『麩』

 『麩(ふ)』という食材に関する知識は少ない。そもそも、子供の頃からして、麩が食卓に並んだ事は数えるほどしかない。味もいまいちピンとこない。ふ菓子は好きだったが、ふ菓子は菓子であって、所謂食材としての『麩』とは若干認識が異なる気がするのでノーカウントとする。
 調べてみると、日本の歴史書に麩が初めて登場したのは南北朝時代だそうだ。『南北朝時代』と聞いてもピンと来ない。西暦で表すと1350年頃らしいが、どっちにしろピンと来ない。


 私自身が麩を始めて認識したのは小学校低学年くらいの頃だったと思う。
 味噌汁の中に見慣れないブヨブヨした物が入っていて、すぐに母親に訊ねた。
「それは、『お麩』だよ」
 と答えが返ってきた。
 あまり賢くなかった当時の私は、
(なるほど、これは『オフ』という食べ物なのか)
 と間違った知識を獲得した。
 今になって考えれば、『お麩』という呼び名が悪いと開き直ってもいい。
 なぜ、『麩』というたった1文字しかない名前の頭に『お』を付けてしまったのか。1文字しかないところに1文字を足すことによって、1+1で文字数は2倍になってしまったではないか。2倍というのは、言い換えれば100%増量でもある。あの『ご飯』ですら『飯』に『ご』を足して2+1、計算したら50%の増量に留めているというのに、『お麩』はおこがましくも100%なんて夢みたいな数字を叩き出しているのだ。その事実を鑑みれば、当時小学生だった自分が『オフ』と間違った覚え方をしたのは必然ではないだろうか。

 ……みたいな、特に落ちも無い、くだらない事を常々考えている。

 これがホントの『フにオチない』話ってね。

 

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