以下です。

  • フォーマットが異なる病院の電子カルテの情報をAIで統合して、医師の診断の補助をすることができる

  • しかも、病院の金銭的・人的負担はゼロで導入できる

  • データを製薬会社に売ることで利益をあげている

  • 米国では2,000の医療機関で導入されており、実績も抜群

  • 日本でもがんの拠点病院から好意的に捉えられている

こう聞くとワクワクしてしまうのは仕方ないと思いますが、個人的な意見を言えば、かなり楽観的なのかなと思います。理由としては、少なくとも日本ではTEMPUSが導入されるだけでがん医療が進展するとは思えないからです。

がん治療の変化

がんの治療というのは一昔前は、化学療法と呼ばれる皆さんがよくイメージする「副作用のきつい抗がん剤」というのが主流でしたが、新しい薬が出てきていることで状況が変わってきています。

ヒトの体は細胞の集まりでできているわけですが、この細胞の遺伝子になんらかの異常が起きると、異常に細胞が増殖したりすることでがんができてしまうことが分かっています。

そのため、「細胞のどの遺伝子に異常が起きているのかを調べることができれば、それに合わせた薬を投与することで効果的な治療ができる!」となってきているわけです。

これはつまり、患者さん一人一人のがんの状況(遺伝子の変異)に応じて治療法を選択するので精密医療(プレシジョンメディシン)とか、がんゲノム医療なんて呼ばれています。

がんの治療を受けるステップと問題点

ここまでの内容を考えると、

がんの診断を受ける
→ 遺伝子の変異を調べる
→ 治療法を決定する
→ 治療をする

というのが、ロジカルに考えた時の最も最適な治療ステップとなるわけですが、現実はこうなっていません。理由としては以下のようなものがあります。

日本のがんゲノム医療の問題点

  1. 認知度の低さ
    そもそも、こういった遺伝子検査でがんを治せることを知っている人は限られており、ある調査では35.3%に留まっています(GemMed | データが拓く新時代医療

  2. 遺伝子変異の検査を実施できる医療機関が限られている
    居住地に近い医療機関で検査を受けられる割合は約77%ですが、約23%の患者は県外の医療機関に行かなければならない状況です(GemMed | データが拓く新時代医療

  3. 遺伝子変異の検査が高額かつ保険が適用されるのは限られた患者
    がん遺伝子パネル検査は高額であり、保険適用の範囲も限られています。保険診療の中で検査を受けられるのは「標準治療が終了した患者」や「標準治療がない患者」に限定されており、それ以外の患者は自己負担が必要になります​ (GemMed | データが拓く新時代医療)​。

  4. 検査結果が治療に結びつく割合が低い
    2021年のデータによると、がん遺伝子パネル検査を受けた患者のうち、治療に結びついた症例の割合は第1期(2019年6月~2020年1月)で3.7%、第2期(2020年2月~2021年1月)で7.7%と報告されています。この割合は、検査数が増加する中で改善されています​が総じて10%未満と言われています (CareNet.com)​。

こうした理由でがんゲノム医療は一般的になっていないわけです。TEMPUSもがん遺伝子パネル検査のキットを開発したりしているので、1〜3は努力次第でどうにかなる感じもしそうですが、4がかなり難しい問題であると感じます。

がん患者さんが遺伝子変異の検査を受けるモチベーションは、「検査で自分に最適な治療法が見つかるから」ということですが、高額な費用を払った上で自分に最適な治療が見つかる可能性が10%未満だとすると、そのモチベーションへの影響は甚大です。

日本は「ドラッグロス」とも言われており、欧米では使える薬が使えない状況になってきています。数字にすると、約6割の薬が日本に入ってきていません(がんナビ)。その理由としては、薬価の引き下げや開発コストの高騰などにより、製薬企業にとって日本が薬を売るのに魅力的でないと感じられてしまっているからです。

検査結果が治療に結びつかないという問題は、日本に薬が入ってきていないということが最大の要因になるので、TEMPUSというシステムが入ってきたとしてもうまくワークしないというのは容易に予想できるわけです。

理由②:赤字垂れ流し大丈夫?

また、気になるのはTEMPUS社の赤字です。会見の中では「損益分岐点が見えてきたから米国で上場した」みたいな話も出ていた気がしますが、「お金がないから上場した」というのが一般的な解釈じゃないかと思います。

売上は
2022年度 2億6,480万ドル
2023年度 3億7,050万ドル

純損失は
2022年度 2億8,980万ドル
2023年度 2億1,410万ドル

うーん、とんでもない赤字。純損失の額は減っていってるけど、果たしていつ黒字化できるのか?なーんかよくあるハイパーグロース株の典型的嫌なパターンにも思えるんですよね。このあと売上が鈍化して、それでも赤字を垂れ流してひたすら株価下がっていくみたいな(小並感)

まとめ

ということで、私は投資対象としては結構怪しいのかなと考えています(特に日本での事業)。

ただ、こうした技術が医療の発展に必要であることは間違いないので、いい意味で期待を裏切ってくれるといいなとは思います。

では、またどこかの記事で〜


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