不同意性交等罪に対する歪曲、誤解に抗して

不同意性交等罪に係る改正刑法などが施行されたが、相変わらず歪曲したり誤解したりが目立つ。とりあえず法案段階でのツイートを転載しておきたい。


「不同意性交等」に関する揶揄的な声を見るに、「性交に同意していなかった」「望んでいなかった」と言われ「加害者」になることへの恐怖だったり、自分の認識や満足を覆されることへの屈辱感、不快感だったりが強いのだろうし、状況の支配権を握れなくなることへの抵抗感も強いのだろう。

性交の場面で「いちいち確認するのも野暮」とか「流れがある」とか言うのも、自分の一方的な認識や願望かもしれないことに対して、拒絶され、幻想が覆されることへの不安があるのだろう。「独りよがりかもしれない」と向き合い、相互行為である性交の相手のことを考えることへの強固な抵抗。

だから、刑法改正の試案に対しても、不同意性交罪の要求に対しても、冤罪や復讐、ハニートラップへの懸念、恐怖が声高に唱えられる。一見論理的に言っているようで、性交や男女関係に対する自分に都合のいい認識や言説が覆されることへの情緒的な反発、抵抗に駆動されていることがしばしば見える。


呆れるけどこれが拡散されている。

・性暴力と性犯罪の区別がつかないから申告できないはむしろ逆。「性暴力かも」と気づくことは警察に限らず、ワンストップ支援センターなどへの相談・申告につながる。

・後から「同意していなかった」と言われる理由は様々。ポスターにあるフリーズ状況など「同意してないけど言えなかった」ということもあれば、行為時も直後も「自分も望んだ」「言わない自分が悪かった」など合理化して封印する場合があり、そもそも同意の有無ということすら考えられないこともある。

・虚偽告訴やいわゆるハニトラ、復讐目的による被害主張はそれが刑事司法手続きに乗れば本人にとってもリスクがあるし、刑事告訴等しなくても民事上のリスクがあるもの。そもそも他の犯罪類型でも虚偽の被害申告・告訴はある訳だし、殊更に性暴力を特別視する理由はない。

・後から「同意していなかった」と言われたら〈無条件に〉加害者になる訳ではない。後から「あげたのではなくて貸しただけ」と言われたら無条件に着服の加害者になる訳ではない。前述の通り、後から「同意していなかった」と言われる場合の状況、特に加害者側のことをあえて論じないで印象操作。

・予防の意義がなぜ失われるのか。同意のない、不同意を言えない性行為が性暴力だと知ることがまず予防。しかも、ポスターにはワンストップ支援センター、警察窓口、CuretimeのSNS相談、ネット検索のキーワードが案内されている。それに、関心を持てばネット上にも様々な情報がある。

山田議員の主張はわざわざポスターがダメな理由をひねり出しただけだし、「同意のない性行為は性暴力」であることを否定したいということが先に立っている。もし本気でこのような主張をしているのであれば、性暴力問題に対する無知・無理解を晒すものでしかない。今だって、性暴力加害者と言われた者が自分のことは棚に上げて又は自分のことを振り返らずに、「ハニトラだ」「復讐したいだけだ」等々言い逃れをし、さらには相手を攻撃する例には事欠かない。「後から言われたら」論はそのような無責任・無反省なあるいは認知が歪んだ男の行動を正当化するもの。

性行為には事前~行為~事後を通した相互的コミュニケーションの要素が多くあるし、その相互性やコミュニケーションが欠けたり不十分であったりすれば容易に性暴力に転化する。また、性行為には同意していてもその中で望まぬ態様の行為が強いられる場合もありそれも性暴力だ。言い換えれば、相手を対等な個人として扱い配慮すること、これが性暴力ではない性行為には必須のことであるが、むしろ男の方は無遠慮、強引でも許され(時に賞賛すらされ)、男の希望や「気持ちよさ」への配慮が女性に求められるということがよく見られる。

もちろん、特殊な性癖の者同士が合意の下で行う性行為の場合、その合意の範囲内であれば個々の行為について非対称性等があっても性暴力とはならない(ただし、犯罪となる行為などそれが公序良俗に反する無効な合意とみなされる場合は別だが)。


室井さんはアンチフェミのテンプレに完全に乗ってしまった。せめて刑法改正案のファクトは確認して欲しいのだけどそれすら放棄してしまった。

「『アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること』などが原因で『同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態』」がなぜ「酒を飲んでの性交まで禁止」と飛躍するのか。

「あとからいくらでも『困難だった』といえ、事実上、お酒を飲んで性交渉することが不可能になりかねない」の「事実上」という融通無碍な言葉で飛躍が覆い隠されているが逆を考えればいい。男は一緒に酒を飲んだら「事実上」同意があると思い込みやすい。あるいは酔っての言動を「事実上」の同意だと。こういう風に「事実上」の同意があると思い込んで、または「事実上」の同意だと都合よくアリバイにして、相手が同意しているのか確認せずに性交してはならないということだ。室井さんは「少なくとも恐ろしくてできない」と書くが、同意が確認できないならしないという意味では正しい。

それは相手との関係、場の状況、そこに至る流れ等による。室井さんが「照れ屋だから、素面(しらふ)でSEXなんて無理である」と言うのは同意があった(むしろ積極的に意思を形成していた)ということで、仮にこの場合で「後から『同意していない』と言った」としても認められないだろう。

無意識的にだろうけど、室井さんは男が「事実上」の同意だと都合よくみなして同意なき性交=性暴力を行う論理を裏返して使ってしまっている。それは記事の運びとは逆に「フェミがおかしな法律を作ろうとしている」が先に立ってしまっているからだろう。性行為にはその前後を含めた相互的なコミュニケーションの側面がある。室井さんが「照れ屋だから、素面(しらふ)でSEXなんて無理である」と言う部分もそのコミュニケーションの一部だ。そういうことを欠いて、相手が酔って意思表明ができないことに乗じて性交することとは全く違う。


性暴力において「性欲」はしばしば動機の語彙に過ぎず、力関係の非対称性や力(関係)の証明・誇示ということが動機形成や現実の実行において大きな要素となる。不同意性交等罪を導入する等の今回の刑法・刑訴法改正案を考えるに当たってそのことには立ち返っておきたい。

性欲を動機として誤認又は過大視することはしばしば被害者の「落ち度」論と結びついてきた。「露出の多い服装をしていた」「誘うような態度を取った」「無防備な様子だった」等々で「性欲が刺激された」という顛倒したストーリーが描かれる。全て加害者による勝手な正当化だが通用してしまう。


暇空らがすさまじくひどいツイ連発で、とにかく理解力・読解力がない、妄想で決定的に歪んでいる。きりないし拾う気にもならないが、山口貴士弁護士も不同意性交等罪と酒について歪めた揶揄的なツイを立て続けにしている。性的同意についての認識・理解がひどく歪んでいるのは前からだけど。

性行為は相互行為でありコミュニケーション行為であるから、それが成立しえないならしなければいいだけだよね。ここまでする状況は逆に不同意性交等と言い得るとも言える。

シンプルに、同意書にサインしろと言う相手との性行為は拒絶するのが安全だと思う。逆に、同意書にサインしてもらわないと安心できない相手とセックスしようとするのは間違いだよ。後から翻すかもということではなく、サインを迫るという


どうして捻じ曲げて読むのか、あるいは茶化すのか。酒の力を借りて同意なくセックスしたり不同意を表明できないようにしてセックスしたりするのがダメという当たり前のこと。相互関係において酒が円滑剤になるなら構わない話。ただし、パートナーが嫌がっていたのを酒を飲ませて押し切るとかはダメ。




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