『目利き』の話

テレビ番組で、誰かの家のどこかに眠っていた骨董品なんかを専門家が手にとって、まじまじと見つめながら「ほほう、これは」なんてのが良くあります。いわゆる、目利きというやつですね。
完成度を見れば、それが良いものか悪いものかはその道のプロなら分かるもんでしょうが、それだけでは無く「これはナントカ時代のダレソレの作品で~」となるから、いつも凄いなぁと思いながら観ていました。おそらく、使われてる色が出せるようになったのは◯◯時代以降なので、とか、この技術が渡来したのは◯◯時代なので、みたいなのがあるのかもしれませんが、まずその知識がすごいです。

自分にもこういう技能あるかなぁと考えてみたら、『声優の声を聴き分けられる』ってのはひとつの目利きになるんじゃないでしょうかね。耳なのに目利きとはこれいかに。

この声優絶対音感ってのは、その界隈ですと珍しく無いかもしれませんが、一般人からみたら充分特殊技能の分類です。「みんな同じ声じゃん」と言われたら説明しようがありません。でも、やっぱりちょっと違う。

これに似ているところでいうと、作画だけで作画監督や制作会社が分かるとか、イラストの目を見ただけでイラストレーターが分かるとか、アンテナを見ただけで何ガンダムか分かるなんてものもあるでしょう。

笑い飯の哲夫さんの書いた本にこうありました。
「一つの物事を表す言葉がたくさんあるほど、その物事に興味がある文化である指標になる」
例えば、私は焼き物に興味がないので、焼き物は焼き物と表しますが、焼き物に興味がある人なら、有田焼、益子焼、信楽焼……といくつも焼き物を表す言葉が出てくるでしょう。夏目漱石の『坊っちゃん』の中で、主人公が焼き物をすべて「瀬戸物」と認識していて恥をかいた、なんて場面がありますが、まぁ、興味が無い人にとってそんなもんでしょう。

「アニメ」に関しても同じような事が言えます。アニメに興味が無ければ、「アニメ」と一言で終わりますが、アニメに興味があれば、セル画アニメ、デジタルアニメ、3Dアニメと全然違うものと認識していて、使い分ける事が可能です。さらに詳しければ、もっと細かい分類も出来ます。
「声優」にしたって同じで、声質をいろんな言葉で表現して、聴き分けることが可能です。
「イラスト」で言えば、線がどうの、塗りがどうのとあるかもしれません。

そう考えると、オタクという生き物は目利きをして活動する存在なんじゃないかなぁと思います。


もし、この先1世紀ほど経って、今の時代のアニメが「骨董品」と位置付けされるようになったら、その時代の目利きの番組は、なかなか面白くなりそうです。

例えば、考古アニメ学の専門家が
「これは、目や輪郭が極端にデフォルメされているでしょう。この曲線は1990年代に流行った作風です」
とか
「動きがいいですね。よく動くでしょう。でもこれは3Dじゃありません。セル画過渡期の1990年代の作品でしょう。良い仕事してますね」
みたいに判断するかもしれません。

声優歴史学が専門ならば、
「ほほう。メインヒロインが◯◯ですか。しかし演技がまだ拙く声が若いので世に出て間もないとみえる。2007年から2009年のモノ」
とか、
「このベテランが存命の頃の作品で、この新人がデビュー済み、そうなると2013年のモノ」
みたいになりましょうか。

古文の先生が出て来て
「『パッとしない主人公がひょんな事で女の子に囲まれる生活が始まり、舞台は学校の部活。メイン級ヒロインが4人。エンディング曲の歌唱はヒロイン4人で作詞は畑亜貴』が定着したのは平成中期以降の作品の特徴です」
とか
「『突然の事故で気が付くと異世界。ヒロインは巨乳が4人に貧乳1人。一番女の子っぽいのが男の娘』となれば平成最後期から令和初期」
となって面白いと思います。

まぁ、さすがにこんな事にはならないでしょうが、今の目利きも、置き換えてみると案外このようかもしれません。あのテレビに出てる著名な鑑定士も、元は一人のオタクだったと思うと、勝手に親近感が湧いてきます。

オタクと呼ばれるくらいにそのモノに興味を持っているから、色んな表現を受けとったり表したりする事が出来るようになって、結果目が利くようになるんじゃないかなぁというのが、今回の結論です。
『好きこそ物の上手なれ』とはよく言ったものです。

『骨董品』とかけて『アニメ』と解く。その心は。


どちらも『せる(セル画、競る)』が伝統です。

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