見出し画像

ライブアイドルの体現者

風の強い日だった。風の音で目が覚めた。ただそれは、風の音で目が覚めた、と思わせただけで、これからわーすたのライブへ行くという高揚感で目が覚めたのかもしれない。夜中の3時だった。台風かと思う強風で、JRは運休だった。愛車のPOLOを走らせ空港へ向かった。地方空港便は欠航していたが、幸運にも東京行きは動いていた。空港は様々な人が行き交う。それを毎回感じる。ただ、いつもよりもサラリーマンが多いと感じた。まん防明けで東京から来た出張組が週末福岡で遊んで帰るのだろうか。

東京は曇りだった。福岡の嵐はまだ福岡に留まっていたのだろうか。夕方から雨が降るらしい。風は生温かった。この生温い風が春の訪れを感じさせる。去年東京に来たときは冷たい風だった。オタクの悲しみが吹いていたのかもしれない。だとすれば今日の風はオタクの複雑な心境かもしれないな…と思ったが、自然現象なのでそんなことはない。




パラドックスツアーから数えて約5年、初めて周年ライブに行くことが出来た。5周年ライブはコロナで配信オンリーに、6周年ライブは今ほどコロナも楽観視されていない頃で、まだワクチン接種もしておらず東京へ行くことに色々な意味で恐怖が残っていた。そして今回、ある程度落ち着いて来たこともありようやく来ることが出来た。

4人になってから初めての大型ワンマンライブ。ワンマン自体は4人体制のお披露目を1月にやっているが、実質的にはこの7周年ライブが初めてと言っても良いだろう。新曲ミライバルダンスのリリイベも終わらせたタイミングで、新しいわーすたをここでしっかり見せていく、というそれこそ決意表明のライブと認識していたし、実際にそうだったように思う(1月のライブがそれに相当するというのがメンバーの談であったが、曲数、規模的にも今回をそう位置付けるのが妥当なように思う)。

新曲ミライバルダンスからスタートし、二曲目はCongrats!、三曲目はDokiDoki todayという構成に、これからの私たちとファンへの感謝、そして変わらないわーすたをこれから見せていく、というメンバーと運営の気持ちを垣間見た。

個人的に、ミライバルダンスはオタクが言うような原点回帰ではなく、あくまでもわーすたのリスタートを表現した曲だと思っていた。サウンドプロデューサーの岸田勇気氏もnoteで述べていたが、MVや衣装といったビジュアルイメージは確かにわーすたの原点であるkawaiiそのものであり、ここ数年の楽曲偏重傾向(エモ系王道アイドルロックとでも言おうか)からすれば、うるチョコ当時のあのわーすたのイメージを彷彿とさせるものである。しかし、この楽曲自体を原点回帰と言ってしまうのはあまりにも浅はかであり、そういう声が散見されるのは新規のオタクが多い故なのかと思われた。ミライバルダンスのわーすたは、今までの、特にグレープフルーツムーンあたりから(坂元さんの卒業曲でもある)詠み人知らずの青春歌までと地続きであって、昔のわーすたが戻ってきたわけでもないし、昔のわーすたへ回帰したわけでもない、わーすたというグループが進化してきた現在の到達点を4人体制のリスタートという形で表現したのではないかという考えは、今回の7周年ライブではっきりと確信に至った。


一部のみの楽曲にスタンドアロンコンプレックス、グレープフルーツムーン、stay with me babyがあったが、こういうボーカル曲にこそわーすたの真骨頂が見られると思っている。毎回ワンマンでは仕上げてくるが、やはり廣川さんの高音の伸びは素晴らしいしあの艶声は今のアイドル界ではなかなか見かけない逸材だろう(少なくとも地下ではいないと思う)。三品さんの安定した低めの歌声との対比がよく効いている。また、スタンドアロンコンプレックスとstay with me babyでは松田さんと小玉さんがバックダンサーに専念するため、非常にバランスのいいわーすたを見ることができる。stay with me babyについては大人になったメンバーだからこそ表現できる深みが以前よりも増しており、当時との比較もおもしろい。本人たちの成長と共に単なるkawaiiだけはない、20代アイドルにふさわしい表現力、オーラを身に着けてきたのがこの3年くらいであり、坂元さんの卒業発表から今回のライブでしっかりと定着したのを感じることができた。

萌えってかエモ〜暮れないハートまではライブ中盤ということもあり、主に近年の楽曲を中心に4人体制でのお披露目という側面が強かったように思われた。2時間にも及ぶライブで、しかもわーすたのようにMCがあまりないライブでは中盤にどうしても観客側がダレるのだが、緩急つけた楽曲構成と衣装変更で飽きさせない工夫をしてきたように思う。

終盤の楽曲はKIRAKIRAホログラムからJust be yourselfとオタクの好きな楽曲上位を持ってきて最後まで飛ばす、というかオタクを潰す意思を感じた。このあたりはわーすた自身もオタクも慣れた楽曲であり、安定の盛り上がりである。

一部と二部の構成で違ったのは中盤前三曲とアンコールニ曲であった。特に二部アンコール最終楽曲にハローto the worldを持ってきたのは意図的に思われた。要所要所での楽曲選択から察するに、誤解を恐れず言うが、同一メンバーで10年が見えてきて終わりが近いと思われるアイドルが、(メンバーが卒業するという)一つの節目を超えて再出発を果たす、という強い意思があったのではないか。廣川さんもMCでもうベテランと言っていたことからも、(近年では長寿命化したとはいえ)10年もアイドルを続けてたらそろそろ……といった共通概念のようなものは認識していると思う。実際、坂元さんが辞めるとなったときに活動年数を見ても解散しておかしくなかったし、わーすたメンバーもファンもなんとなくそんな意識を持っていた。その中で続けるという選択をした4人のこの約一年の想いや決意が今回のライブに込められていたと思う。そしてメンバーが口を揃えて言っていた事はファンへの感謝の想いであった。当然、4人体制への移行でファンが減ってしまう、ついてきてくれなくなるのではないか、という不安はあっただろう。1月の再スタートライブからリリイベ、そして7周年ライブときて、よりファンの存在を実感したかのような、そんな口ぶりだった。

本当にありがたいことだと思う。アイドルとファンの関係性は人によって色々な考えがあると思うが、こうやってライブでしっかり返してくれる時がわーすたのオタクで良かったと思う瞬間だ。そして本来、アイドルグループというのは箱で推せないといけないということを再確認できる存在だとも思う。個人的な考えになるが、メンバーが入れ替わって箱だけ存続するタイプのアイドルグループはやはり違うと思う。そのメンバーがグループカラーを、グループの歴史を作ってきたのだから、メンバーが全員入れ替わる時点で終わらせるべきだとは思っている。メンバー不変で7年やっていることが今のわーすたを確実に作っている。



嵐は過ぎ去って、澄んだ青空が広がっていた。春休みだからだろう、空港には子ども連れがたくさんいた。羽田は東京のアッパーミドル以上の層で占められているようだった。風もなく穏やかな日だ。わーすたの新たな一歩に安心したオタクの心模様だろうか…だとすれば澄み過ぎている。我々にこんな空は似合わないだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?