【NASDAQ】有人ドローン・イーハンvs.ウルフ 知りたいこと
2021年2月16日、米調査会社ウルフパックによるイーハン・ホールディングス【NASDAQ:EH】のショートレポートには驚かされました。内容はすでに広く知られているところです。2月20 日までにイーハンは、これに対し4回にわたる反論と複数の動画を公表しています。しかし、これまでの材料だとどうしても疑問が残ってしまいます。
イーハンの反論
論点となっている点で、イーハンにより反証されたのは、
・Yunfu工場は21年6月の稼働に向けて建設が進んでいる
・主要顧客とされたKunxiang社は独立した取引先である
・ショートレポートはKunxiang社の住所が11階建てビルの13階と主張しているが、当該のビルは実際は15階建てである
といったところです。イーハンの反論を信じるならば、ウルフパックのレポートが杜撰である印象はぬぐえません。
しかし、まだ完全にイーハンの疑惑が払しょくされたわけではないと思います。やはり、気になるのは売掛金の大きさです。
売上高と売掛金の増加
まず、イーハンの四半期ごとの売上高を以下に示します。出典はseeking alpha、単位は百万ドル
直近四半期である2020年7月~9月の売上高が10.5(単位は百万ドル)、その前の4月~6月が5.1、その前の1月~3月が2.7です。
つまり、2020年の売上高は累計で18.3となります。
一方、四半期末の売掛金が以下です。
2020年9月末時点の売掛金は21.2。ここから、2019年末時点の売掛金8.6を引くと12.6。
2020年1月~9月の累計売上高の7割近い現金が未回収となっています。
つまり、2020年に入ってから9月までに48台の有人飛行ドローンを売っていることになっていますが、いまだ、その3割分しか対価として現金を受け取っていないように見受けられます。
※なお、ウルフパックは売上高と売掛金について、人民元ベースで分析している。人民元ベースでは2020年1月~9月の売上高の2割しか現金回収していないことになる。為替の影響を受けるドルベースとは異なり、2020年9月まで一貫して売掛金が急増している。
また、ごく単純に、2020年9月時点の売掛金が21.2もあるのは、パッと見た感じだと多いように感じます。21.2は、イーハンの直近の売上高の1年分に近いような数字です。
年間売上高に匹敵するような額の現金を回収していないというのは、どうも解せない気がします。何らかの中国特有の商習慣があり、こうした売掛金になっているということでしょうか。
契約書と財務諸表の間にある違和感
イーハンは、ショートレポートへの反証材料として、2019年2月1日にKunxiang社と結んだ販売契約を開示しています。ここには、振込先の銀行など支払いに関する条件の項目があります。
ここには、
・全額の30%を、注文後3営業日以内に前払いする(一部は手付金として受け取り済)
・残りの70%を商品のデリバリー前に支払う
と書かれています。少なくとも当該の契約書におけるKunxiang社との契約に関しては、支払いサイト(現金支払いまでの期間)は違和感がなく、売り上げを計上してから1年近く現金を回収できないようなことはありません。
イーハンは米国会計基準であるため、売上高を計上するのは商品をデリバリーした瞬間だと思われます。イーハンの開示する財務諸表が正しいのであれば、商品引き渡しの1年後くらいに支払い義務が発生するような契約書になると思うのですが、契約書はそうなっていません。
たまたまこの契約書に関しては、現金回収が早かっただけで、他の契約では現金回収は遅いということでしょうか。
イーハンが開示した契約書と、財務諸表の間には齟齬があるように思います。僕の理解が間違っているのでしょうか?? 単純に何か見落としているのかな? 勘違いであったり、何かを見逃していたら、本当にすみません。
典型的な手口だが.....
ウルフパックはショートレポートで「売掛金の増加が急で、売上高の8割も現金回収できていない。売掛金を使った粉飾決算は典型的なドレッシングパターンだ」といった趣旨の主張をしています。おそらく、ウルフパックはこの売掛金を見て、ピンと来て詳細な調査を始めたのではないかと思います。
具体例としてKunxiang社との契約について調べ上げ、ショートレポートを仕上げたのだろうと推測します。
しかし、この調査は結構ずさんで無理矢理感があり、イーハンの猛反論を受けているのが現状です。イーハンは、上記のような売買契約書を開示したり、Kunxiang社が買ったドローンが今どこにあるのかについての一覧まで開示しています。
まさか上場企業が契約書を偽造したりしないと思うので、イーハンの反論内容について、僕は信じています。
しかしながら、やっぱり、売掛金についてはどうしても引っかかってしまうのもまた事実です。イーハンは2月22日開示の反論文書で2019年のKunxiang社からの売上高の71%を回収していると主張していますが、この現金はいつの財務諸表に計上されているのかは不明です(2020年9月末時点では計上されていないのかもしれません)。また、そもそも売上高と売掛金が急増しているのは2020年に入ってからです。
以前のnoteで、イーハンの粗利が60%近く、製造業としては非常に高いことを書きました。もしも、そもそも製品の販売実態がなく、部品を仕入れていないのであれば、粗利が高いのは当たり前です。
もちろん、これは財務諸表を見ただけの感想にすぎません。見落としているものもあるかもしれません。調べてみて、思ったことを備忘録として書いています。
HPでは未監査の決算数値を掲載
イーハンHPで2020年Q1~Q3までの決算開示を見ると「Unaudited」とあり、未監査の財務諸表であることが明示されています。ここにも一抹の不安を感じます。なお2019年の決算は、監査済みのものが掲載されています。
イーハンは技術力もあるように見え、夢のある会社です。どうか、上記のことが杞憂に終わることを願っています。もしもウルフパックのショートレポートがイーハンの言うように「詐欺的」なものなのだったとするならば、本当に怒りしかありません。イーハンがこれを乗り越え、成長することを願っています。