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もとにもどる
暑い夏が終わって、ホッとしている。
じりじりの日差しを避けてくれてた緑が、色を変えてはらはらと落ちてくるようになった。
青い空が枝葉越しに見える。もう年末のことを考えたりして。
そして夏に観た、2本の映画のことを交互に思い出してる。
エンディングを迎えて場内に明かりがついても立ち上がれない。液化するみたいに身体が椅子に溶けてゆく。
ダリの時計みたいな姿勢のまま動けない。
「怪物」「君たちはどう生きるか」
どちらも私の中で結び合うものがあった。
美しいシーンを何度も頭の中で撫でた。
あのシーンとここ、繋ぎ合わせてはほどいたり。
記憶と思い出が、ゆるやかに重なり合って新しい解釈が生まれたりするのを感じている。
◯
小さい頃、何度も歌わされた「友達100人できるかな」という歌がとても苦手だった。
大人になってからできた友だちにこの話をすると、「わたしも同じ」と言った。
“友達100人もいりません。富士山でおむすび食べたくありません。コンビニの車止めに座って、たったひとりの友だちとコソコソと食べてみたいです。
どうか心の通じるひと、おひとりだけでも、どうかお願いします”と思いながら歌っていた。
( わたしも、と友だち )
その頃、「ポジティブシンキング」という言葉が流行り出した頃だった。
『前向きこそが幸せの秘訣!』みたいな真っ白い歯の人が言いそうな考え方は、ネガティブを排除している感じがして、その時点でポジティブとは思えなかった。
私にとって感情は、ポジティブとかネガティブとかでラベリングできるものではなかった。混乱して絡まっていた。
そのどちらも混ぜこぜに含んでいるのに、どうやってわけるのかわからない。
ポジティブこそ正義みたいな思考、ついてゆけなかった。
どこまでも置いてけぼりの自分を思い出した。
( わたしも、と )
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「お笑いに必要なのは哀愁だと思う」と松本人志が言っていたのを、最近よく思い出してる。
どこか物悲しい。どこか切なく、寂しい。
そこから笑いが生まれてゆくのだという感覚を、とても美しいと感じた。
だから落ち込んでいるときに笑いに触れると、あんなに沈んでいたのに笑っちゃうんだ。
同じタイミングで笑う人のことすごく近く感じるのも不思議だったけど、持っている哀愁の色合いが似ていたのかもしれない。
哀愁は、なんとなく秋が似合う。
◯。
映画の話に戻る。
「友だちをつくります」という台詞があった。
私はドッキーーーンとしてしまった。
友だちは必要なのか…これからも作るのか…とドキドキドキドキして面倒くさくて
そこに非常にこだわりをもってしまった。
( わたしもよ…と )
だけどこうも思った。
今まで出会ってきた人、今ではもう会わない人、旅先でのあの人、顔も見たことないけれどメッセージのやりとりをした人…
そのたったひとりでも心の通い合う会話ができた人をみんな「友だち」と呼ぶことにしよう、と閃いたのだ。
この私は新鮮だった。
あの頃、この世界のどこかにいた( 同じ気持ち )を持った人と出会えて友だちになれたこと、
まだ出会えていないけど、そんな人がまだまだいること。
孤独が照らしている光はピンスポットのように互いを見つけるはずだから、ひとりぼっちも私は好きだ。
そういう光をいくつも見つけてきた。
続いている関係は素晴らしい。
だけど終わってしまったことや別れてしまったことは、なかったことになるのだろうか?
ほんとは、そんなことはまったく関係ない気がする。
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人生は瞬間の連続で
それが途切れることなく続いている。
思い出すと胸がホッとする存在を、私はみんな友だちと呼ぶことにしようと決めた。
そして気付いた。
これって相当ポジティブじゃないですか。
あの頃、白い歯の人たちが言っていた感覚とはちょっと違う気もするけど、それでもこの気持ちはとても前向きな感じがした。
記憶の中のその人たちを大切な山に招いて、一緒におにぎりを頬張るシーンを妄想する。
うん、かなり幸せな感じ。
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そういうことを考えているとどうしても頬が緩む。だって現実にはありえないことだ。
実現しようとも思わない。
それでも、懐かしくて、優しくて、あたたかくて、可笑しくて、楽しくなる。
寂しさや悲しさもなんとなくあるけれど、これは好き。
そうか、これが私の哀愁だ。
⚪︎◯⚪︎◯
自分の人生を腹の底から笑える未来、あるのだと思う。
恥も失敗も傷も痛みも、そこからようやくはじまるものがある。これは大いなる可能性だ。
なんだかはじめて自分を頼もしく思えた。
笑える準備はもうできている。
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泥をかぶったバスの窓に雨粒が当たる。
それを内側から眺めるとき、星が瞬くようにキラキラとして、光の粒が散らばったように見える。
ずっとずっと、生まれ変わったように生きていきたいと思ってきた。
だけど今
「 生まれ変わるとか、ないと思う。元に戻るんだよ。」
「よかった。」
この台詞には心底安心した。
生まれ変わらなくていいんだ。
どんどん新しくならなくても
私もあなたも、元に戻る道をずっと歩いていたんだね、って。
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