『旧K集落』の話

20歳を少し超えた頃に、心霊スポットを巡るのにハマりました。当時の私は、運転免許を取得したてで、心霊スポット巡りも最初は運転の練習がてらのドライブから始まりました。
平日は2chなどの掲示板で情報を集め、週末になると、友達の家に集まって出発する流れでした。他愛もない話をしながら走る夜道、心霊スポットと呼ばれる場所特有の静かな雰囲気と、若干の恐怖感と緊張感がとても好きでした。

県内の有名な心霊スポットはある程度巡り終え、中距離の運転にも慣れてきたある夜。
いつも通りに友達に連絡を取ると、「今日は都合が悪い」と返信がきました。
他の友達にも連絡をしようかと思いましたが、いきなりのドタキャンにモチベーションがただ下がりしていたので、もういっそ、一人でアテもなくドライブしようと決めました。

車を走らせること一時間半程で、他に走る車もないような山間部に辿り着きました。光源は少なく、等間隔に並ぶ電信柱の明かりが辛うじてあるような場所です。
やがてT字路に辿り着きました。右の道は畑へ続き、その遠く奥に街の明かりがうっすら見えます、左の道は暗闇へ続き、山々の影が夜空を背景に浮かび上がっていました。
私は、あまり考える事も無く左手の山へと続く道を選びました。

左折すると、すぐに街頭が無くなりました。道幅は狭く、車同士すれ違うのが困難な程でした。道路は舗装されてはいるもののぼこぼこ、ガードレールは剥げて錆び付いていて、整えられていない草木が道にまではみ出していました。頭上には木が覆いかぶさっていて、狭い夜空が遠くに見えます。

そんな道をしばらく走ると、突然雰囲気が変わりました。
狭かった道は大型車がすれ違える程の幅になり、錆だらけだったガードレールも、真新しい白に変えられています。心なしか、アスファルトのでこぼこも無くなった気がします。

それから間もなく、開けた場所に出ました。
周囲の木々は伐採され、そこは明らかに目的を持って整地されてた区画でした。狭かった道は大型車がすれ違える程の幅になり、錆だらけだったガードレールも、真新しい白に変えられています。

突然現れた不思議な空間に、私はワクワクしながら路肩に車を停め、外に出てみる事にました。
ライトが消え、カーステが切れると、辺りは静寂と暗闇に支配されました。

車を降りると、まず、頭上に広がる星空が目に入りました。辺りに光源が無いので、星がよく見えるようです。
音は何も聞こえず、虫の音さえもありませんでした。当然、人の気配などあるはずもありません。

月明かりに照らされて、周辺の様子がある程度確認できます。左右の山肌が直線的に削られていました。離れたところに二階建てのプレハブ小屋があり、その隣に重機が何台か見えます。それをみて、ここは何かしらの工事現場なのだと思いました。重機が行き交うために、この区画だけ道路が整備されたのでしょう。

車を停めたのは、砂が敷かれた、ただ広いだけの駐車場のような場所でした。道路から離れるにつれ背の高い草が増えていき、それより奥は暗くて確認できません。
懐中電灯で奥を照らしてみましたが、ただ草と削り取られた山肌が照らされるだけで、それ以外は何も確認出来ません。

変わらず、辺りは静まり返っています。

その時、

ジャリッ

と足音のような物音が聴こえました。

驚き、懐中電灯を草むらに向けますが、一面緑が照らされるだけで何も見えません。
いきなりの事態に、急速に心臓が鳴り始めました。

ジャリッ、ジャリッ

物音は鳴り続きます。
その正体は分かりません。しかし、これだけの山奥ですから、野生動物は多く住み着いていることでしょう。もしくは、何かしらオカルトな存在かもしれません。
なんにせよ、ここに居ると危険だという事だけははっきりと分かりました。

慌てて車に乗り込み、一目散に現場を後にしました。
幸運な事に、車のエンジンがかからなかったり、一本道のはずなのに帰れなくなったりはせず、程なくして元来た道路へと合流しました。

そこから2時間程かけ帰宅すると、パソコンを開き、真っ先にあの区画が何だったのかを調べました。

ヒットしたのは

『旧K集落』

というワードでした。

旧K集落は、ダム建設の予定地となり住人が移転し廃棄が決定した集落でした。しかし、様々な要因から肝心のダム工事が延期、再開を繰り返し、未だに廃村として現存している、という状況でした。

そして、さらに気になる記述を見つけました。

『K小学校死体遺棄事件』

という事件です。

それは、2009年に県外で起きた殺人事件に関連して、その被害者の死体を遠く離れた急速K集落の小学校の古井戸に遺棄したという事件です。確かに、当時旧K集落はダム建設が再開していた時期であり、そこに遺棄する事で証拠はダムの底に沈む算段だったのでしょう。
しかし、政権交代のゴタゴタでダム建設は中断されてしまった。後に犯人が逮捕され、旧K集落の小学校に遺棄したと供述。警察が捜索したところ、校舎脇の古井戸の中でトランクケースに入った被害者の遺体が見つかったそうです。

事件後、小学校は取り壊され、今ではその土台だけが残されているそうです。

そして、その小学校があった位置というのが、まさに私が車を停車させた場所でした。
あの駐車場だと思ったところは校庭で、その先の草むらに校舎の土台があったわけですね。丁度、懐中電灯を照らしたその先に、古井戸があったかもしれません。
では、あの夜聴いたジャリッ、ジャリッという物音は本当に野生動物だったのでしょうか。

時は流れて2020年。どうやらダム建設が再開され、2024年にはダムが完成する予定だそうです。
あの夜以来、私は旧K集落には近付いていません。

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