『東南西北』の話

麻雀をやっていると、『東南西北(トン・ナン・シャー・ペー)』という言葉を覚えます。いわゆる『場風、自風』とよばれるものです。東だと嬉しい、南だとちょっと嬉しい、西北はちょっと残念な気持ちになります。
間違えやすいですが『東西南北(とうざいなんぼく)』では無く『東南西北(とんなんしゃーぺー)』です。初心者の頃はこれのせいでよく頭が混乱したものです。
今回は、この『東南西北』にまつわるちょっとしたお話をしていこうと思います。

まず、なぜこの順番なのかについて聞き齧った説明をしていきます。
中国では、『陰陽五行説』という思想がありまして、「万物は、5つの元素とそれぞれの陰と陽の性質から成っていて、互いに関係している」っていうあれです。誰が言い出したのかは知りませんが、きっと紀元前の偉い人が一生懸命考えて作ったんでしょう。
五行説における『5つの元素』とは、木、火、土、金、水を指しています。それぞれに陰陽の二つの性質がありますので、5×2で10の属性があります。これを十干(じっかん)と言います。「つちのえ」「みずのと」みたいに表記します。これにおなじみ「ね、うし、とら、う……」の十二支を加えたのが『干支』です。干支になりますと十干と十二支をくっつけて「ひのえ  うま」みたいに表記します。どうしても十二支と干支をごっちゃにしがちですが、実は別物なんですね。
さらに付け加えると、十干は10年ごと、十二支は12年ごとと、それぞれが別サイクルに回っていくので、自分の生まれた年の干支(十二支+十干の組み合わせ)がもう一度やってくるのは60年後です。干支を一周して還ってくるとおめでたいのでお祝いします。これを『還暦』といいます。別に覚える必要はありません。


五行説の5つの元素に方角を当てると、木が東、火が南、土が中央、金が西、水が北にあたります。

東は太陽が昇ってくる位置なので、当然偉いです。生命が芽吹き『木』が生い茂る春のように素晴らしいので、序列1位です。麻雀では東が親かつ最初の場風で一番強いですね。
南は東ほど偉くはないですが、暖かくて過ごしやすいのでちょっと偉いです。暖かいといったら当然季節は夏。でも夏は『火』のように暑いので、序列は2位と一歩引きます。麻雀では南は次の親で、南場であれば場風になるので東に次いで強いですね。
中央は動くことはありません。『土』はどんな季節でも変わらないので序列は真ん中、3位です。麻雀でも中央は変わらないので、審判的な立ち位置でしょうか。
西は太陽が沈む方角であり可もなく不可もなくってところです。『金』になる穀物が収穫できる秋で、序列は3位です。麻雀だと、西場に突入すれば場風にもなるので北よりはマシなくらいですね。
北は寒いので論外です。『水』のように冷たい冬で、4位です。麻雀においても、北は一番安牌とみられますね。『北』という漢字は二人の人が背を向けている様を表しているみたいで、「敵に背を向けるから『敗北』」なんて言われるようで可哀想と思います。

大体うろ覚えですが、こんな感じだったはずです。これが東南西北の順番の理由になります。

ちなみに、東は木々の青、南は火の朱(あか)、西は金の白、北は深い水の玄(くろ)がイメージカラーになっていて、漫画やゲームでお馴染みの青龍、朱雀、白虎、玄武の『四神』のカラーに繋がります。どんな漫画やゲームでも、この『四神』が描かれる場面では、必ず彼らが対応している方角に配置されていることに気付くかもしれません。

仏陀が住んでいた城から初めて出た際、東から出たら老人が居て、南から出たら病人がいて、西から出たら死人がいて、うんざりしながら北から出たらバラモン教の僧にあって『生老病死』の四苦に触れ出家を決めたという有名なエピソードも、この東南西北に基づいています。


次に、東南西北の配置についてのお話です。
卓を囲っている状態をイメージすると分かりやすいですが、麻雀において方角は「反時計回りに東南西北」となります。
これは、北を上に向けますと、東が左側、西が右側となり実際の方角と逆になってしまいます。
ちょっとおかしな配置ですね。
この配置の理由は諸説あります。
「麻雀は神の遊びなので、天に映った状態を地上から見上げてルールを決めたからこうなった」とか「昔は方角が逆だった」とか「単純に間違えた」とかあるようですが、個人的に説得力があると思ったのは「時計回りに配置すると左手側に役職を譲る事(左遷)になって縁起が悪い」というものです。なるほど、と思いました。確かに、席や舞台も左が上位とされる場合が多いですからね。
他にも、「自分が北の席に座った時、右手側が東、左手側が西になるので実は正しい」というのもあるようでして、これがかなりややこしいのですが、つまりは「自分が向いている方向が、自分の風の方角」と考えると理解できるかと思われます。


最後に、東南西北が動く理由です。
麻雀は1局打つ度に東南西北が回ります。
恐らく、ターンプレイヤーが席ごと変わる数少ないゲームなんじゃないかと考えられます。
まぁ、実際に1局ごとにガタガタ席を変えていたら面倒なので、そこは人ではなく風を移動させることで簡略化させていますが、それでも変なルールです。

実は、今の日本のルールは『変座制』と呼ばれるもので、古代中国の麻雀には自風が変わらない『定座制』というルールがありました。
定座制とは、東家の後は南家が親、その後は西家が親、その後は北家が親をやって東風戦一回、というルールです。現在の『変座制』と同じに見えますが、自分の風は変わらないところが違います。つまり、東場においては東家はずっとダブ東、南場においては南家はずっとダブ南のままです。場風が自風の時は、親が一周するまでずっと一発逆転狙えて大変お得です。
しかし、このルールには致命的な欠点があります。
それは『一荘戦しか出来ない』というものです。
東風戦は東家だけ、半荘戦は東家と南家だけにしかダブル風が回ってこないことになるので、平等にするために必然的に場風が一回りする一荘戦のみになってしまいます。半荘戦でもかなり時間がかかるのに……。
って事で、日本に入ってくる頃には変座制が定着していたそうです。

それに、やっぱり『東=偉い=常に親』でありたいという想いも込められているかもしれません。


と言いますところで、今回のnoteはおしまいです。

『麻雀』とかけまして『洪水に飲まれた豚小屋』とときます。

その心は『あっというまにトンが流れていきます』

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