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私がやりました ~山屋Dの告白~

時効なので自白します。実は私・・・殺しました。いえ、実際に殺したのはCさんですが、私も共犯です。


20年以上昔の話です。アルバイトで、とある山小屋の管理人をしておりました。山小屋といってもみなさんが想像するようなボロ小屋ではなく、50人以上が宿泊できる大きな施設で、山小屋というよりは旅館・民宿といった感じです。

その山小屋は冬季は閉鎖するのですが、小屋の管理のために数人が小屋で越冬します。常駐と言うわけではなく、月に何日か宿泊して小屋の手入れをする・・・といった感じです。壊れた箇所をこまめに手入れしないと春季のオープン時に余計な手間がかかるので、そのための予防措置です。

壊れる原因の大半は積雪ですが、秋口は別の理由があります。熊です。冬眠前の熊が食料を求め、無人の山小屋にやってくるのです。

熊はとても臆病な生き物なので、人間に近寄ってくることはまずありません。しかし無人の山小屋となれば話は別です。熊にとって山小屋は恰好のエサ場で、室内に侵入を許せばやりたい放題、まさにはちみつを手にしたプーさん状態です。下手をすれば小屋内で冬眠される恐れさえあります。オーナーからも「味を占めると何度でもやってくる。絶対に熊を入れるな」ときつく言われています。

そのため冬季の閉鎖期間は窓にべニア板を張り付け、外壁の弱そうな部分も補強し、熊から山小屋を守るためにありとあらゆる手段を講じます。

その手段の1つが「駆除」です。小屋のスタッフの一人、Cさんが猟銃所持許可を持っていて、小屋にライフルを置いていました。もちろん規則通り鍵の掛かったロッカーに入れて、他人の手が触れないようしっかりと管理しています。

そしてある日、その事件が起こったのです。Cさんと2人で1週間ぶりに小屋に行くと、外壁が大きくはがれていたんです。離れた場所から様子をうかがっていたけど、周辺に熊の気配はなし。大声を出しながら小屋に近づき、室内に熊がいないことを確認するやいなやCさんはライフルを取りに走りました。

Cさんがライフル片手に熊を警戒し、私が小屋の修理をします。壁は壊されましたが室内に侵入された形跡はなし。備蓄食料品の被害もありませんでした。

夕刻までに何とか応急修理を済ませたものの、私は熊の襲撃を恐れていました。ここのバイトは2年目で、熊に遭遇するのは初めてです。オーナーや他のスタッフから話には聞いていたものの、熊がこんなに恐ろしいとは。

震える私に対し、手慣れたCさんは口にします。

「夜に備えて、今のうちに罠を仕掛けよう」

Cさんに言われるまま小屋から少し離れた場所に罠を設置し、小屋の2階に避難します。あとは熊が現れるのを待つだけ。カップ麺をすすった後は明かりも消し、物音ひとつ立てずにじっとしていました。

しかしその夜は熊は現れませんでした。2日後には下山する予定なので出来ればこのまま姿を見せないでくれ・・・とも思いましたが、それでは小屋が再び壊される恐れがある。出てきて欲しくないけど、できれば罠にかかって欲しい。複雑な思いです。

そして次の夜、熊がやってきました。仕掛けた罠からガサゴソと物音がします。罠といっても蓋の空いた一斗缶を半分ほど地面に埋めて、中におもりの石と蜂蜜を入れただけの簡単なもの。月明かりがあっても熊の姿は見えないので、微かに輝く一斗缶を的にして撃つとCさんが言っていました。

Cさんが撃ったのは5発だったと思います。そのあとすぐにCさんが言いました。「終了。一杯飲んでから寝よう」



翌朝。体長1メートルほどの熊が一斗缶の脇に倒れていました。

Cさんは慣れた手つきで熊の指(手のひら?)を切り落とし、2重にしたビニール袋に詰めていました。そのあと2人で熊を少し離れた場所まで引きずって、穴を掘って埋めました。

「熊の手はどうするんですか?」

「害獣駆除の証拠として提出する。本来なら先に申請を出して、許可が下りてから駆除するんだけど、順序が逆になることもある。許可が下りた後に証拠提出すれば問題にならない。まあ、暗黙の了解って奴だね」

「熊って食べられないんですか?」

Cさん尋ねたところ

「食べれば旨いらしいが、下処理に手間がかかる。買い取ってくれる業者もいるけど、解体と運ぶ手間を考えれば割に合わない。小屋のバイト代と害獣駆除の報奨金が出るから、それでだけで充分」

とのことです。


以上、酒の席で山屋Dから聞いた貴重な体験談でした。多少のアレンジはあるでしょうが、おそらくすべて事実です。山屋Dとはそんな男。



参考資料

地域によっては頭部を提出するらしい。

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