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Integrate

2020年7月16日 午後13時

 26年前のこの時間、私は、一人暮らしを始めた大阪のアパートからほど近い、お気に入りの中堅都市ホテルで、結婚式を挙げた。あの時の高揚感。喜び。満面の笑顔。余興の楽しさ...会社や大学や高校や親戚やら、たくさんの人々がお祝いに駆けつけてくれた。もう、真夏だった。

 というのに、今日、私は、一人暮らしを始めた東京のアパートからほど近い、駅前の高層ビルにある公共機関の"フェミニストカウンセラー"の前で涙を流していた。

 人前で泣いたのは、いつぶりか。東日本大震災の直前、中二の息子が学校を休むことが多くなり、悩み果て、ママ友に教えてもらって予約を取り、出会ったスクールカウンセラーの前以来だから、9年くらいか。あのときは「お母さん、大変だったね。よくがんばったね」と言われて、思わず、泣いてしまったのだ。

 今回も泣くとは思っていなかった。しかし、簡単に涙を流していた。5月5日の"子どもの日"に父が亡くなったときも泣いていないというのに。

 今年3月、3人の子どものうちの末っ子がついに成人し、東京は新型コロナウィルスの感染者が今日も200人を超え、最大となった。西新宿の超高層ビルにある職場には2月14日のバレンタインデーに京王線の駅名チョコを渡してから、一度も出社していない。完全テレワークで成り立つ仕事。

「寂しかったのね」そう言われ、テーブルにすでに置いてあったティッシュをとり、うなづくしかなかった。ここでは、ティッシュがよく使われるのだろう。

 泣いた後、隣のスーパーの立体駐車場に停めた車の駐車場代を払うのがもったいないので、結婚記念日くらい、自分のものを買おうと、スーパーの化粧品売り場で、夏用ファンデーションとアイブロウペンシルを鷲掴みにして、レジに向かった。一番高い、小松菜奈ちゃんが宣伝してるやつだったが、それでも3000円くらいしかかからなかった。

 泣いたら少しすっきりして、近所に見つけておいた、雰囲気のよさそうな整骨院に行ってみた。新型コロナウィルスのせいで、院はすごくすいていて、若い副院長先生の指は女性のようにきれいで、繊細で丁寧だった。お互いの顔はマスクをしているのでよく見えなかった。(眼鏡を外しているので、よけいに)。私は気持ちが落ちつき、ずっとここで眠っていたいと思った。

ps,
化粧品の名前である「integrate」をGoogle翻訳で調べてみたら「統合」と出た。驚いた。大学時代に心理学を学び、卒論にも書いた女性の精神的発達について、私が求めていた言葉がそこにあったから。

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