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修理する権利 ~利益の独占? 品質保証?~

アメリカの法律は興味深い。長年に渡る議論に一応の決着がついた。


 米国で「修理する権利」を認める法律が可決

米連邦取引委員会(FTC)が公開会合を2021年7月21日(米国時間)に開き、「修理する権利」に関する法律の施行を全会一致で可決した。これにより、米国の消費者が独自に電子機器や自動車を修理できるようになる。

  yahoo!ニュースより抜粋


これだけだとピンとこないかもしれないが、簡単に言えば

「スマホやハイテク機器満載の車の修理に必要な道具や情報を、子会社・関連会社・提携企業以外にも提供しろ」

という事。背景にあるのは

「スマホの画面が割れた。正規店なら1万円だが、独立系の修理業者なら2000円で修理できる。ただし後者は不正改造となり、今後は正規店の補償・サポートが受けられなくなる」

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といった問題。この「修理する権利」はこれまで米国で長年に渡り議論が繰り広げられてきた。

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「メーカーに無断でタイヤ修理した罪で逮捕する。新しい車を買ったらどうだ?」

Wiredの記事(2013年3月26日)より


おそらく多くの人がリンゴのマークを思い浮かべるだろうが、それは過去の話。あくまでも米国の話だが、アップルも当初は「正規店以外の修理は不正改造とみなし、補償期間中でも・・・」という方針だったが、2019年からは契約を結ばない独立系の修理事業者にも部品や修理用のツールなどを提供して「不正改造」の定義を緩めている。

もっとも修理業者には「オンライン講習による認定コースの修了」「交換したパーツなどは壊れているものでもアップルに送り返す」といった正規店同様の条件を求めているので、「正規店になるハードルが下がっただけ」ともいえるが・・・


米国にはマグナソン – モス保証法(1975年制定)なる法律があり、メーカーに対し、製造元のメーカー以外が製品を改造したり手を加えたりした場合に、保証が無効になることを消費者に伝える行為を禁じている。(英語版wikipedia 日本語版解説サイト

禁じているにも関わらずこのルールを無視している大手メーカーに業を煮やし、FTCが新たな「修理する権利」を認めたのであろう。

この「修理する権利」は消費者側からすれば喜ばしい限りだが、本当に消費者のためになるのだろうか?過去の両者の意見を拾ってみた。


賛成派(消費者側)の意見

・自分が所有する製品を修理するために必要な工具、部品、説明書、ソフトウェアを消費者が入手できるようにすべき
・大手メーカーが製品の自主的な修理を妨害あるいは制限したり、直接メーカーに修理を依頼することを消費者に強いた上で、割増料金を請求したりすべきではない
・新型コロナウイルスが大流行した際、医療機器のエンジニアたちが人工呼吸器などの重要な機器に必要な情報・修理用具をメーカー側の都合により入手できないケースがあった


反対派(メーカー側)の意見

・製品の安全性が低下する
・消費者の安全と環境保護を考慮していない
・組み込みソフトウェアを勝手に修正されると機器の安全な動作、排ガス規制、エンジンの性能に関連するリスクがある
・米消費者製品安全委員会(CPSC)が法律で義務づけている動力芝刈り機のブレードの安全制御や、米環境保護庁(EPA)が法律で義務づけている排出ガス制御に対する修正や改ざんを認めてもいいのか
・電話、コンピューター、火災報知器、医療機器、ホームセキュリティシステムなど、消費者が健康、安全、幸福のために利用している製品を修理するための効果的かつ安全なシステムを勝手に修理・改造されても責任がとれない


反対派の意見は日本の車検制度に通ずるものがある。確かに間違っていない。だからといって前述の風刺画のような利益の独占は許されない。ゆえの「修理する権利」なのだろうが・・・販売後の製品の修理・改造を何でもかんでも認めてしまえば最悪の場合、こんなことが起きてしまう。


「スバルさん、うちのサンバートラックのエンジンの調子が悪いんだけど、見てもらえる?」


サンバルギーニ・コ・カウンタック LP360       

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images:くるくら


ベース車は1974年式スバル・サンバー トラック (K71型)

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image:motorz


これはあくまでも極端な例。前述の風刺画の逆バージョンと考えてほしい。

作った人もスバルに対して「おたくの車だ。責任を持って修理しろ」とは言わないだろうし、スバルだって「エンジンはオリジナルのままですね。やってみましょう」と職人魂を見せそうな気がする。


「iPhoneを自分で修理したら熱暴走して火傷した。プログラムをいじっただけで本体には手を加えていない。補償及び損害賠償を」

「消費者には修理する権利がある。コンピューターウイルスを100%排除できないWindowsは欠陥品であり、自分でOSを修理(改造)したい。マイクロソフトはソースコード(プログラムの設計図)をすべて開示しろ」

といった輩が登場して訴訟に発展した場合、アメリカの裁判所はどのような判断を下すのだろう。現時点では「デジタルデータは修理する権利の対象に含まれない」と思うが、今後多くの消費者が声を上げればFTCが動き出す可能性もある。


「修理する権利」が認められたから終わり・・・といった単純な問題ではない。



本日のおまけ

魔改造車を検索していて偶然見つけたロシアの車。他にも笑えるものがたくさんある。

Widebody conversion for Lada (ラダをワイドボディ化してみました)

まずは20㎝ずつカット (1:30~)
余分なタイヤを外して(3:04~)
合体!(3:27~)
完成!!(3:58~)
車内は広々(4:55~)
テストドライブ(6:50~)

エンジンは2個。
ハンドルは左右連動式。
エンストしがちだが、とりあえず走るしバックも可能。

さすがは「おそロシア」である。



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