バイトバイトバイトバイト

8個のテーブル席と20個弱のカウンター席では到底足りることの無い日曜の店内は、私ができなくなったことやそんな話で溢れかえっている。

3世代での食事とか、推しを神様にすることとか、恋人じゃない人間との恋愛とか、母の日の似顔絵を好きなように描くこととか。
過ぎたものを静かに受け入れていたことに気づかされる。

私はただただ目を細めて遠くのものにピントを合わせるように、あるいは眩しいものを見上げるように、他のひとのそれを直視している。

少し前まで当たり前にできていたことは、歳をとるにつれて知らぬ間にフェードアウトして、おわったものになっていた。つまらない人間になってしまったことに気付かされる。報われないものから目を背けるように、働いた分だけ給料がもらえるアルバイトに没頭している。きっと私は、このお金を何にも使わない。ただ通帳の3桁が5桁になったことに安堵して、これで将来何でもできるな、などと思いながらありもしない夢に思いを馳せる。

その日暮らしで生きていた去年の夏を、音楽と好きな人にお金を惜しまなかった去年の夏を、サークル合宿のために週一で夜勤をした去年の夏を、恋しいと思っているような気がする。動き出せば簡単に取り戻せるような気もする去年の夏の私を、目を細めて遠く見上げながら、別の人の記憶なのだと言い聞かせながら、郊外の飲食チェーンのホールを今日も駆け回っている。遠くに行ってしまったすべてから目を背けるように、ひたすらに駆け回っている。

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