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【創作大賞2023】ポプラ小路のハロウィンニャンコたち

初のOpensea出品「ハロウィンニャンココレクション」
https://opensea.io/ja/collection/ussaynakajima-collection

ポプラ小路再訪

「ニャンコたちが住んでいるのは たぶんパリの片隅 
大通りの雑踏からひっそりと隠された たとえばポプラ小路

霧にけぶる10月の夕暮れ 街灯のぼんやりした光が石畳を照らすころ
手に手にお菓子の袋を抱えたニャンコたちが そっと闇にまぎれて
秘密の会合へ急ぎます
魔女の仮装に身を包み 物置から引っぱりだした箒にまたがったら
風を切って 夜空も飛べそう

もう冬みたいに寒い通り 足早に歩きながら
ふと過ぎた 光もれる窓の向こう 楽しそうなざわめきが聞こえてきたら
それはハロウィンニャンコたちのパーティかも…」

上記はこの子たちのイラストをNFTとして発表したときに、ディスクリプションとして付したフレーズです
10月中ずっとハロウィンニャンコたちの宣伝をしながら
できればぜひやりたいなと考えていたことがありました

この子たちが住んでいる、パリの片隅、ポプラ小路
初めて訪ねたのは夏のこと
しかも明るい昼間のことでした
市内でもけっこう遠いこともあり あれ以来行っていません

「霧にけぶる10月の夕暮れ…」ってかなりこまかに
心の目に浮かぶさまを描いたけれど、あれはほんとに想像の世界
できればハロウィン当日の晩にもいちど訪ねて
街灯の薄明かりに石畳が浮かび上がるさまをじっさいに見たい

そして迎えた当日
いけそうかな? いけそうだ! よし行こう!
ってことで、思い立って行ってまいりました
ぎゅうぎゅうのメトロは例によって閉口
あれはいつまでたっても慣れません
あれがあるから、市内でも腰を上げないと行けない

でも、だんだんと暮れゆくパリの街並
枯れ始めた街路樹の向こう
灯りが灯りはじめるさま
窓に流れゆく景色はいい感じ
6番線はセーヌを上から渡るときエッフェル塔も見えます

そして訪れた あの日以来のポプラ小路
夢だったのかな って思うときもあったけど
ちゃんとありました

ただね みんなこの道を好きだから人がいっぱい通る
なんだかんだ 散歩人が途切れません
落ち着いて妄想にひたれない… ああ…
写真だけ撮ってささっと帰ろうかな

物語の始まり

そう思った矢先
雨がぽつぽつ降り始めて やがてかなりの本降りに
雨が降り始めた途端 人はいなくなりました
塀に腰かけて木の下で雨宿りしていると
やがて街灯が灯った!
薄明かりではなくけっこうな明るさです

人がいなくなったとたん
小道に魔法がかかりました
お菓子を詰め込んだ袋を抱えたニャンコたちが
急いで小道を横切っていきました

小脇に挟んだホウキをほいっと空中に投げ出すと
ひょいっと飛び乗って あっというまに空へ飛び立っていった
と思ったら次のニャンコも

あれ、ちょっと待って!
ただ仮装して、誰かのうちに集まってパーティするんじゃなかったの?
えっ、ほんとに空飛ぶの? どこへいくの?…

実はニャンコたち 昔魔女や魔法使いの仲間だったころの名残で
いまも魔法が使えるのです そう、ハロウィンの晩だけは!
いかにもの仮装をするのは 人間の目をごまかすため
ほんとに魔法が使えるなんて、知られたらちょっと面倒ですからね

お菓子の用意はできた?
急いで、急いで!
ニャンコたちのあいだを、息をひそめた囁きが伝わっていきます
魔法が使えるのは、ハロウィンの日の日没から翌朝夜明け前までだけなんです

チョコ色の毛並みのルルが駆け足に通りを渡って、角のブーランジェリに現れました
「あらあら、遅かったわね」
店主のマノンさんがカウンター越しに、大きな包みを渡します
ホールのガトーショコラです
「気をつけて持っていってね! あの人によろしくね」

「もう日は暮れたかしら?
こんな曇り空じゃ、日が暮れてるんだか暮れてないんだか分んないよ!」
薄暗い空を見上げて、ルルがやきもきしています
「まぁ、ネコらしくもない! 体の奥から魔法の力が湧いてくるのを感じるはずよ!」

黒猫のミミは、物置小屋から引っぱりだしてきたホウキ
ほいっと飛び乗ると、たちまち飛び立っていきました
チョコ色の毛並みのルルは、庭ボウキ
残念ながら湿っていて魔法がよく効きません
代わりに古いシチュウ鍋にむにゃむにゃと呪文をかけて
えいっと飛び乗って舞い上がります
「こっちのほうがいいわ! 座っていけるし
ケーキもあるからちょうどいい」

灰色ネコのテオドールは、屋根裏部屋で眠っていた
おじいさんの形見の魔法全書を取り出します
吹き込んだ風にぱらぱらとページがめくれて
浮きあがったところに飛び乗ると
窓から月に向かってぱっと飛び立っていきました
白猫のクレールはバッグいっぱいにキャンディを詰めこんで
金のステッキをさっとひと振り
カボチャに飛び乗って出発です

夜空の彼方へ

ニャンコたち みんなしてどこへ向かうのでしょう
高く高く雲を突き抜けて 星空のかなた
やがてあっちからもこっちからも コウモリやおばけや夜の鳥たち
たくさんの魔法の仲間たちと合流して
向かうのは世界の果て はるかはるか山々のかなた…

世界でいちばん高い山のてっぺんでは
ニャンコたちが昔仲よくしていた年取った魔女のドロシーが
相棒ネコのシュシュとふたりきりで暮らしています
世界でいちばんさいごの魔女です
でもハロウィンの晩だけは こうして昔の仲間たちが一堂に会するのです
今日も朝からパーティの準備に大忙し
やれやれひと休みと腰を下ろしたところに
世界のあちこちから ニャンコたちの一団が到着しました!

一年ぶりの再会を喜び合うドロシーとニャンコたち
テーブルにはマノンさんのガトーショコラをはじめ
見た目も楽しいカラフルなキャンディや
ありったけ色んなお菓子が並びます
甘いものに目がないドロシー
ふだんはお医者さんに止められて糖質制限をしているのです
でも、この晩だけは特別!
思い出話に花を咲かせながら、心ゆくまで楽しみます

「あの子は年々腕を上げるねぇ」
切り分けたガトーショコラに舌鼓を打って、ドロシーが感服しています
マノンさんはドロシーおばあさんの遠い親戚の娘さんなのです
「絶品、絶品!」
ニャンコたちもむしゃむしゃ頬張りながら、異口同音に褒めたたえます

昔、ドロシーとニャンコたちは色んな冒険を一緒にしたものでした
あちこちで実はけっこうひどい悪戯もしてきました
ここではちょっと書けないお話も
それはまた別の機会にお話ししましょう

そのうち誰かがレコードをかけて、みんな歌ったり踊ったりの大騒ぎ
ドロシーも重たいスカートをつまんで、よろめきながら踊り出します…
夜も更けるとみんな踊り疲れ、ソファに倒れ込みました
「まぁまぁ、みんな元気でうれしいよ」
ドロシーは目を細めて、一匹一匹の首すじを優しく揉んでやります
みんなうっとり、ゴロゴロ喉をならしています

楽しい時間はあっというまに過ぎて
「あら、もうこんな時間! あたしたち、帰らなきゃ!」
とクレールが言い出します
「あぁ! 残念だけど行かなくちゃ」とテオドール
夜明けの最初の光が射すまでに家に着かないと
魔法の力は消えてしまうのです

「ホットワイン飲みすぎちゃったわ うまくホウキに乗れるかしら」
ミミがふらふらしながら言います
「あなたその調子じゃホウキは無理よ
あたしのシチュウ鍋にいっしょに乗って帰りましょう」
ルルが肩を支えてやります

「おやおや、あんたたちもう帰るのかい
あたしはまたひとりぼっちかね」
ドロシーが嘆きます
「あんたそんな調子で帰れるんかえ
泊っていってもいいんだよ 何ならうちの子になるかい」
ミミの喉元をやたらとくすぐりながら、猫なで声で持ち掛けます
ミミもまんざらでもなさそうなようす
「にゃんだと、ひとりぼっちだって! わしがおるでよ」
シュシュが憤慨しています
「よろしく頼む!」とテオドール
「心配しないで、おばあちゃん
来年また来るわよ!」とクレールが保証します

みんな飲みすぎと踊り疲れでふらふらしながら
ばたばたと慌ただしくドロシーに別れを告げて
山のてっぺんから飛び立ちました
夜空の東の端がうっすら明るくなり始めています
夜明け前の、凍てつくような寒さです
「ヤバイヤバイ! 急がなきゃ!」
流れ星がシューシュー飛びすさぶのも追い越して
みんなは一心にパリを目指します

帰路のニャンコたち

真っ暗に広がる冷たい海の上に差し掛かると、みんないつしかしんとなりました
「…ばあさん、寂しそうだったな」
やがてテオドールがぽつり
「別れ際はいつも、ね… 可哀そうになっちゃう」
と、ルル
ミミはドロシーが貸してくれたヤナギの籠に丸くなって爆睡しています

「ときどき考えるんだけどさ」
とテオドールが言い出しました
「万が一にだよ、ドロシーが俺たちに魔法をかけて、俺たちに出すケーキか何かに魔法を仕込んでさ、あの山から二度と帰れなくなったとしたら?」
「何よそれ」
とクレール
「私は別に構わないわ」とルル
「ドロシーのこと好きだもん」
「あたしはイヤよ」
とクレール
「パリのほうが面白いもん! あんな山、なんにもないじゃないの」
そのあと、ちょっと考えて付け足しました
「まぁ、でも老後にはいいかもね… ともかく、うちに着いたらDMしてやりましょ」

ようやく暗い海のかなた、オンフルールの灯台の光が見えてきました!
「もう少しだ、急げ急げ!
日が昇る前に着かないと、俺たちもう飛べなくなるぞ!」
とテオドール
「あたしメトロで帰るなんてまっぴらよ!」
とクレールが宣言します
ミミとルルは酔いと眠気でふらふらになって、半分潰れたまま超特急で運ばれていきます

眼下にとうとう、ひときわ光り輝く一画が見えてきました
「あぁ!…翼よ、あれがパリの灯だ」
とテオドールがつぶやきます
とりわけ宝石箱をぶちまけたようにまばゆく輝くのは
モンマルトルの界隈です
「この眺めのためだけにでも、この街に住んでる価値があるというものだわ
…こうやって空から眺められることはめったにないけれど」
うっとりとクレール
眠りこけていたミミはこの景色を目にすると、目を真ん丸にして飛び起きました
並走するシチュウ鍋のほうへ手を伸ばしてルルを叩き起こそうとしますが、疲れ切ったルルは目を覚ましません

「さぁ、もうすぐだぞ、降下準備!」
日の出のさいしょの光が顔を出した瞬間
ニャンコたちはついになじみのポプラ小路にたどり着きました!
着地のちょっと前で魔法の力は切れてしまい、みんなの乗り物は急に魂を失ってすとんと落下してしまいます
でも大丈夫、そこはネコのこと
ひょいと身をかわし、優雅に地上へ降り立ちました!

みんなやれやれと仮装を脱ぎ捨てて
疲れ果ててベッドに転がり込みます
籠もホウキもシチュウ鍋も庭にほったらかしのまま
何もかも忘れて夢の中へ…
人間界も今日はお休み、トゥッサン(万聖節)の祝日です
彼らもまだ夢の中、誰一人としてニャンコたちが
戻ってきたことに気がついたものはいません

え、なになに?
「うちのニャンコはこっそり抜け出したりしていないよ!
ひと晩じゅう、僕のそばで寝ていたよ」ですって?
いやいや、分かりませんよ
もしかしたらあなたのニャンコも
そのへんの木片とかカボチャおばけにむにゃむにゃと呪文をかけて
自分そっくりの分身に仕立て上げておいて
実はこっそり出掛けていたのかも!
何しろ彼らは魔法を使えるのですから
ハロウィンの晩だけは!

魔法にかけられた場所

これが昨夜、ポプラ小路の塀に腰かけて雨宿りしながら
街灯に照り映える石畳の光を眺めていたとき
私のところへやってきた物語です
ニャンコたちと一緒に空を飛びながら
眼下の景色が流れゆき
物語が映画のように展開していくのを
まざまざとこの目に見ていました
いつか現実世界にあれを再現できたらいいなと思います
でもほんとは、これを読んでくださった皆さんもすでに
アニメ映画のようなあの映像を
心の目にまざまざと見ていたのでは?

私はもともと作家ですから
こういう 物語が訪れてくる瞬間 というのが
生きていてもっとも幸福な時間 といって過言ではありません

世界中のあちこちに
訪ねれば物語がやってくる 不思議な土地
魔法のかかった場所というものがあります
ニャンコにとってそれはたとえば北ウェールズのあの谷や
西アイルランドのあの荒野
でもニャンコが知る限り ここがパリでは唯一
そういう魔法のかかった場所なのです

魔法のガトーショコラ

帰りがけ せっかくだから角のブーランジェリでお菓子を買っていこう
傘の水気を切って入ります
夏に訪れたときはバカンスで閉まっていた
いい感じのブーランジェリです
もうすっかり夜でしたが カウンターにはまだ小さな列ができていて
人気のお店なのだろうな
ニャンコも魔法のガトーショコラをひと切れ
店主のマノンさんもとても感じのいい方でした

そしてこのガトーショコラ ほんとに絶品でした
初めてのお店だから 正直期待はしていなかった
それが一口食べてみたらびっくりするほどの美味しさで
けっこうなボリュームにも拘らず 食事のあとでもペロリ

そしてこれ ほんとに魔法のケーキだったのかも
そのあとこの物語を書き始めて
魔法のようにひと晩で書き上げてしまいました
ニャンコたちと夢中で冒険をともにしているうちに
気がつけば、おやおや、もうすぐ夜明けです
彼らが星空を突っ切ってこの街に戻ってくる前に
そろそろベッドに入りましょう
彼らが一晩中 こっそり出掛けていたことなど
気づいていないふりをして、ね

「夕べのこと、誰にも言ってないでしょうね?」



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