知の理論(TOK)と無定義用語の関係性(学習記録②)
TOK(知の理論:Theory of knowledge)とは、国際バカロレア・ディプロマプログラムの中核となる科目です。数学や歴史、理科などどの科目においてもその科目における「知識」が存在します。その「知識」がそれぞれの学問分野を支えています。TOKではこの知識について、「知識とは何か」、「私たちが何かを知っているというのはどういうことか」を考えてきます。
現代数学の思想
現代の数学では、どんな定理もまず初めにある仮定が存在して、そこから証明が行われ、定理にいたります。
「仮定」⇒「証明」⇒「定理(命題)」
一方で定理からさかのぼって「どんな仮定だったのか」を見出すことができます。言葉を変えると、ある「主張」をさかのぼって考えると「前提条件」を見出すことができます。
しかし、もともとの仮定も、「とある仮定」のもとから出発しているため、私たちは無限にさかのぼることができません。あるところまでくると、「もうこれ以上定義できない」となるため、一定のところで「無条件に正しい」と認めなくてはいけません。
これを「公理」と呼びます。
「公理」⇒・・・⇒
・・・⇒「仮定」⇒「証明」⇒「定理(命題)」
無定義用語(無定義概念)
無定義用語とは、数学の用語です。「(基本的な概念であるがゆえに)定義されていない言葉」をいくつか認め、議論を進める考え方を「公理主義」とか「形式主義」と呼びます。「無定義用語(無定義概念)」はヒルベルトによって提唱されました。ただ、無定義用語の考え方自体は、パスカルから始まったと言われています。
パスカルは直線、平面、空間というような基本的な言葉は定義しなくても自明に一定の物を指し示すと考えていましたが、現代の数学では、無定義用語というのは何を指しているのでもなく、たんに他と区別するための言葉であると考えています。
そして無定義用語の間の関係性を記述した命題を公理としていくつか採用するのが現代数学の思想です。
ヒルベルトは以下のようにユークリッド幾何学の公理を提唱しました。
1.任意の2点 A, B に対して、それらを通る直線 l が少なくともひとつ存在する。
2.異なる2点 A, B に対して、それらを通る直線 l はただひとつ存在する。3.一直線上にある異なる点が少なくとも2つ存在する。一直線上にない少なくとも3つの点が存在する。
同一直線上にない3点 A, B, C を含む平面 α が存在する。平面上には少なくとも1点が存在する。
上記の文章は平面公理と呼ばれています。
ヒルベルトは「点」、「直線」、「平面」という言葉を定義していません。しかし、その3つの言葉の間の「関係性」を示すことで平面とはどんなものなのかを説明しようとしているのです。関係性そのものを定義にしよう、というのがヒルベルトのひらめきです。
このとき、「点」、「直線」、「平面」は無定義用語となります。
ビール、テーブル、イスの数学
公理主義(形式主義)の中でよく出てくるのが、「ビール、テーブル、イス」の話です。
前述のとおり、点、直線、平面の3つは定義されていません。この3つの言葉は正直なんでもOKなのです。ヒルベルトの文章を以下のように扱っても形式主義としてはまったく問題ありません。
1.任意の2つのビール A, B に対して、それらを通るイス I が少なくともひとつ存在する。
2.異なる2つのビール A, B に対して、それらを通るイス l はただひとつ存在する。
3.1つのイスの上にある異なるビールが少なくとも2つ存在する。1つのイスの上にない少なくとも3つのビールが存在する。
同じイスの上にない3つのビール A, B, C を含むテーブル α が存在する。テーブルの上には少なくとも1つのビールが存在する。
TOKにおける「知識に関する主張」の文章
TOKを学んでいて、「これってどこで定義されていたっけ?」となることが何度かありました。このふわっとした違和感を数学仲間に相談したところ「TOKでは無定義用語のような高度な概念を利用しているのかも」と助言をもらい、「おお~なるほど!」としっくり来たのです。
TOKの指導の手引きより抜粋
TOKには、2種類の「知識に関する主張」があります。
・特定の「知識の領域」内で行われる、または「知る人」それぞれによっ
て行われる世界についての主張
・知識について行われる主張
知識に関する主張の定義(公理)と思われる文章が上記となります。
TOKの中では「知識の領域」は定義されています。しかし、太字になっている「世界」と「知識」というのは定義されていないと思われます。(英語の手引きは確認してないのでもしかしたら、そちらでは定義されているのかもしれませんが、日本語の手引きにはありませんでした。)
私は、TOKの中で「世界」、「知識」、「個人」などは定義されていないように思いました。「世界ってどの範囲までなのか?」とか、「知識とは何か?」などは明確に記述されていませんし、明確にするのが非常に困難と思われるからです。
「そんなことないよ、知識はTOKでは定義されているよ」、ということがあればぜひ教えてください。
また、TOKの中で数学は「確実性の高い領域」とされています。これは、公理主義のように「ある前提について議論するのをやめ、無条件に認めているから」かもしれません。
確実性を高めるために(100%にするために)無条件に認める項目が存在する、としたら非常に面白いですね。
私の挑戦としては、TOKの用語や概念の中で、「どれが公理で、どれが命題で、どれが証明なのか」を明確にすることです。明確にできるかわかりませんが、難解なTOKを紐解くひとつのアプローチだと思っています。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?