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【カルデア猫食堂】間違いだらけのショートケーキ

 カルデアの食堂はスイーツも充実。でも、その日その時、誰がいるかは運次第。
 赤い弓兵は大当たり。和菓子洋菓子何でもござれ。
 二人組の少女はパンケーキ専門。形は変でもボリューム満点。
 狂気のケモノはサブチーフ。お菓子の腕も確かだが……?
 
 
 ああ、私は一体何を間違えたのかしら。
 午後三時過ぎ。ティータイム。カルデアの食堂で私は考える。
 テーブルの向かいには忌々しい白い聖女。二人して注文した品を待っている。
 この時間帯の食堂は、甘いものを求めるサーヴァントで混み合っている。やはり、と言うべきか、客層は女性が多い。物語に語られるような美しさの彼女たちが集うと、こんな簡素な食堂も華やいで見える。真っ黒な私は誰が見ても場違いだろう。
 どうしてこんな目にあっているのかしら。一体私が何を間違えたというのかしら。
 
 ことの始まりは十五分ほど前。あまりにも暇だったのでカルデア内を散歩していたところ、食堂の前で聖女様に出くわした。この姉気取りのいけ好かない聖女は、ろくでもないことを思いついた顔をして声をかけてくると、そのまま私を食堂に引きずり込み、ここに座らせた。まあ、あまりにも暇だったので大した抵抗をしなかったのは確かですが、そもそもそれが間違いだったのでしょう。
 
 そして着席した私たちの前に現れたのは、これまた間違いの権化のようなメイド猫。……こいつ、猫でいいのよね?
「おや、白黒聖女。いらっしゃいませだワン」
「こんにちは。キャットさん」
「ちょっと、ひとまとめにしないでくれるかしら?」
「現在我らが食堂は第一種ティータイム配備即ちデフコンワン。ケーキの貯蔵は十分だぞ!」
「はーあ、ティータイムだのケーキだの。今だって人理の危機でしょうに呑気なものよね。ていうか! 無視するんじゃないわよ!」
「今日はどんなケーキがありますか?」
「ふむ、今日はだな、チーズケーキ」
「地味ね」
「季節のフルーツタルト」
「ごちゃごちゃし過ぎでしょ」
「ザッハトルテ」
「真っ黒で薄気味悪い」
「苺のショートケーキ」
「ふーん……」
「……」
「……」
「……ちょっと、なんで二人そろってこっちを見るんです?」
「いえ、なんでもありません」
「うむ、なんでもないぞ。とにかく今日のケーキは以上だお客様!」
「えっと、じゃあ私はコーヒーとザッハトルテを。オルタは」
「あー……いち……いえ、コーヒーだけで結構よ」
「あいわかった。コーヒーふたつにザッハトルテをひとつだな」
「私はコーヒーだけだからね! 間違えるんじゃないわよ!」
「わかったわかった」
「絶対に間違えるんじゃないわよ!」
「うむうむ。良きにはからう故、キャットに万事お任せするがよい」
 
 
 そして今に至る、と。何これ。思い返すと頭からつま先まで何もかもが間違いじゃないの。
「不安だわ……」
「まあまあ。あれでキャットさんは頼りになる方ですよ」
「おめでたいわね、聖女様は。あいつ、しょっちゅう注文間違えるのよ」
「待たせたな!」
「ほら、来ましたよ」
「フン」
「白い聖女には、コーヒーとザッハトルテ」
「ありがとうございます」
「黒い聖女には、コーヒーと苺のショートケーキ」
「私、ケーキは頼んでないんだけど?」
「おや? 間違えたかな?」
「アンタいっつも間違えてない⁉︎」
「そう怒るでない黒聖女。コウボウエラーズというではないか」
「それも何かが間違ってないかしら⁉︎ ……えー……ところで……このショートケーキですが……」
「コマッタナー。いまさら他の客に出すわけにもいかぬナー。誰か食べてくれると助かるナー。いかがか?」
 そろりと差し出されたケーキ皿。流石に廃棄されるのは忍びないので、仕方なく受け取ることにした。
「そっ……そういうことなら仕方ありませんね! ええ、仕方ありません!」
「一件落着だな。それでは貴様らごゆっくりするがよい!」
「キャットさん」
 何故か知らないがにこにこと笑みを浮かべて成り行きを見守っていた聖女様が、タマモキャットを呼び止める。
「なんだ白聖女よ」
「あの……ありがとうございます」
 間違いだらけの猫メイドは、ニシシと笑うと尻尾と手を振りながら厨房へと戻っていった。
「ほうらね、やっぱり間違えたじゃない、あの猫」
「そうね。オルタの言うとおりだったわね」
 
 
 間違いでやってきた苺のショートケーキ。白い生クリーム、ふわふわのスポンジ、赤い苺。どこをとっても可愛らしくて、まるでどこかの白い聖女のよう。私にはちっとも似合わない。こんなのを私が食べるなんて、どう考えても間違っている。でも、ええ、今日は何もかもが間違っているのだから……そんな間違いがひとつ増えても、それは仕方のないことでしょう。
 
 そして、……うん、てっぺんの苺は最後にとっておきましょう。

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