『いみいみ』10月29日15:00の回のご感想

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冒頭。白いドレスの少女が、冷たいコンクリートの床に素足で立った。床は冷たくないのだろうか。足の裏は痛くないのだろうか。そんなことを考えていると、やおら、少女が、天井とか、壁とか、床を見つめつつ、それらの名前を2度づつ繰り返し始めたので、戸惑う。な、なんなんだこれは、不条理劇か? ゴドーを待っているのか? このまま、1時間、この調子で続くのか? これは耐えられないかも。そんな不安を知ってかしらでか、少女のつぶやきは、街のショーウインドーや、ホテルへと視野を拡大、移動させてゆきます。やれやれ。なんとなく、ストーリーが始まりそうだぞ。

それにしても、彼女は、何を言わんとしているのかしら? セリフの断片を脳内でつなぎ合わせながら、何とか意味を見出そうと悪戦苦闘する私。そんなおっさんの努力を嘲笑うかのように、少女の声は、ある種の精神疾患患者の妄想のように、取り留めなく、続いてゆきます。繰り返されるコンビニのモチーフ。姉の家のバーベキューパーティーの風景。ホテルの情景。

気づけば、少女は、上海雑技団の踊り子のように、重ねた椅子の上によじ登り、不安定な頂で、苦悶の表情を浮かべています。重ねた椅子が崩れ落ちそうで、崩れない。これは、少女の心象風景なのか。

気がつけば、少女が泣いている。滴り落ちるのは、涙なのか、鼻水なのか。あっ、少女が椅子をかんだ。少女が照明を触って、ライトを点灯させた。

そして、少女は深々と頭を下げた。

幕が降りたようだ。

劇場を出て、連れの女性と近くのカフェに向かう途中、私はおそるおそる聞いてみた。

「どうだった?」

すると彼女は、「男には分からないでしょうね」と、意味ありげに笑い、「私はお芝居を見てて、辛くなった。胸がヒリヒリして」。彼女が眉を顰める。

どうやら、彼女は、事前にネット検索して、主演女優のプロフィールを読んで予習をしていたようだ。だから、女優の過去の体験と、今日の演技を重ねて見ていたのだ。その話を聞き、私もようやく腑に落ちた。

私が、推理小説の謎が解けたような快感をかみしめていると、彼女は、「私と彼女(女優)は、世代が20歳以上違うけれど、女性の立場が昔も今も、変わっていないことを痛感した」と、何やら朝日新聞の読者的な社会派コメントを付け加えてくれました。

これを聞いた私が「そうかー、それじやあ、男の僕には分からなくても仕方ないなー」と、呑気な返事をすると、すかさず、彼女に「だから、いつまでたっても、女性の立場が変わらないのよ! 想像すれば、わかるでしょ」と怒られてしまった。

しかし、あえて言いたい。この芝居を男に見せる上で、事前に、なんらかの予備知識を与えておくことを勧めたい。例えば、私の連れの彼女が事前にネットで読んだ、地方紙のインタビュー記事のような。あるいは、第三舞台の芝居が始まる前に、決まって観客に配られる、鴻上尚史直筆の「ごあいさつ」のような情報を。ネタバレにならない程度に、女性がか抱える痛みを、愚鈍な男どもに想像させる、よすがを与えてやってほしいのです。

でないと、私のように、この芝居はコンビニ店員の非正規雇用の悲哀を描いたものなのか?とか、男に弄ばれ、婚期が遅れた女の妄執なのか?とか、誤った読み取り方をする愚か者が出てくるかもしれません。

と、ここまで書いてきて、ふと気がついた。あっ、そうか。この、芝居を観にくる客の大半は、女優のバックボーンを熟知し、この女優が何を志向しているかを期待して観にくる者たちなのだ!と。私のように、映画や芝居を何の予備知識もなく楽しみにくる物好きはいないのだ!!と。

小劇団の営業戦略として、おそらくそれは間違っていないのかもしれません。ただ、真っさらな頭と心で芝居を観にきた愚鈍な男としては、少しでいいので、最初にヒントがほしかったです。

長々とすいません。芝居の意図は誤読してしまいましたが、演技は良かったです。連れの彼女は絶賛していましたので、念のため。あと数日、頑張ってください。

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