小説による人生ライフ向上術

 創作活動は人生を豊かにさせます。例えば絵画だったり書道だったり、人間は何かを「創る」ことで自分の感情・思想・信条、あるいは全存在を、自分の心の外に表出させることができる唯一の生物です。
 「創作活動は気持ちいい」です。裡に秘めた衝動を形にするのはなんとも言えない清々しさが心を包みます。

 しかし同時に創作活動は敷居が高い。
 書道を例に取ると、独学は難しく、「最低限の技法」を学ばなくてはなりません。最低限の紙、最低限の筆、硯、墨、などなど揃えるものはたくさんあります。

 「表現するだけなら下手でもいいじゃないか?」
 確かにそれは一理あります。自分の世界を表現するために王羲之や顔真卿の作品を何千枚も臨書しなくてもよいかも知れません。しかし、それは一理あるだけで全てではありません。要するに、表現技法が高まれば高まるほど、自分を表現する幅が広がるという話です。

 お酒のラベルを見て「こんなミミズみたいな字、自分でも書けそうだな(笑)」と思った方は結構いるのではないでしょうか。
 先に言っておきますと絶対に書けません。なぜなら、彼ら彼女らは書道に何十年と生きて、あの字に辿り着いたからです。万人が美しいと思う楷書体を彼ら彼女らは赤子の手を捻るがごとくさらりと書き上げます。基本的なことはすでにプロ基準で出来上がっていて、その上で「自分ワールド」を表現しているのです。
 (結果、素人から見ると訳のわからん字になるのですが)

 話を元に戻しましょう。
 創作活動は「敷居が高い」という話です。
 書道を例に取ったように「自分ワールド」を形成するためには、最低限の技法を身に付けなければなりません。そこからやっとスタートなのです。基本を学ばない内に自由気ままに書いてしまっては、逆に表現力が落ちてしまう。だから敷居が高いし、そこまで行くのに何年かかることか……。

 しかし、小説は違います。
 現在ではパソコンやスマートフォンのワープロ機能も普及しています。無かったら原稿用紙とボールペンさえあればいいんです。全部で500円もしません。揃えるものはそれくらいでしょう。絵画や書道や写真に比べると非常に安価で手に入りやすいです。スタートラインが違います。

 どうやって文章を学ぶべきか。
 文章の表現技法はもちろん勉強すべきです。簡単に勉強できます。しかも、自分が楽しく学べます。用意するものは好きな小説3冊。それを読んで台詞の言い回しや登場人物の設定などを真似してみるといいのです。たったそれだけであなたには小説の表現技法が身に付きます。

 どんなものを題材にすべきか。
 最初は「自分の経験したこと」を元に小説を創るのが良いと思います。例えば職場で起きた珍事件や高校時代の部活動なんかに色をつけるのです。
 いきなりハイファンタジーやミステリー、推理小説を書こうとすると往々にして「設定を作るだけで」満足してしまい、書きはじめることすらできません。反対に自分の経験したことを元に小説を書くと、オチが見えているし、細かな設定をしなくても書けるのでオススメです。

 どのくらいの文字設定にすべきか。
 最初は3000文字~5000文字程度にすると良いと個人的に思います。長すぎると思う方もいらっしゃるでしょうが、書いてみると意外に文字数が足りないと実感しますよ。書いてみるとわかります。5000文字程度は序章に過ぎないと言うことを……。この文字数なら短すぎる訳ではないので、文章をキレイにまとめようと時間を割いて挫折する心配も減ります。

 上手に書きたい!
 と最初は思ってはいけません。小説の一番難しいところは「完成させること」です。誰もが読んで上手だと感心する小説はこの世に存在しません。なんとか読者に読ませようとして凝った設定を考えたり、奇抜なアイデアで書きはじめようとしても長続きしません。先ほども書きましたが「設定を考えるだけで満足」してしまうので、一向に完成しません。

 主義や主張はどのように盛り込めば?
 小説には作者の想いが込められています。前面にそれを押し出す作者もいれば、じっくり精読しないと見えてこない書き方をする作者もいます。それは人それぞれだと個人的には思います。
 ただ最初は「特に考えなくていい」と思います。ごく個人的な話をすれば小説に主義、主張はいらないとさえ考えています。なぜかと言えば、それを物語るのはストーリーそのものであって、登場人物に「平等な世界をつくろう!」とか「いまの政治を正そう!」なんて言わせるのであれば、それは普通にそういうエッセイや論文を書けばいい話で、それこそツイッターでもフェイスブックでも言える事じゃあありませんか。
 小説は話の流れで作者の想いを「感じる」ことが醍醐味なのであって、作者の想いは読者が自由に読み解いてくれます。

 そして何より大切なことは(何度も言うように)「小説を完成させること」です。何万、何十万文字も書こうが終わりがなければそれは駄作です。小説の文量はおもしろさに決して比例しません。奇抜な設定や細かな伏線などなくともおもしろい小説は世の中にたくさんあります。
 先ずは書くこと。そして終わらせること。
 そして「自分を題材にした小説」を書くことによって、人生を振り返ることができます。その人生の中でいくつかのストーリーを想い出し、拾い上げ、それをさらにおもしろく改変させていく。

 小説を書くことは純然たる創作活動です。そして創作活動は「気持ちいい」ものです。絵が描けない、写真を取るには機材が必要。でも、小説は文字さえ書ければ万人が楽しめる万能創作活動です。

 ぜひ、小説を書いて人生ライフを向上させましょう。

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