「作られた心霊写真」

小学生の頃、仲良くしていたN君という友達がいました。N君の家が通学路上にあったので、学校帰りによってボール遊びをしたり、ゲームをしたりして遊んでいました。
N君も私も、同じく心霊番組が好きで、ある日、唐突に「心霊写真を撮りに行こう」という話になりました。
撮りに行こうって言っても、撮れる場所も撮る機材も持ち合わせていません。アレコレ計画して数日後、お小遣いからインスタントカメラを買って、近所の墓地と、その先にある廃倉庫を撮影しようという話になりました。

撮影当日、コンビニで写ルンですを買って、自転車で墓地へ向かいました。その墓地というのは、民家の脇の林を抜けた先にありまして、昼間でも暗く、用事がなければ近づきたくないような場所にありました。車が一台やっと通れるような道を少しばかり走ると、墓地が見えてきます。
私とN君は近くに自転車を停めて、ワクワクしながら撮影を開始しました。何かいけないことをしているような高揚感があったのを今でも覚えています。使っているのはインスタントカメラですので、今みたいに撮影したその場で写真を確認とはいきません。何か映りそうな場所をある程度撮影したら、再び自転車に跨がり次のスポットへ向かいます。

墓地の隣、ほんの100mのところに廃倉庫はあります。
放棄されて長いのか、草に埋もれるように佇む、錆で朽ち果てた倉庫です。草を掻き分け中に入ると、捨てられたタイヤや廃材のようなものが山になっていました。
今まで中に入ったことが無い場所だったので、N君とアスレチック感覚で遊び回って、一通り見回ったら、じゃあ写真を撮ろうとなりました。
外観を一枚、廃材の山を一枚、倉庫の中から空を一枚……そんな感じで、残り枚数を使いきり、撮影は終了しました。インスタントカメラの現像はN君に任せて、その日はお開きになりました。

後日、学校へいくと、教室が何やら騒がしい。
どうしたのかと訊いてみると「N君が心霊写真を撮ってきた」というのです。
「まさか」と思ってその写真をみると、間違いない、あの時の一枚でした。
廃倉庫の中から空を写した一枚に、赤っぽいオレンジ色の、霧のような塊が写っていました。その塊をよくみてみると、はっきりと男の顔に見えました。その男は、歯を剥き出しにしているような表情で、頭髪はなく、目のところは空洞になっているようにみえました。
これは凄いものが撮れたな、と写真を持ってきたN君に話し掛けると、N君は、最初は興奮を隠しきれない様子で、撮影の経緯などを大仰に喧伝していましたしたが、やがて、どこか元気がないというか、歯に物が挟まったような物言いになり、ついには何も言わなくなってしまいました。
やがて先生が入ってきて、みんなを静かにさせて、その日の授業が始まりました。

放課後、N君と二人の帰り道、写真のことを訊ねると、N君はこう切り出しました。
「あれ、偽物なんだ」
まさかの言葉にびっくりしていると、N君は続けます。
「あれは従兄弟のあんちゃんに作ってもらったんだ。あんなに騒ぎになるとは思わなかった……」
衝撃のカミングアウトです。
最初あの写真を見たときはえらく驚きましたが、種明かしをされると拍子抜けてしまいます。そして、風船がしぼんでいくようにあっという間にあの写真への興味を無くしてしまいました。
私はN君のいう従兄弟に会ったことが無いので、どんな人かは知りません。「器用な人がいるもんだなぁ」としきりに感心して、顔も知らない従兄弟のあんちゃんに思いを馳せながら帰りました。

心霊写真が偽物だったショックより、あんな恐ろしい写真が作れることの驚きが大きかった気がします。

後日、「自分もあんな写真を撮ってみたい」と思い立ち、N君に例の写真の作り方を聞いてみました。
するとN君は、なんとも困ったような顔をして「分からない」と答えました。こちらも食い下がって「従兄弟のあんちゃんに聞いてみてよ」と言っても「分からない」の一点張り。
じゃあせめて、と思い「あの写真をもう一度見せて」と言うと「無くした」というのです。
当時は、その言葉にがっかりして、素直に諦めてしまいましたが、今思い返すと不自然な点があります。

N君とは幼稚園の頃から仲が良く、性格も理解しているつもりでした。『珍しいもの好きで、目立ちたがり屋』……それがN君という少年です。その少年が、世にも珍しい(偽物とはいえ)心霊写真を一度見せたきりで無くすものでしょうか。

それから時が経ち、中学に進学してからは、交流がパッタリ途絶え、もう会話を交わすことも少なくなってしまい、結局、あの写真がどうなったのかは知る由もありません。


今になって思うのは、「もしかしたら、あの写真は本物だったのかも」という事です。あれは本当の心霊写真で、何かしらの理由があり、N君はあの写真を「偽物」とする必要があったのかもしれません。N君が写真を学校に持ち込んだあの日、あの朝、N君は何を見てしまったのでしょう。

もう20年も昔の事。真相は藪のなかです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?