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楽曲派は滅びるかもしれない

2023年は、ある地下アイドルにとっては飛躍の年だっただろう。

コロナ禍の規制解除でフルキャパでのライブ開催が可能となり、コロナ前の地下アイドル現場が戻ってきた。それは業界にとっては諸刃の剣のようなものだったかもしれない。

コロナ禍中にデビューしたアイドルにとっては実質初めての地下アイドル現場であり、コロナ前を知るアイドルはコロナ前のように元に戻せるのかが試された。まさに試練の年であった。

結果は知る通りである。地下アイドル市場における大御所は2022年から解散、現体制終了が相次ぎ、また多数のアイドルが活動に終止符を打つこととなった。2022年まではコロナ規制のせい、と言い訳もできたが、2023年はそうはいかない。通常運転において通用しなかったという現実を突きつけられる形となった。

そんな中で常に話題の渦中にあったのはフルーツジッパーとアイライフではないだろうか。もう詳しく説明するまでもなく、tiktokでバズって一気に駆け上がっていったグループのうちの2つである。その過程も、結果も特に論じることはないだろう。流行がぐるぐる巡る中でうまくチャンスを掴み、結果を残せたということだと思う。

さて、表題の件、このtiktokでバズった、が今後の地下アイドル業界に変化をもたらすと私は考えている。既に観測できるように、あらゆるアイドルがtiktokでの一発逆転?を狙ってか投稿に配信を熱心に行っている。

tiktokを触ってみれば分かるが、数秒の動画が次々流れてくるような仕様である。この数秒でバズる、という仕組みそのものが、楽曲派を急激に死滅に追いやると見ている。(※この投稿における楽曲派とはいわゆるロリコン楽曲派ではなく、旧き良き地下アイドルを指す。)

過去の地下アイドルは48やももクロのコピーが乱立し、その中から音楽系の運営が楽曲を武器に我々オタクに新規の体験をさせることで売れることを目指していた。ももクロ式がある程度定着し、楽曲ジャンルも出尽くすと王道系に回帰しつつも、楽曲クオリティ、ステージクオリティは磨いていった。そんな中でオタク側の目も肥えていくこととなった。市場がある程度拡大したところでコロナ禍に入り、大半のオタクは地下アイドル市場は縮小すると考えたと思う。しかし、完全にコロナ規制が解除された2023年5月以降は縮小どころか拡大しているのではと錯覚するほどのイベント量であった。しかし振り返ってみればこれはコロナ禍の反動に過ぎなかった。あの厳しい競争環境に耐えられず終了を決断したグループが次々と出てきた。ついに市場が縮小する局面を迎えたと、多くのオタクは感じたはずだ。

その中で一縷の望みを賭けるかのように、tiktokでバズろうとするグループが乱立してきた。tiktokでバズるとは楽曲がバズることだと思う。これはtiktokでバズるための楽曲作りをするようになる、ということである。

なぜtiktokなのか。近年では唯一成功した事例、以外の理由はないと思う。どうやって売れるか、を考えると、どれだけ多くの人に知ってもらうか、を考えればいいわけだが、その手段が10年ほど前とは違ってきている。48にしろももクロにしろ当時はオールドメディア、すなわちテレビや雑誌での露出が基本でありメインであった。それが最近はSNSがメインになりつつある。周りの人に聞いてみてほしいが、よほどの高齢者でない限りテレビも見ないし雑誌も買わない人が増えている。これはコロナ禍の在宅時に供給も需要も増えたことと無関係ではあるまい。現代において多数の人に知ってもらう入口はテレビではなくSNS等のインターネットメディアに置き換わりつつあるということだ。そして特に若者向けのSNSであるtiktokに力を入れている、ということだろう。(国内市場だけを見ると若者層の総合的な経済力など中高年層に比べるとたかが知れており、経済的側面から見ると若者向けのマーケティングにはあまり意味がないと思うが、それはまた別の話だろう。)

で、tiktokでバズると何が起きるか。これは先行事例であるフルーツジッパー、アイライフ、高嶺のなでしこあたりがいい例だが、とにかく女オタが極端に増える。昔から売れるには女オタが必要と言われていたが、これを証明した形になる。ざっくり見てみたところ、女オタは専オタが多いように感じる。男の地下オタは大半DDだが、女オタでDDはほとんど見ない。(対バンでのアイライフを見れば明らか。)これは何を引き起こすか。運営が女オタ向けになっていくのである。

元来オタクとはある意味でこだわりの強い生き物である。これはアイドルオタクも例外ではなく、何かしらアイドルにこだわりがある。そのこだわりの強い需要に今までの地下アイドル業界は応えてきた。それは楽曲であったりパフォーマンスであったりである。その対局にあるのがいわゆるライト層であり、売れるにはライト層の支持が必要であることは言うまでもない。地上アイドルを見ても分かるように、やはりライト層やライト層寄りのオタクが大半を占めていると思う。そして今の地下のライト層と呼んでもいいオタクの大半は女オタである。

地下なのにライト層とはという話でもあるが、ややこしいのはこれが"地下"で起きている話だからだ。地上でそういう顧客構成になる分には別段不思議はないと思う。マニア層しかいなかったような地下でこの現象が起きてしまっている。

これでZeppに行けるとなると、どの運営も女オタの取り込みに必死になる。営利企業だから当然である。運営は若い女の夢をボランティアでかなえるおじさんではないのだ。女オタの取り込みを重点課題とすると、女オタ向けの施策を打っていくことになる。それは元々地下の土台を支えていた男のマニア層を置いていくことになる。それがアイドルがより大きいステージに立つために必要なこととして。

先行事例と同じように売れるならそれもいいだろう。だが、二番煎じが武道館を埋められると思うのか。ももクロのフォロワーを見れば明らかだろう。誰も成功しなかった。10年以上経って初めてフルーツジッパーが再現した。これは顧客の入れ替えを伴う時間が必要ということだろう。(偶然か否かアイドル10年周期に当てはまる。WACK系やベビメタがあるが、ここは音楽ジャンルの違いで勝負して成功した事例だと思う。王道系真っ向勝負ではフルーツジッパーが初めてでは。)

全てではないにせよ、多くの地下アイドルがフルーツジッパーやアイライフの真似事をし出している現状は、地下のメイン層にとっては好ましくはないことだと思われる。どのグループも一瞬のバズを目的とした楽曲になり、そして同じような振り付けに、盛り上がるポイントまで指南してしまう。自由だったフロアは無くなり、同調圧力だけがある無味乾燥な顧客の集まりと化す。1kのチェキをどれだけ回せるかが顧客の価値となり、ライブハウスは貨幣の飛び交う貨幣資本主義の象徴となる。そこに楽曲やライブで競い合ったあの頃の地下アイドルはいない。

楽曲派はいずれ、旧き良き地下アイドルを愛する一部の者に支えられて、さらなる地下に潜伏することになる。そしていつの日か思い出に変わる。そんな日が来ないことを願うばかりである。

以上

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