『サバイバルドキュメンタリー風番組』の話

YouTubeのディスカバリーチャンネルで、ベア・グリルスの『マンvsワイルド(日本名サバイバルゲーム)』を観るのが好きです。
この番組は、アメリカ特殊部隊出身のベア・グリルズが極限状態からの生還を目指す『サバイバルドキュメンタリー風番組』です。

舞台は、山頂、無人島、ジャングルや砂漠のど真ん中、廃墟の街など。スタート目的地まで飛行機や船で向かい、パラシュートを使ったり、時には使わずに飛び降りてサバイバルスタートです。
常人では1日生き残るのも困難な状況で、様々なサバイバル技術を実践しつつ紹介していきます。

持ち物は基本的にはナイフとバッグ、それに空の水筒のみ。後はすべて現地調達。パラシュートの紐も大切なアイテムです。
クリア目標はシンプルで、『人里まで帰還する事』。

ただキャンプを作って生き残るだけではなく、山を駆け下り、砂漠を横切り、川を下り、海を渡って人里を目指していきます。その過程で、『食料と飲み水をどう確保するか』『寝床はどう作るか』『暑さ、寒さをどう凌ぐか』といった特殊部隊仕込みの技術、知識がふんだんに注ぎ込まれていて、非常に味の濃い番組となっております。

先に申しておくと、この番組は『サバイバルドキュメンタリー風番組』です。事前にスタッフが現地をロケハンして撮影に適した場所を決め、撮影の時には複数のスタッフが帯同して安全を確保した上で行われています。日本でいうところの『藤岡弘、探検隊』です。とはいっても完全なやらせとも言い切れず、虫などのゲテモノは実際に口にしていますし、アクションのあるシーンでもスタントマンを使わずに撮影しています。一歩間違えれば大事故に繋がる事には変わりありませんし、ベア自身も数回病院送りになっているようです。

ベアの名言に、こういうものがあります。

『今回はダメでしたが、これがサバイバルです。勝つ時も負ける時もありますが、やり続けます』

この言葉はベア・グリルスという人間を端的に表している言葉です。生き残るため、更に先へと進むために、ひたすらにトライアンドエラーを繰り返し、失敗や苦難を前にしてもめげない。そんな頑なな意思を感じます。ちなみに、これはアリの巣をほじくり返しながらの発言でした。

自分がいつベア・グリルスを知ったのか、何がきっかけだったのかはもう覚えていません。ただ、なんとなく『サバイバルみたいなことがやりたい』と思いついて、動画やサイトを見て回っていた時期があったので、その時に知ったのではないかと推測されます。ナイフ一本で火を付けるやり方と、雪山でクレバスに落ちた時の生還方法と、灯りの無い洞窟を進んでいく方法はベア・グリルスに学びました。後、虫の幼虫は食べられますが、成虫はギ酸があるので食べられないという事も。


昔から、知的好奇心を満たしてくれるものが大好きでした。怠け者で努力嫌い、でも好奇心は人一倍ある少年でしたし、それは今も全く変わりありません。UFOやUMAを題材にしたオカルト番組はテレビに噛り付いて観ていました。もちろん、いきなり黄金伝説の濱口優の回は毎週欠かす事はありませんでした。そんな自分にとってyoutubeというものは、一つの画期的な発明品です。検索窓に知りたい言葉を入力すれば、そのワードにまつわるプロフェッショナルな動画を観る事が出来ます。サバイバル然り、釣り然り。無いもの以外はなんでもあります。

その代わり、といっていいのか、テレビは全く観なくなりました。youtubeが魅力的すぎるのか、テレビが昔ほど知的好奇心を満たしてくれるものでは無くなってしまったのか、その判断は容易ではありません。しかしながら、昔ほどテレビを観る必然性が無くなったのはひとつの事実であると思います。

また、現代のテレビにおける『コンプライアンスとリアリティの境界』が昔と変わったのも大きいかな、とも考えています。つまり、リアルさを求めると安全性が担保出来ない、という事です。

例えば、『心霊番組』と企画したとします。昔であれば、霊能力者と一緒に心霊スポットを巡って……というのがお約束だったと思いますが、現在ではそう簡単にはいきません。なぜなら、心霊スポットという場所は基本的に暗く、霊以外にも、人や獣に遭遇する可能性があり、安全性が担保出来ないからです。安全でない場所にタレントを連れていくと、コンプライアンス的にNGとなってしまう。そうなると困る。解決方法の一つとしては、事前にスタッフが先回りして進行ルートの安全性を確保してから、撮影班が安全になったルートをなぞっていく手法があるかもしれない。しかし、その場合は冒頭に『スタッフが安全を確認済みです』とアナウンスしなければならず、そんな拍子抜けした心霊番組も面白くありません。だったら、最初から心霊スポットには行かず、スタジオで投稿動画を垂れ流しにした方が良い、となってしまうわけです。それが、今の味の薄い『心霊バラエティー番組』を作り出しているのかなと、私は思います。


youtubeも過渡期を過ぎ、世間に浸透してきました。業界も大きくなってきて、そこに属するyoutuberも何かとコンプライアンス遵守を求められるようになってきました。確かに安全第一は大切です。でも、安全ばかりを求められすぎていないかと疑問に思う事もあります。なんというか、どんどんテレビのバラエティー番組と遜色が無くなってきているようにみえて、『テレビがつまらなくてyoutube観てるのに、なぜテレビの焼き回しみたいなのを観るのか』と思える事もあります。

かといえば、逆に登録者数の少ないチャンネルは、他から抜きんでるために無謀なことをしてみたり、炎上を狙ってみたりしているのもあって、これも面白いものではない。

こうして今のyoutubeを鑑みた上でベア・グリルズの『サバイバルゲーム』を観てみると、『サバイバルバラエティー番組』とならず、ちゃんと『サバイバルドキュメンタリー風番組』として完成されていて、非常にバランスが良いと気付きます。安全を求めすぎず、危険を冒しすぎず、ベアの技術、知識とスタッフのバックアップとが『ちょうど面白い危なさ』を演出しているのかなと分析できます。

『安全と分かり切ったものは面白くない』と私は思います。逆を言えば、『面白いものは少量の危険が含まれている』という事です。今のご時世は、この『少量の危険』を過度に排除しているように私には思います。このままでは、世の中のエンターテインメントから危険が完全に取り除かれて、塩気の無いパスタのようになってしまうのではないかと私は勝手に危惧しております。

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