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さようなら、Chris Flexen
こんにちは、うしとらです。
今回のnoteはDFAされたChris Flexenについてです。
私は開幕前の注目選手にFlexenを挙げていました。
恐らく、Flexenのことを知っている多くの方は妙な人選だとお思いになったのではないでしょうか。
それというのも、MLBファン御用達のBaseBall Savantにおいて、Flexenはほぼ全ての指標で平均以下の数値を叩き出しており、そこから希望を見出そうとするのは、我ながらではありますが酔狂というものです。
しかし、私は根拠なく好きだからという理由だけでFlexenを推していた訳ではありません。
その推せると思った根拠と、DFAを一つの区切りとしてFlexenのマリナーズでのキャリアを振り返っていこうと思います。
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2021年 入団
Flexenは2017年にNYMでメジャーデビューしましたが、そこから3年泣かず飛ばずのシーズンを送り、2020年にはKBOの斗山ベアーズに入団し活躍します。
2021年にはその活躍の甲斐あったマリナーズとの契約に合意します。
しかし、2年契約で年平均2.34MMと期待されているとは言い難い契約。
一応、契約期間の2年の間に300イニング以上投げれば、23年の契約は8MMのプレイヤーオプションを獲得する条項を設けられていましたが、気に留める人は多くなかったように思えます。
当時の先発陣はJustus Sheffield、菊池雄星、Justin Dunnらプロスペクト達がひしめきあっており、Flexenは彼らのリザーブ的立ち位置でした。
しかし、蓋を開けてみればチーム内1位となる179イニングを消化し、防御率3.61、bWARでも3.5と上々の成績を残しました。
そのピッチングを支えるのは、90マイル前後と決して速くはない4シームを恐れずにゾーンに投げ込む度胸とチェンジアップのコンビネーション。
決して支配的な投球とは言えないものの、無駄な四球を出さずに淡々と打たせて取るピッチングはイニングイーターの鑑と言うべきものでした。
22年前半 迷走
この年のシーズン前半は何もかもがうまくいきませんでした。
防御率は4月(3.38)→5月(5.47)→6月(4.09)と一見悪くありませんが、実際の投球内容は散々たるものでした。
ほぼ全てのスタッツが悪化していますが、一々ツッコミを入れていると終わりが見えなくなるのて、xwOBAの推移を見てもらいます、
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ピークの5月のxwOBAは.369で、これは昨年度Madison Bumgarnerに匹敵する数値となっています。
昨年の打たせて取る面影はなく、打たれて取るという言葉が似合う選手になってしまっていました。
スタッツが悪化していた最たる要因は4シームの球速低下でしょう。
21年の時の4シームの平均球速は92.8mphと元々速くはありませんでしたが、この年は平均球速91.7mph、特に6月までに限れば平均球速が92mphを超える登板はたった2試合のみと明らかに異変が起きていました。
成績が悪化した原因は他にもあると思いますが、挙げるとキリがないのでこのあたりにしておきます。
22年後半 復活
そんな感じでにっちもさっちも行かなくなったFlexenは、6月から苦肉の策かそれまで投げていたカーブを捨て、スライダーを投げ始めます。
そしてこのスライダーはとんでもない魔球でした。
Whiff(空振り)%は20%程度と高くはないものの、ポップフライを量産し被安打となった打球は3つと恐るべき魔球だったのです。
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実はFlexenのスライダーはかなり高めのコースにいっているのですが、逆にこれがいい結果を生んだのかもしれません。
a.na.nさんのnoteで紹介されている記事から引用しますが、どうやら高めのスライダーにはxwOBACONとスイング率を抑える効果があるとのことです。
(スライダーは高めに投げることの有用性は書かれているものの、低めに投げた方がいいというデータも掲載されています。)
4シームの復活
スライダーを習得した7月の防御率は1.95と、これまでとは見違える投球を見せたFlexen。
しかし、7月末にマリナーズはトレードでLuis Castilloを獲得し、先発の枠を1つ空けなければなりませんでした。
そんな訳で枠を空けるためにFlexenはリリーフへの転向を快諾し、8月以降はリリーフとして投げ始めました。
これが吉と出たのか、平均球速は戻らなかったもののxwOBAは大きく改善しました。
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リリーフ転向させ、飼い殺しする選択肢もあった中で、8月には300イニングに到達して8MMのプレイヤーオプションを獲得し首脳陣からの信頼をも獲得したFlexen。
この勢いのまま次の年も活躍できれば良かったのですが...
23年 そしてDFAへ...
オフの間はトレード候補に挙げられつつも、トレードされずに挑んだスプリングトレーニングで17イニング、防御率2.65、WHIP1.29と好成績を残したFlexen。
最初はリリーフとしてのスタートでしたが、Robbie Rayが早々にシーズンから脱落し、先発のお鉢が回ってきました。
が、4先発で防御率10.38と異次元の成績を残して早々にリリーフに再転向。
リリーフ転向後の5登板は、8イニング投げ無失点と光明が見えたのも束の間。
その後は登板する度に複数失点を繰り返し、6月の防御率は13.50。
流石にこの体たらくを見逃されることはなく、6月26日にDFAとなりました。
光と影
最終的な防御率は7.71と散々たる成績であり、この成績を単にスペック不足と結論付けるのは簡単です。
しかし、Flexenは確かに思考錯誤をしており、昨年よりも改善している点もありました。
もちろん悪い点もありますが。
Chaseの増加
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22年のFlexenのChase%は28.4%で平均以下の数値だったのが、23年は32.4%と一気に上位17%の数値まで上昇させました。
図で見ると、4シームとスライダー(スイーパー)のChase%が上がっていることが分かります。
この2球種にフォーカスを当ててみましょう。
4シームの改造
昨年までのFlexenの4シームは回転数こそ多くないものの、回転軸が12〜1時方向に向いており、いわゆるシュート回転しづらい綺麗な4シームでした。
それが今年は輪をかけて回転軸が12時方向に近くなり、ボールが利き手側とは逆方向へ動く、いわゆる真っスラと呼ばれるような4シームになりました。
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この4シームは主に右打者に対するアプローチに大きな変化をもたらします。
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22年も23年もアウトコースに投げてることには変わりありませんが、23年は明らかにボールゾーン、特にアウトハイへの4シームの割合が増えています。
恐らく右バッターからすると逃げていくような軌道になっており、スイングを誘発する目的で投げていたのではないでしょうか。
4シームに関しては、Whiff%も22年の15.4%から23年は20%に改善しています。
スライダーのコマンド改善
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※スライダーとスイーパーは同じ球種という扱いです。
22年は甘いコースに投げ込んでいたのが、23年は意図的に低めのボールゾーンに投げ込めていることが伺えます。
さて、このまま良い面ばかりだけを取り上げたままnoteを締めたいのですが、そうするとDFAされた説明がつかないので渋々悪いところも挙げていきます。
シフト規制
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Flexenは三振を取れない投手であり、その分シフトによる恩恵を大きく受けていた投手です。
上記の画像を見ると一目瞭然で被打率、wOBAはシフト実行する時としない時とで大きな乖離を見せています。
(シフト敷いてない時もwOBAは.303とxwOBAの.331とは乖離していて運が良かったとは思います。)
今年はシフト規制により、化けの皮が剥がれてしまったという印象は拭えません。
被打球の悪化
単純な平均被打球初速(Exit Velocity)は昨年と比べて大差ありませんが、今年はラインドライブ性の当たりが増え、被安打が増える要因となっています。
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被打球関連の指標を見ると、LD(ラインドライブ性の当たり)%、より厳密にはFlare/Barner%が増えています。
Flare/Barner%とは簡単に言えばヒットになりやすい当たりということです。
詳しく知りたい方はMarlins Fishbagさんがまとめてくださっているので、そちらをご参照してください。
打撃向上のポイントとコンタクトの質 1/25
— Marlins Fishbag (@MFishbag) August 20, 2022
■ポイント
■安打になりやすいコンタクト
■凡打〃
■スイートスポット
■コンタクトの質
要約/x指標/映像
バレル
ソリッド
フレア/バーナー
アンダー
トップ
ウィーク
■目指す打球
■高/低打率打者の特徴
■イチロー
*画像は'16年発表のプロトタイプ pic.twitter.com/BkcXzIWKp3
そしてこの被打球の悪化は恐らく先ほど改善した点として紹介したスライダー、4シームの改善に起因するものだと思われます。
4シームはEVが92.5→95.3(mph)と増えていますし、
スライダーのEVは84.2→89.7(mph)、
スイーパーは76.2→80.5(mph)とテコ入れした球種のEVがことごとく悪化しています。
明確な要因は分かりませんが、恐らくスライダーに関しては高めに投げることに意義があったのではないでしょうか?
終わりに
ここまでは、データを用いてFlexenのことを振り返ってきましたが、彼のことを注目する選手に挙げたのはやはり自分がFlexenのことを好きだからというほかありません。
MLBは日進月歩の世界であり、それはメカニクス、アプローチだけでなく、選手自身のポテンシャルにも当てはまります。
球速が遅く、飛び抜けた武器もない選手は淘汰されつつありますが、そんな中でスペック不足ながらも悪戦苦闘するFlexenが好きでした。
最後はある記事エピソードを紹介して締めることにします。
実は8月のリリーフ転向の時にはMarco Gonzarezも候補に入っており、7月の成績はMarcoよりもFlexenの方が良かったのですが、首脳陣はFlexenがメッツ時代にリリーフ経験があることを鑑みてFlexenを選んだとのことです。
オプション獲得目前でリリーフ転向を命じられればキレてもおかしくないところを平然と受け入れた器の大きさも彼の魅力です。
他にも色々なエピソードがあるので、よければこちらのRyanDivish記者の記事をご一読してくだされば幸いです。
Chris Flexen tried to not let uncertainty dominate his offseason thoughts. But he admitted that he couldn’t completely block it out. (from @RyanDivish) https://t.co/bn7KTNA0zQ
— Seattle Times Sports (@SeaTimesSports) February 28, 2023
写真
(https://www.mlbtraderumors.com/2023/07/mariners-trade-chris-flexen-mets-trevor-gott.html)より
データ
Fangraphs
Baseball Savant
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