ジャニー喜多川性加害問題と男性の性被害を考えるために

以下は5月14日に書いたものだが、2か月経ても有効な視点だと思う。

ジャニー喜多川氏の性加害問題をより複雑にするのは、

・大人数とは言え所属・元所属ということで被害に遭った「かもしれない」人を容易に名指しできてしまうこと。

・匿名でも時期等の情報で絞り込みができてしまうこと。また、芸能界での成功や事務所の売り出し戦略などと絡めた憶測や、被害者同士や被害者と被害を免れた人を対置するような憶測が生まれやすいこと。

・それが憶測ではなく事実であっても、加害者であるジャニー氏から固有名の被害者にすぐ焦点がすり替わってしまいがちであること。

・ジャニー氏の性加害問題を取材、追及するメディア、ジャーナリストなどにも被害者のプライバシー情報が蓄積されるため、その取扱いの倫理が求められること。

・報道可能な事実であっても、被害者に興味本位の焦点が当たるようなことは避けるべきであること。

同時に、匿名であれ自身の被害(と思われるもの)が報じられる(かもしれない)こと。

・取材で自身の被害が実名で把握されている(かもしれない)ことがまず被害者に多大な苦痛と不安をもたらし得ること。

善意であっても家族、友人知人等から「あなたは大丈夫だったのか?」と聞かれてしまう被害者がいるであろうこと。

・SNS・ネットでも「心配する」という形であれ、被害に遭ってないかが固有名で取りざたされたり、当人に直接投げかけられたりさえし得ること。

だから、ジャニーズ事務所から独立した形で被害者の相談を受け、ケア・支援をする体制が不可欠だし、男性性被害者一般の相談・支援がまだ手薄いだけになおさら本件固有の体制を作ることが必要。なお、そこから発展的に男性性被害者一般の窓口になる取り組みがあっても良い。 

同時に、メディア、ジャーナリストらにも倫理的に律する構えが必要で、被害者に第一に配慮した取材、情報管理、記事チェックなどが求められる。ジャニーズ事務所の記者会見を求める声は当然だが、被害者の実名や推測可能な質問・回答等がありうるので会見がライブ配信等されることは避けるべき。

放送局、広告代理店等々ジャニーズタレントを起用する側の責任も大きく、同事務所が真摯に、期限を切らずに性加害問題と取り組まないのであれば取引を見送る、絞る等の厳しい対応が必要。責任のないタレントの機会を奪うことも問題なので、事務所了解の下直接契約する等の両立策も必要かもしれない。所属タレント、夢見て修行中のJr.などがいるので軽々には言えないけど、タレントマネジメント部門を切り離し、現社長ら責任がある者は性加害問題の調査・究明と被害者対応に集中するといったことが必要かもしれないし、所属タレントには退所・移籍を含めた選択肢が用意されるべき。

医師やカウンセラーがそういう語りを聞いたりAAなど自助グループなどで語られたりはあっても、またそういう声が書き物などで紹介されることはあっても、男性当事者ということで運動になったり場ができたりはまだ珍しい。だから専門家であったりフェミニストであったりが代弁、紹介する形になりがちだ。

「困難男性支援は?」といういちゃもんもそうだし、共同親権運動もそうだけど、男性当事者が焦点化されるのは女性へのカウンターとか女性(あるいは女性優遇)による被害者という形を取りがち。これは今の「弱者男性」論もそうだし、かつての「性的弱者」論もそうだ。または、「派遣村」などで可視化されてようやく非正規労働が問題化したように、男性に影響が及んで初めて問題と認識され、しかも「一般」問題として非ジェンダー化されがちであったように、男性当事者はしばしば一般当事者として現れる。

その時、女性固有の問題は後景に退かされる。だからこそ、困難女性支援法もそうだし、女性の非正規、女性の貧困、女性の低年金などもそうだが、改めてジェンダーの視点で問題設定をし直さなければならないのだが、そうすると以上の文脈を踏まえずに「女性ばかり」という声が上がるということの繰り返し。一方で、「援助交際」で、あるいは今の「パパ活」などでもそうだが、問題化されるのは常に少女・女性の側で男性の側でないし、女性議員や経営者・管理職の話でも問題化されるのは女性に下駄を履かせることで男性が下駄を履いてきたことではない。これも男性当事者が現れにくい背景をなす。

いろいろな当事者運動でも、男性性は焦点化されないことが多く、そうやって男性の経験が一般化されがちであるから、女性当事者が焦点化される。でもそれによって、男性当事者という形で再定義されることは多くなく、年齢等の他の属性と並ぶ一つとしてプロフィールを構成するに過ぎない場合が多い。

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