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振り返って


『』女性 「」ナレーション 男性


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今日の君は笑ってた

「いつくらいの夢だろ」

考えない日も
夜に現れない日もない

「付き合いたて、じゃないか」

「指輪つけてたし」

洗濯物をしてる君の横で
覚えたてのギターを弾いて

君が僕に合わせて鼻歌を歌って

「あ、ガスの支払い忘れてた」

「…こういうのも、任せちゃってたんだよな」

もしかしたら笑わなくなった後の君を
上書きしたのかもしれない

都合よく、ちょうどよく

「うわ。雪降りそう。コート出さなきゃ」

「…どこだっけな」

春になったら、次の冬の準備をするんだと
クリーニング屋の場所を教えてくれたのも
君だった気がする

「桜見に行くって、言ってたけど」

「結局行かなかったな」

「この家からじゃ、遠かったんだよな」

僕達は、そんなのばかりだ

当番制の家事
飼いたいペット

鈍行で行こうと話してた
好きな映画の舞台

形骸化された約束は
だからって、忘れていたわけじゃなかった

『いつでも出来るは』
『しなくてもいい、と、同じだよ』

『電車で20分の桜が遠いなら』
『それは多分、私たちの距離が遠いだけ』

そうだったのかもしれない
だけどいつでもいるだろって
無意識に、不躾に、思ってたから

「約束を破ったら、一緒に寝ない」

そんな約束も、忘れていた

くだらない話をしようと言って
その内容すら出てこなくて

僕は君の好きなアイスの種類すら知らなかった

最後に君が笑ったのが
別れる日だなとか、そんなこと

『次はね』
『後回しにしない』
『電球は貴方が交換してあげて』
『花は枯れるから嬉しいんだよ』
『あとは』
『たまに抱きしめる、キスをする』
『多分それで大丈夫』

『とおい約束は、しない方がいいかもね』

振り返っても、振り返っても
君がくれたのは優しさだったんだなって

どんな君にもそう思うから

こんなに寂しいんだろうなって

「なんの花が好きか」

「聞いたら答えてくれたかな」

百均で買った空の一輪挿しに
何が咲いてたのかも、思い出せないけど

それでも振り返る日々に君がいる

謝ることは最後まで出来なかったから

次に、君のとなりに立つ人は
歌が上手い人だったらいい

洗濯物を干しながら、鼻歌を歌う
そんな君の隣で、一緒に干しながら歌うような

そんな人が隣にと





それだけ、願う















参考:澤田空海理『振り返って』

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