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夢中夢録

新幹線に乗っていたらいきなり地動説が降ってきて脳を揺さぶられた。俺は、というのはこの意識の位置は生まれた時から"ここ"にいて、死ぬまで"ここ"を動くこともないという考えだ。車輌の振動は世界の移動する地響きになった。移動しているのは外界の方なのだ。窓の向こうから山が、俺に対して、猛スピードでやってきて、目の前で巨大な壁になった。壁が去ると視界が広がり、山の斜面に建った家々がいろんな高さから飛んできた。それから横浜が飛んできた、さらにその向こうからは品川もやって来ているらしいのだ。
新幹線が俺を離れて駅がやってきた。なんだか足元に見えないコンベアが敷かれているような気がした。VRていうのを俺はやったことないがきっとあんな感じだ。首を動かして周りを見渡そうとすると、世界は俺を軸にして音もなく回転し、入れ立ち替わり俺の目の前に表れた。振り向いた俺の首の高さや角度に、世界は寸分の狂いもなくぴったりついてきた。俺がホームから改札に出ようと階段に足をかけると、駅は俺の足の高さにしっかりと合わせてその位置を下げてくれたのだ。その感覚を持ちながら、自分が素面なのが不思議なくらいだった。しかしそれから20分ほど歩くうち、その奇妙な感覚はすっかり消え去って「あほらし」てな感じになった。

みたいなことがあってから数週間を挟んでつい今朝、似たような夢を見た。かつて金持ちが所有していた別荘で今は廃墟、の屋上にラッパーの漢 a.k.a.GAMIと、知り合いのポメラニ君という奇妙すぎる3人で忍び込み、金持ちに対する妬み嫉みを大声で撒き散らすなどの迷惑行為を繰り返すという夢だった。俺は夢の中で漢から☒☒☒を回してもらい、夢の中で初めて気持ちよくなることができたのだが、しばらくすると上の右半分の歯が全部抜けてしまった。そんな話はどうでもいいですね。その廃墟の屋上には公園で見かけるような遊具がたくさん置かれていたのだった。雲梯やブランコに滑り台、ジャングルジムまで置いてあった。それが人間の手を離れ、長年の雨に晒されたことでぼろぼろに錆びており漢が足を掛けるとことごとく崩れていった。まだ全然関係ないですね。その中に、あの地球儀みたいな形で回るタイプのジャングルジムがあったのだ。俺がその中に入って見上げてみたところ、突然脳内にその場所の過去の情報が流れ込んできた。回転するジャングルジムで、例の金持ちらしい娘姉妹が遊んでいた。ジャングルジムの中には妹の方が入って、それを姉が外から回していた。もちろん姉にとって、回っているのは妹の方だった。一方妹にとって、回っているのは世界の方だった。世界は彼女を軸にして思いっきり回転しており、それが彼女は恐ろしいようだった。
https://www.youtube.com/watch?v=AdDUWUOIZtU
俺は以前、このブラックホールに吸い込まれるとどういう視界になるのかっていうシミュレーション映像を見たことがあるんですけど、妹の夢を見ている時にこれがちょっと頭をかすめた。丸いジャングルジムがブラックホールだとしたら、ジャングルジムの中にいる妹にとって、内包されているのは世界の方なのだ。ジャングルジムの内側は世界の外側でありうるのだ、みたいなことをかすめたような気もするがよく覚えていません。

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最近変な夢が多いんでもう、2本ほど。
昨日の午後8時、自室で明かりを消し、バイトまでの時間で仮眠をとっていると、夢か現実か分からない夢を見た。俺は夢の中でもまた午後8時、自室で明かりを消し、バイトまでの時間で仮眠をとっていたからだ。夢の中で眠っている時点でもうおかしいのだが……すると窓の外で、男性が鬼気迫るような大声で電話をする声が聞こえた。相槌にしては過剰なほどの焦りの混じった、それでいて規則的な、
「うんうんうんうんうん、うんうんうんうんうん、うんうんうんうんうん」
を延々と繰り返している。甚だ不気味である。怖えな、うるせえなと思い窓から覗こうと身体を起こそうとしたのだが、どうも思うように動かない。しかし身体の力を抜いてみると、こんどは不思議なことにゆっくりと上体が起き上がってくるのだ。面白くなって何度も寝ては起きを繰り返した。頭の先から何かに引っ張られているようで、その動きはまるで幽霊のようだった。
ようやくベッドから下りようと身体をひねるとまた異変がおこった。急に視界が歪んで狭くなり、視点の先に黒いもやが表れて見えなくなったのだ。同時に眼球を眼窩に突っ込まれたような痛みを眼の奥に感じた。気を張って立ち上がろうとするが、ひどい目まいでバランスを取ることができない。だめだ、これじゃバイトに行けない、と考えたところでふと気づいた、俺はバイトに遅刻しないか心配しながら眠っていると悪夢を見ることが多いのだ。これも例によってその悪夢なのだ、と気づいたところで目を開けた。俺はベッドの足元で丸まって小さくなっていた。視界はいつも通りに戻っていた。ほっと安心して横のベッドで眠る友人に、窓の外から聞こえた奇妙な声について問いかけた。すると、いや、俺はそんな声は聞いてない、と返答があった。じゃやっぱり夢だったんだ、変な夢を見たんだな、と身体を起こそうとするがまた身体が動かない。あれ?それも今度は全く。ぎょっとしてもう1度視界を確認すると、友人のベッドとの距離が少しずつ離れてゆくことに気づいた。あわてて目蓋に意識を集中し、力を込めて目ん玉をかっ開いた。今度こそ現実だ、とペンを探して頭を整理し、すると早くも文字が記されているのを見る。実際のところ、もう自分自身を信用していない。手も動かさずにノートが書けるはずがないからだ。また目を開く。また視界がおかしくなる。脳から身体への指令をしないまま、思考ばかりが毒となって身体じゅうに回るのを感じる。
「夢を夢と気づいていてもまだ起きようとしない、だからお前は甘いんだ」と書きつける。手はやはり動いていない。

また別の夢。関連性全然なし。
友人と☒☒☒をやり、深夜の通りを歩いている。ハイになってにやにやしているうちに、俺は妖怪になってしまう。どういうわけか下半身をおっぴろげて片足で飛び跳ねている。しかしその跳躍力が並大抵ではなく、通りの脇にある1.5mほどの塀を軽々と飛び越えてしまうのだ。飛び越えた先にはすぐ山があり、上り坂が延びていた。その坂の向こう、山の陰から高校生くらいの女性が自転車に乗って表れた。女性はすぐに俺と目が合い、ご開帳済みの下半身に気づくと悲鳴をあげて自転車から転げ落ちた。自転車が音を立てて俺の足元に転がってきた。俺は自転車に左足を乗せ、おぞぞぞましい笑い声をあげた。狂人のふりをする者は即ち狂人であるという言葉があるが、事実、この時の俺にも女性を驚かせて面白がろうという性根の腐った演技があったのだ。性根腐ってんなこいつ、というのは事実ですがこれは夢ですから安心して下さいこんなこと現実じゃやりませんよ。性根が腐ってるのは事実ですがガンジーも夢の中では性欲を抑えることはできないと認めているじゃないですか。こんな欲を自分が持ってるとは自分も思いませんけど、いや弁明をしたいんじゃないんです、続きです。だから、自分のあげた高音と低音を振り回る笑い声には自分自身も驚いたのだ。しかしそのうち、今度は笑い声をあげる自分自身が面白くなり、俺はなんて頭がおかしいんだという実感が心地よく、これに呑まれていった。恐れていた暗闇に分け入って、目が慣れてくると今度は明るい車内に戻るのが惜しくなるように、狂人に染まった俺は正気に戻りたくなくなるような恍惚を得たのだった。おしまい

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