左右のポピュリズムで歪む税財政論議(12月15日追記)


「増税メガネ」やその進化型がSNS中心に飛び交っているけど、ルッキズム云々の話というよりも、これが左右両方からのポピュリズムとして減税を求めるという形で現れているのがポイントというか厄介なことだと思うし、最近の税財政論議の歪みを表している。

9月26日

「減税」という言葉のイメージで誘導するような話だな。結局は経団連企業など大企業やキラキラしたスタートアップが喜ぶような内容でしかない。賃上げ税制や社会保険料の事業主負担について中小零細企業については考える必要はあるけど、大企業は労働分配率がまず問題。

経済界は法人税と社会保険料負担を抑えて/下げて、消費税に財源を求める方向を一貫して求めているし、配当や内部留保を抑えてまで賃金を上げたくないし、下請けや中小取引先への分配もできれば増やしたくない。そこをいろいろ言って(法人税)減税や国による投資や補助金を求めている。

どうも国民負担率などの議論でごっちゃにされやすいのだが、少なくとも大企業(資本金の名目ではなく実質的な意味での)の法人税、社会保険料負担は国際的に比較しても決して高くはない。私は消費税論議を封印すべきとは思わないが、経団連が消費税論議を強調するのはおかしいと考える。

ここに「経済安全保障」「国内生産」の追い風も吹いているのが現状。経済界の要求とナショナリズムが合致し、これまで散々失敗を重ねてきた、国主導の○○、国産○○みたいな話が大手を振ってまかり通っている。そういう形で地域が潤うことが持続しない失敗例も散々あるのに誘致合戦も活発化。

むしろ必要なのは、大企業が労働分配率と下請け・中小取引先への分配率を高め、中小の賃上げ原資を確保すること。法人税の減税メニューを増やすのではなく課税ベースを広げ実質的な法人税負担率をまず回復させていくこと。少なくとも大企業について社会保険料の事業主負担割合を上げること、など。

消費税を云々する前にこういうことを検討、実施するというのであればわかる。それを、通りのよい「減税」や補助金を先行させ、不確実な将来の税収増やトリクルダウンを当てにするようなやり方はうまくいった試しはなく、結局消費税で埋めることになる。赤字補填型の消費増税は実りがない。

一方で、所得税の累進強化、金融課税、資産課税の適正化が前提にはなるが、消費税の増税を封印する必要はない。消費税の逆進性は収入/所得に対する負担割合の問題で、高所得者の絶対的な負担額は大きいし、税収の安定性がある。給付付き税額控除や社会保障の制度設計とセットで考えることは可能。

例えば、給付付き税額控除に加えて、児童手当・児童扶養手当の増額、教育無償化の徹底、基礎年金の税方式化、居住のセーフティネットの確立(低額賃貸や住宅手当などを通じた住居の保障)といったことで消費税の逆進性を打ち消す以上に再分配を利かせることはできる。

10月31日

経済対策の議論には虚しさしかないんだよね。減税であれ給付であれ近視眼的な話ばかりで、目の前の物価高対策から分配・再分配強化にどうつなげて安定的な制度にしていくかという視点が抜け落ちがち。減税・給付から給付付き税額控除に接続していくような形は最低でも欲しい。

賃上げは毎年課題にはなっても特に大企業の労働分配率を上げる、中小取引先との取引条件を改善するといった分配そのものに係る部分は曖昧で、株主配当の水準確保あるいは向上がどうしても縛りになる。でむしろ企業減税や補助金が求められる状況。そこに経済安全保障がちょうどいい大義名分を提供。

3号被保険者問題や配偶者控除問題も相変わらず「主婦」の地位問題のようにされて対立が煽られるし、結局「日本型福祉社会」、男性稼ぎ主モデル、女性の無償労働…という意識と制度を引きずったまま。

若年層から高齢層まで世代毎に住居問題があるのに対策、制度は小粒でバラバラで、少なくとも10数年来言われているような「居住セーフティネット」にはなかなか至らない。生活保護の住宅扶助を独立させ他制度と統合した保障(現金給付)と低額賃貸と組み合わせるような形とかユニバーサルな制度が必要。

消費税もここまで書いた給付付き税額控除や居住セーフティネット、そして基礎年金の税方式化などとセットであれば、税収の安定性や高所得層の負担「額」等の観点も踏まえた税率上げが選択肢になるし、資産課税の強化・累進強化、マイナンバーを活用した所得税の公平性と累進の強化も課題になる。

結局最初に戻るが、分配・再分配の強化という視点が薄いままに、各世代、各所得層等々から「減税しろ」「もっと給付を」という声が上がり、出てきた案に対しても同様に反対、不満の声が上がり着地点が探される。高成長下ならどうにかなる(が、その惰性が今に至るまで縛りになっている)がそれは幻想。

現下の議論状況はなぜか右も左もネオリベ的な減税要求を共有しつつ、「大きな政府」というのとは違った意味での現金給付等の歳出拡大要求も共有されている感がある。結局、税・社会保障一体改革の「失敗」とそれに続いたアベノミクスというこの10年で随分と構図がおかしくなってしまった気がする。

公務員の非正規化、自治体業務の「効率化」、アウトソーシングが先行、定着しているが、ネオリベ的なそれとは違った形で、財源を含めた公的責任を維持しつつ、NPO等民間が社会サービスの担い手となって柔軟にニーズに応えるというのも再分配。「公金チューチュー」呼ばわりはある意味ネオリベで真逆。

ここは民主党政権の「新しい公共」で前に進みかけ、安倍政権下で揺り戻しもありつつ逆回転まではせず着実な進展もあったが、イデオロギー的な逆風が強まってきている現れが「公金チューチュー」「利権」呼ばわり。もちろん前から「共産党/主義」「アカ」と結びつける保守派のレッテル貼りはあったが。

立憲民主党提案の評価

最近の税制・社会保障の議論は左右のポピュリズムで歪んでいるし、ネオリベ色が強まっている。立憲の提案は中長期的な持続性(→将来不安解消)と短期的な即効性を両立するもの。給付付き税額控除導入と累進制強化はコロナ対策と物価高騰対策での給付とスムーズにつながる。

税制がベーシックサービス保障、セーフティネット整備とセットなのがが肝。そこを累進制強化と消費税で賄うことで再分配を利かせる。消費税は高所得者ほど絶対額は多く納めるから減税は大きなメリットだし、税収減のインパクトも大きい。所得に対する割合で逆進性がある部分を給付付き税額控除で解消。

立憲の提案には明記がないが、基礎年金の全額国庫負担(税方式化)、低所得者の国民健康保険料と標準報酬月額が低い階層の健康保険料の減額や減免制度充 実も逆進性緩和に必要だと考えるし、標準報酬月額の上位区分の追加、高所得帯の在職老齢年金の見直し等とセットで考えるといい。

12月15日追記

あちこちから不満、文句が出るのを恐れて、再分配の強化とユニバーサルな保障という大事な視点が吹っ飛んでしまっているのよね。左右からの反増税・減税ポピュリズムが思いの外影響力を持っているが、意識的であれ、結果的であれ、ネオリベへの傾きが強いのが危険。

それと、マイナンバー/マイナンバーカードの利便性向上だとかメリットを実感してもらうとかは本末転倒で、所得と資産の把握を的確にして、一方で迅速、的確な給付や制度利用、他方で特に高所得層・富裕層の公平、適正な負担や徴収をまず実現すべき。左派、リベラル的には受けの悪い話だけれども。

今の政府のあり様でマイナンバーへの所得・資産情報の紐付けをさらに進めることに不信感、抵抗感があるのは当然なのだが、再分配をちゃんと効かせるとともにユニバーサルな保障を確実にする上で、給付等のサイドでも負担等のサイドでも網羅的で的確な捕捉は不可欠。

消費税が典型的だが、日本では租税抵抗が強いし、行政への不信感あるいは低い信頼感も根強い。高度経済成長が可能にした負担感の低さや給付の厚さ(いずれも相対的な意味で)、ハード偏重の公共事業の過剰、利益誘導政治といった「昭和」が未だに縛りとなっているとも言える。

また、「日本型福祉社会」論もずっと取り憑いてきたが、これはネオリベと相性がよく、保守的家族観・ジェンダー観とは当然マッチするために、むしろ改めて強化、実体化される流れもある。反増税・減税ポピュリズムの行き着く先が「日本型福祉社会」というのは悪夢だろう。

そうではなく、マイナンバーをインフラとして有効活用しつつ、強力で有効な再分配とユニバーサルな保障(皆保険・皆年金という形式的な話ではなく、居住保障なども含む実質的な意味での生活保障)を実現するビジョンと工程表を真剣に考えるべき。

これはずっと言っているが、立憲の提言でも打ち出されている給付付き税額控除の導入は必須の1ステップだし、今回決まった応急措置としての減税・給付から滑らかに接続できる。そして、給付付き税額控除とマイナンバーのセットは、次なる危機における速やかな対策の基盤にもなる。

自民党のパーティー収入不記載・裏金問題のあおりでなかなか骨太な議論ができず、その内に総選挙や参院選が視野に入ってと、さらに減税圧力、場当たり的な歳出拡大圧力がかかりそうだし、少子化対策と防衛費の財源問題も重石になって、近視眼的な方程式解きに終始しそうな悪い予感はするのだけど。

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