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10月無口な君を忘れる


「おはよ。朝だよ。朝っていうかもう昼だけど。
私もう時間だから行くね。今までありがとう。
バイバイ」

「最後くらいこっち見てよ」


(部屋のインターホン)
(扉を開ける音)
「あ、いらっしゃい」
『やっほ、ちょっと寝かせて』
「ん、いいよ」

(部屋を歩く音)
「何時に起こす?」
『4時で』
「お店開けるの8時じゃなかったっけ?」
『まあ仕込みとか色々あるんで』
「店長は大変だ」
『そういうこと』
「お疲れ様」
『ん、ありがと』
「昼夜逆転ね」
『まあ慣れたもんですよ』
「今度また遊び行っていい?」
『来る時は連絡してね』
「……分かってる」
『おやすみ』
「おやすみなさい」

「……12:43」
「天気、いいですよー。お日様、元気ですよー…」
「お出かけしたくなりませんか」
「なんて」
「…おやすみ」

(時計の音)

「起きて、時間だよ」
『んん……もう?』
「うん、起きなきゃ」
『…ありがとう。起きた』
「どういたしまして」
『(ため息)』
「…疲れ取れない?」
『うーん、大丈夫』
「そっか」
『ちょっと充電』
「ん?スマホ?」
『違くて』
「うわ」
(抱きしめる効果音)

「充電、になりますか」
『なる』
「そっか」
『ちょっと嬉しそう』
「そういうこと言うのやめて」
『照れてんの』
「……はい、終わり」
『ん、ありがと』
「私も途中まで一緒に行こうかな」
『え?』
「…(ため息)すぐそこのコンビニだよ」
『ああ、いや、うん。ごめん』
「大丈夫だよ」

(部屋を出る音)
「わ、まだ明るい」
『日長くなったよなあ』
「夜来るの忘れそうになるよね」
『だな』

(歩く音)
『駅近くていいよな、ここ』
「便利だよ。仕事行くにも、買い物行くにも」
『だよなあ』
「あっ」
『ん?』
「ヒール、引っかかっちゃって」
『大丈夫?』
「大丈夫って、やばい、そこ踏切」
『え?』
「ここ、踏切長いんだよ、先行って」
『いやでも』
「いいから」
『分かった、また連絡する』
「うん、行ってらっしゃい」
『うん、じゃあ』

(踏切の音)

「あー、ちょっと擦れちゃったかな」
「……本当に行っちゃうもんなあ」
し」

「…行ってきますって、言ってくれなかったな」

(コンビニの入店音)

女性ナレーション

おやすみ、おはよう、以外の挨拶を返さないのは、きっとわざとだろう。
ただいま、おかえり、行ってきます、行ってらっしゃい
私に求められてるのは、それじゃない。

デートは、したことない。
私の部屋には突然、彼の部屋には、連絡を入れてから。

「…終わらせなきゃって、ね、分かってるんだけど」

「でも、だって」
「好きなんだもん」


(居酒屋の音)



『いらっしゃいませ』
“1人なんですけど”
『全然、どうぞ』
“ありがとうございます。このご時世どこも空いてなかったから”
『まあ本当はウチもダメなんですけどね、開けてたら』
“いやー、外から見た時助かったーって思いましたよ”
『酒飲みたい気分だったんですか?』
“女に振られまして”
『…それは、なんというか』
“あ、いやそんな。大丈夫です。彼女じゃないです”
『え?』
“…彼女では、ないんですけど。まあなんか、飲みたくなって”
『…そういう時もありますよね。まあ良かったらゆっくりしてって下さい』
“助かります。とりあえず生で”
『かしこまりました』

“女の人ってめんどくさいですよね”
『……刺されますよ、色んな人に』
“大丈夫です、同じくらい男もめんどくさいの分かってるんで”
『…同意します』
“なんかもっと上手く生きたいもんですよね”
『俺は、もう少し真面目に生きたいですね』
“……一緒に飲みます?”
『仕事中です』
“ですよね”


(朝の音)
(シャッターを閉める音)

『……よし』
『帰るか』


(スマホのフリック音)

「今日部屋に行っていい?」

『(ため息)』

(スマホのフリック音)

『いいよ、あと、ちょっと話したいことある』

「分かった」



『……ごめんな』



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参考 あたらよ「10月無口な君を忘れる」

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