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本を読む

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今は読まれなくなっている本、これはと思う最近の本など、なんでも取り上げて紹介します。分野も様々です。 独断と偏見で、3段階の評価をつけます。     ☆☆☆:読む価値あり    … もっと読む
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記事一覧

[ひろしま]石内 都(2008, 4,30)集英社78p.☆☆☆

写真家 石内 都氏が、広島平和記念資料館所蔵の被爆死した人の遺品の中から肌身に直接触れた品物を選んで撮影した写真集である。 シャツ、モンペ、肌着などごく普通の衣類を広げて撮影している。 原爆の被害の写真というと黒焦げになった遺体など目を覆いたくなる残酷なものもあるが、この写真集に集められているものは焼け焦げたり、裂けたりしているものの、被害者が被爆直前まで身につけていたというぬくもりが伝わってくるものである。 戦時中とはいえ、普通に活動していた普通の人々が、衣類を残して逝

[福田村事件:関東大震災・知られざる悲劇]辻野弥生(2023, 7,10) 五月書房270p.☆☆☆

まもなく関東大震災後、100年になる。これを機会に関東大震災について主に科学的な検証をしてみたいと思う。そんな時にとんでもない事を識った。 関東大震災直後、朝鮮人が井戸に毒をいれたとか、放火している等の流言飛語によって朝鮮人の虐殺が行われたことは、よく識られていることであった。その時に、実は日本人も朝鮮人だとされて、殺されていたという。これは寡聞にして識らなかった。辻野弥生『福田村事件』は、千葉で発生した事件をレポートしている。四国香川からの行商人15名が、朝鮮人と間違えら

[喜作新道] 山本茂実(1986, 7, 20)朝日文庫.424p. ☆☆☆

『あゝ野麦峠』で広く知られている山本茂実の作品。 北アルプスの中房温泉から槍ヶ岳にぬける登山道を切り開いた、猟師で山案内人の小林喜作の一代記である。 関係者への綿密なインタビューをもとに書かれたドキュメンタリーとして、迫力のある作品。 喜作は、腕の立つ猟師であると同時にビジネスの才能もあった、当時としては珍しい人物であったらしい。 明治から大正にかけての山里の水飲み百姓は極めて貧困であったが、中でも猟師は極貧であったという。 そんな中で、喜作は熊やカモシカ猟でそれなりの

[人間の運命] ショーロホフ(2008, 11, 22)角川文庫.188p. ☆☆☆

私はもともとロシア文学が好きでしたが、プーチンのウクライナ侵攻以来、なんとなく読むのをさけていました。 先日、ずっと前から読みたいと思って積んでおいたショーロホフの『人間の運命』を思い切って読んでみました。 訳者が漆原隆子先生は、教養部のロシア語の授業の先生でした。 今から50年以上も前のことですが、今でも漆原先生の印象を覚えています。 漆原先生のことを思い出しながら、読みました。 独露戦でドイツの捕虜になって脱出したのだけれど、家族は全滅していた兵隊が、一人の幼い戦争

本を読む(番外編) ChatGPTに感想文を書かせる!!!

読書感想文、番外編です。 今はやりのChatGPTに『我が輩な猫である』の読書感想文を書かせてみました。 こんなのが帰ってきました。 皆さん、いかがですか? ************  『「吾が輩は猫である」は、夏目漱石によって書かれた小説であり、日本文学の名作の一つです。猫の視点から人間社会を見るという斬新なアイデアや、猫の特徴的な行動や感覚が詳細に描写されていることなどが、この小説の魅力の一つだと思います。  私たちは、猫の視点から描かれた物語を通して、人間社会に

[死刑にいたる病]櫛木理宇(2017,10,19)早川書房. 363p. ☆

3段階の評価をつけます。 ☆☆☆:読む価値あり ☆☆:暇なら読んでも損はない ☆:無理して読む必要なし 無理して読む必要無しという感想ですが、暑い眠れない夜にお手にとってみても良いかと思います。 少しゾッとして寒気がするかも・・・ 24件の連続殺人を犯したサイコパスの犯人が、日々悶々としてさえない生活を送っている3流大学の学生に、1件の冤罪を解明して欲しいと依頼するところから話が始まります。 最初いやいやだった学生も、調べて行く内に自分の周辺に関連した様々なことが分かって

[2084年報告書-地球温暖化の口述記録]ジェームス・ローレンス・パウエル(2021,10.25)国書刊行会. 253p.☆☆

3段階の評価をつけます。 ☆☆☆:読む価値あり ☆☆:暇なら読んでも損はない ☆:無理して読む必要なし 題名に引かれて読みました。 アメリカの大御所の地質学者が書いた本です。 題名は,ジョージ・オーエルの有名な本「1984」をもじったものです。 「1984」は全体主義的国家の恐怖を描いたデストピア小説ですが,本書はその100年後の世界を描いています。 地球温暖化阻止に失敗した人類がたどる悲劇の未来を描いた「1984」以上のデストピア小説です。 気の弱い方は読まない方がよい

[五・一五事件ー橘孝三郎と愛郷塾の軌跡]保坂正康(2009,7,25)中公文庫. 443p. ☆☆☆ 

3段階の評価をつけます。 ☆☆☆:読む価値あり ☆☆☆:暇なら読んでも損はない ☆:無理して読む必要なし 1974年1月に初版が出版されました。 50年近く前に出版された本ですが,次のような理由で,今こそ多くの若者に読んでいただきたいと思います。 五・一五事件は,日本がファシズム国家に突入していくきっかけとなったものです。 当時の日本の経済は世界大恐慌の影響を大きく受けて落ち込んで貧富の差が大きくなり,特に農村が崩壊して行きました。 一方,政治家・政党ともに派閥争いに明け

[雪国]川端康成(1968,11,1)旺文社.236p. ☆☆                            

3段階の評価をつけます。 ☆☆☆:読む価値あり ☆☆☆:暇なら読んでも損はない ☆:無理して読む必要なし ここで挙げた本は、今は無き「旺文社文庫」の1冊です。 川端康成がノーベル賞を受賞した時(私は高校生)に、衝動的に買った本です。 定価はなんと150円。 当時、私自身は川端文学が好きだった訳ではありませんでした。 冒頭の『国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。』という、あまりにも有名は始まりから、娘が窓を一杯に開けて駅長に叫ぶ場面に強く引かれまし

[老後とピアノ]稲垣えみ子(2022,1,17)ポプラ社. 221p. ☆☆☆

3段階の評価をつけます。 ☆☆☆:読む価値あり ☆☆☆:暇なら読んでも損はない ☆:無理して読む必要なし 50歳で会社を退職した著者が、40年ぶりにピアノ演奏に挑戦した奮戦記です。 古稀を過ぎた私は、動かない指、続かない息など様々の困難に手こずりながらフルートに挑戦していることもあり、思わず飛びついてしまった本です。 誰かに認められたいどころか誰かに聴いてもらうつもりもなく、毎日フルートを練習しています。 先生につくこともなく、インターネットだけをたよりに吹いています。

センチメンタルジャーニー読書[万延元年のフットボール]大江健三郎(1967,9)講談社. ※講談社文芸文庫(2007,6,1) 492p. ☆☆☆

3段階の評価をつけます。 ☆☆☆:読む価値あり ☆☆:暇なら読んでも損はない ☆:無理して読む必要なし 初版は1967年9月で、大江が32歳の時の作品。 私は高校3年生の時に出版されたばかりの初版本で読んだ。なんと今から半世紀以上前である。 これをきっかけに、大江の作品を読んでいった。 盆地を表現したような等高線によるカバーのデザインから強烈なイメージを与えられた。 また、はじめの部分での強烈な1行がショッキングで今でも頭の中に残っている。 『この夏の終わりに僕の友人は朱

[実践 自分で調べる技術]宮内泰介・上田昌文(2019,10,20)岩波書店,272pp.☆☆☆

現代版「知的生産の技術」である。 梅棹忠夫の「知的生産の技術」が出版されたのは、1969年であった。当時爆発的な人気があったことを思いだす。周りでも、「京大式カード」を使っている研究者は多かった。私自身、膨大な量のカードを書きためていた。きりぬきを台紙に貼って規格化すること、アイデアをまとめる「こざね」方式、手書きからタイプライターでの原稿書きなど、知的生産にとって実に刺激的な内容であった。 それから50年たって、この本が出版された。その間に世の中は大きく変わった。カード

[バラカ]桐野夏生(2016,2,26)集英社656pp.  ☆☆☆

評価基準 ☆☆☆:読む価値あり ☆☆☆:暇なら読んでも損はない ☆:無理して読む必要なし 以前に別のブログに書いた書評の転載。 ************************************* 2011年の福島第一原発事故から5年が過ぎた.事故の終息の方向すら見えないまま時だけが経過し,社会の関心が次第に薄くなってきている. その一方で,日本全体がG7サミットや東京オリンピックでなんとなくはしゃいでいる. これは,そんな雰囲気の中で生きている人々に衝撃を与

[日没]桐野夏生(2020,2,29)岩波書店 329pp. ☆☆☆

書評の欄をはじめます。下の3段階で評価します。 ☆☆☆:読む価値あり ☆☆☆:暇なら読んでも損はない ☆:無理して読む必要なし ************************************ 日本学術会議が新会員として推薦した候補のうち6名を、菅首相が任命しなかったことが話題になっている。研究者や関係者からは問題点が指摘され抗議されてているが、一般の人々にはどこか別の世界の話のようで、ピンときていないと思われる。しかし、これは言論・表現の自由という観点か