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自販機コーヒーという魔法のコーヒー

 90年代の半ば、ソウルは新村の下宿に暮らし、外国人や在日コリアンといった海外在住の韓国人を対象に韓国語を教える韓国語学堂に通っていた。

 語学堂の授業はお昼で終わり、昼食を済ませた後の午後からは、その語学堂の母体である大学の図書館で勉強するのが日課だった。

 図書館で長い間勉強していると、やはり疲れてくる。休憩するために席を外し、自動販売機でコーヒーを買って飲んだ。

 そのコーヒーは缶コーヒーではない。また自販機で一杯づつ豆を挽き、ドリップした、今の日本にあるようなレギュラーコーヒーなんかでもない。時代は90年代半ばのソウルである。

 ではどんなコーヒーかというと、ただ砂糖のあまさが際立つク〇ープのような粉ミルク入りのインスタントコーヒーなのだ。日本で子どもがよく飲む、とてもあまい、冷たいコーヒー牛乳がありますね。あれを「ホット」にしたといえば、分かってもらえるかしら。

 そんなコーヒーなんぞ、大人には美味しくなさそうに思われるだろうが、これが疲れている時には、すばらしく美味しいのだ。一息つけるのだ。魔法のコーヒーと呼びたいほどである。当時、韓国でコーヒーといえば、それがふつうだった。レギュラーコーヒーは、お店で味わうものだった。

 ところで、そんなあまいコーヒーが美味しく感じる時がまだある。

 それは食後である。韓国料理は何かと辛かったり、味が濃かったりするような料理が多くある。そんな料理を食べた後は、日本のようにお茶を飲むよりも、あまいコーヒーのほうが合うのだ。

 現にちょっと高級な料理屋には、あまいコーヒーを飲むための自販機があり、大概は無料あるいは格安で飲める場合が多い。

 日本とおなじく、今の韓国はレギュラーコーヒーを飲むのが当たり前になったようだが、食後のコーヒーは、果たしてどんなコーヒーを飲んでいるのだろうか。確かめてみたい気がする。


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